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115本行った中から選ぶ!ハッとさせらた美術展ランキング2025 TOP10~6
はじめに
2024年、私は1年で115の展覧会を訪れました。計算上は大体3日に1本ペースで展示を見に行ったことになります。
週5で働く会社員の自分が115本いくのは大変で、何で誰からも頼まれていないのに、こんなことをしているのだろう、と思うこともしばしばでした。それでも見に行き続けたのは、自分が思いつきもしないようなハッとさせられる作品、展覧会にたびたび出会えたからです。
せっかくなので、その面白かった展示を紹介したい、というのがこの記事を書いた理由の1つです。そしてもう1つの理由は、去年美術展をめぐる中で感じた危機感にあります。
そんなに熱心に通っていたわけではなかったですが、昨年末に発表されたDIC川村記念美術館のダウンサイジング、リロケーションのニュースは、いち美術ファンとしてショックでした。
(それらを否定するつもりは毛頭ないですが)「○○美術館展」とか、モネとかゴッホのような誰もが知る作家の作品を集めたブロックバスター系の展示には人が集まるのに、そうしたビッグネームを冠していない展示は面白くても客入りが寂しいことがあり、とてもモヤモヤしていました。
第2のDIC川村記念美術館のようなところが生まれて欲しくない、もっと美術館、美術展に足を運ぶ人が増えて欲しい、というのがこの記事を書いた理由の2つ目です。
ここで触れている展示はすべて終了してしまっていますが、ぜひ紹介している作家さんや美術館の名前を覚えていただいて、次の美術館選びの参考にしていただければ幸いです。
前置きが長くなりましたが、それでは10位から発表します!
10位 日比谷図書文化館 特別展「しりあがりさんとタイムトラブル 江戸×東京」(日比谷図書館)
#日比谷図書文化館 で開催中の #特別展「#しりあがりさんとタイムトラブル 江戸×東京」が始まって1か月になってきました。
— 日比谷図書文化館 (@HibiyaConcierge) May 24, 2024
初めて観る方は新発見が、一度 観た方はさらに味わい深く😊
ご鑑賞の際にはこんなところでぜひ記念の一枚を📸
シャッターを押すと #タイムトラベル してしまうかも……。 pic.twitter.com/DH9xiwuXdU
10位は、ギャグマンガや不条理マンガでお馴染みのしりあがり寿氏による北斎パロディ作品の展覧会です。
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北斎の原作と、しりあがり氏のパロディ作品が並べて置いてあるので見比べられるのが面白い!いかに元の作品からずらしていくか、まるで大喜利番組を見ているように楽しめました。
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パロったしりあがり氏の作品がヘンで面白いのは当然として、よく見ると北斎の原作も結構ヘンだなと気づいたのが収穫でした。
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9位 豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表(東京都現代美術館)
本日12/9(土)、#東京都現代美術館 で「豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表」展が開幕!
— 東京都現代美術館 (@MOT_art_museum) December 9, 2023
「MOTアニュアル2023 シナジー、創造と生成のあいだ」展、MOTコレクション展とあわせて、皆様のご来館をお待ちしております。https://t.co/oFLOZKcm4b pic.twitter.com/gXUTKKDsPn
9位は、私たちを取り巻く制度や、身の回りの道具が持つ機能を逸脱させることでアートに昇華する作家・豊嶋康子さんの回顧展。
2024年は女性作家を再評価するような回顧展がいくつも開かれた1年でしたが、そのなかでも豊嶋康子展は特に印象深い展覧会でした。
ではどんな作品を作っているのかというと……
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2色色鉛筆を中央から削ってみたり……。
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マークシートのマーク「以外」の部分を黒く塗りつぶしたり……
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そろばんを繋げて展示室を1周したり……
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分度器や三角定規をオーブンで溶かして変形させたりするなど、身近なものを使ってカオスなことをする作家さんでした。発想が面白いというか、思いついても普通はやらないことをやってしまうところが凄いです。
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ビックリしたのは1,000円で銀行口座を開設し、キャッシュカードが届いたらその1,000円を引き出して別の口座を開設する、ということをひたすら繰り返す「口座開設」という作品。
他にも保険制度を取り込んだ作品などもあったのですが、個人情報とか自分の生活までをもアートに昇華する姿勢にはハッとさせられました。去年見た中ではトップクラスに体を張ったアートだったなと思います。
8位 三島喜美代―未来への記憶(練馬区立美術館)
【7月7日まで|#三島喜美代展】
— 練馬区立美術館 (@nerima_museum) June 26, 2024
「三島喜美代ー未来への記憶」展、閉幕まで残り10日となりました!初期から現在まで、三島さんの作品が一堂に介します!本展覧会は巡回いたしませんので、この機会をお見逃しなく!詳細はURLから✨(月曜日は閉館日ですのでご注意ください) pic.twitter.com/m30IInUhFS
8位は、会期中に92歳で亡くなった現代アート作家・三島喜美代さんの都内の美術館では初の個展。森美術館のアナザーエナジー展とか、三島さんの作品を見る機会は何回かあったので、少々意外に感じました。
展示としては初期の絵画作品から、代表作の陶でできたシルクスクリーン作品までキャリア全体を振り返る回顧展形式。
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セザンヌ風の静物画とか、三島さんらしさが確立される前の作品が色々見られて興味深かったですが、そんな初期作品の中でも特に印象的だったのがコラージュ作品。
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自分が過去美術館で見てきた他の作家のコラージュ作品は、何らかの不穏さや馬鹿馬鹿しさ、皮肉っぽさのようなものを感じることが多かったのですが、三島さんのそれは少し違っていました。紙の切り方、破り方、色の塗り方などがオシャレでカッコいい!
