■9 川を越えていく(4)
「連絡来た?」
隣の席の水田から聞かれた。
「まだこないですけど、水田さんは?」
「私もまだなのよ」
浮かない表情で水田は答えた。
この時期、同じように人事異動の希望を出した者はソワソワしている。水田も同様だった。
「あそこの課は、面接日の連絡があったそうよ。私たちの課だけ、遅いみたい。やあね、落ち着かないわ」
うん、と私は頷くと、それぞれ仕事に戻った。
この間の第2志望先の面接結果はまだこない。第1志望の面接日もまだ決まらない。私は落ち着かない日々を送っている。
噂が飛び交う。あまり聞きたくないが水田は顔が広く、自然と彼女の元へ情報が集まってくる。それをチラホラ隣で聞くことになるのだが、焦る一方でドキドキする。なんでそんなことまで知ってるの?という内容も多い。女性って怖いな、そう思ったりもする。私も女性だけれども。
仕事帰りにロッカー室で水田と一緒になった。暗い顔をしている。
「どうしたんですか?」と聞く。
「実はね、やっぱり、私だけ面接会場が本社みたいなの。みんなは支店だから大丈夫よ」そう水田は答えた。
本社での面接ということは、本社への異動の可能性が高いということだ。水田の希望は支店の違う部署だ。本社ではない。もうここでなんとなく人事の筋書きが垣間見えたようで、落胆している水田になんの言葉もかけてあげられなかった。
急いで帰る振りをして、ロッカー室を足早に出た。私はもしかしたら、自分の希望通りの人事異動が叶うかもしれないな、そんなことを期待しながら、春風が吹く夕闇へ消えていった。
(少しフィクションの入ったノンフィクションです)
(でも、ただの日記ですので~笑)
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