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シルクスクリーン作品も、転写するときの色に色を変えたり、反復したり、カラフルかつリズミカルで目が楽しかったです。
そして三島さんの代表作である陶で作った新聞、雑誌、段ボール箱は何度見ても新鮮にビックリ。
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全体的に質感が良く、水に濡れたり、衝撃が加わったりしてしわしわになったり、ひしゃげたりしている表現が巧みで唸ってしまいました。
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晩年まで長きに渡り現役のアーティストとして作品を発表していた三島さんのエネルギッシュさにやられてしまった展示でした。
7位 円空―旅して、彫って、祈って―(あべのハルカス美術館)
7位は、江戸時代に修行僧として日本各地を回りながら、神仏を掘り続けた円空の個展。
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普段は行かないんです。仏像展。正直どうやって楽しめば良いのかわからなくて。でも円空仏は別です。
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円空仏の良さって何だろうと考えると、(もちろんちゃんと作っているとは思うのですが)ヘタウマというか、、脱力系の緩さにあると自分は思っています。
仏像って金属でできていて、冷たくて、いかつかったり、厳かだったりして近寄りがたい存在、みたいなイメージが自分の中にはあります。でも円空仏は木彫りだし、顔を見ると口元がフニャフニャしていて眠そうだったり、なよっとしたりしていて思わず可愛い!と言いたくなる見た目。
乱暴なことを言うと、仏像というより、トーテムポールとかマウイ像の方を見ている時の気持ちに近い気がします。
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左右非対称で歪んでいたり、顔だけ作って全身は作らず裏に回ってみるとほぼ木のままみたいなのがあったり、そのデタラメさ、いい加減さが笑えるし、親しみが湧くのです。そんな仏像は円空仏ぐらいじゃないでしょうか。
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ある程度何を表しているのかわかるものもあれば、これは一体……宇宙人?というような仏像もあり、突っ込みながら展示室を回ったのが良い思い出です。
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出品リストを見てみると、日本全国津々浦々のお寺から作品を借りていて、よくこれだけの数集めてきたな!とそれもビックリ。
6位 SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット(ワタリウム美術館)
「SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット」本日も開館しています!
— ワタリウム美術館, WATARI-UM, (@watarium) August 18, 2024
明日8.19(月)は休館日です。
SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット
会期: 12.8(日)まで
開館時間: 11:00-19:00
休館日: 月曜 pic.twitter.com/EDkfAlOeTx
6位は、路上や公共空間を舞台に作品を制作するアートコレクティブSIDE COREの個展。
ストリートアートだと、例えばバンクシーとか、バスキアとかペインティングやスプレーを使ったグラフィティをやる人が多いイメージなのですが、SIDE COREは映像作品やインスタレーション作品を結構作っているのが特徴かなと思います。
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これまでSIDE COREはワタリウム美術館をはじめとして、森美術館や横浜美術館など色々な場所で目にする機会がありましたが、こうしてまとまった形で作品を見るのは初めて。開催が発表されてからとても楽しみにしていた展覧会でした。
展示室に入ってみると、ガシャンガシャンと大きな音をたてながらパイプの中を玉が転がっていくインスタレーションがあったり
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古いトンネルによくあるナトリウムランプに照らされる部屋があったり
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ベタベタとピクトグラムのステッカー(?)が貼られたボードがクルクル回転していたり、SIDE COREらしさ全開の展示空間が広がっていてただただ楽しかったです。
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でもこの展示が自分の中でベスト10に入ったのは、ただ面白かったからというだけではありません。
それは「Untitled」と「Under city」という2つの作品が記憶に残ったから。前者は羽田空港近くの全く掃除されていないトンネルに自分の体を押し付けながら歩くと、みるみる白Tシャツが煤まみれになっていくという作品。
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後者は貯水池や駐車場など東京の地下空間を、投光器を背負ったスケーターたちがスケボーで滑走する映像作品。
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以前『WORKSIGHT』という雑誌でスケーターは滑ることで都市を批評しているという趣旨の記事を読んだことがあったのですが、今回の展示を見ていてSIDE COREにもそれを感じたのです。
高速道路の脇の通路や地下空間は、通常、人が歩く場所ではないわけですが、SIDE COREはそこを舞台に映像を撮影することでそこに新たな価値を加えているように思うのです。これまではちょっと尖ったカッコいい映像を撮る人たち、というような認識でいたのですが、この展示を境に改まりました。
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5~1位は次の記事に続きます。