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176. Seitengrat/その夏と秋の間に⑥

ある夏の日のお話
(ほぼノンフィクション)です。
日記を小説風に書いています。


14.振り返る

ぐんぐん登る。ペースを落とさず、テンション落とさず、登る。あんなにゆっくりだったのに、なんだかんだで峠道の最終盤に近づいていった。まだまだワクワク感は変わらず、辛いながらも登山を楽しめている灯だった。

振り返ると山道、景色を見れば山々が見える。前方を見れば、樹林帯の木道が伸びている。とても清々しく、山々に抱かれているように感じて、登山でしか味わえない何とも言えぬ幸福感に浸った。

灯はひとりニコニコしながら「あと少し、もう少し」と自分で自分を励ましながら、痛みの走る肩に手をやって、前進し続けていった。

15. あれ?

程なくすると、やや平坦なエリアに差し掛かり、遠くにベンチがみえた。見た事のある、看板も掛かっており、峠道のてっぺんまでたどり着いた事を知った。

峠のそのベンチには、どこかで見た事のあるような青い服を着た男性がいる…。あれ?何度も目を凝らして見た。メガネがないので、ぼんやりとしか見えない。もう少し歩いて近寄ってみることにした。

あ、青い服の男性がこちらを見ている。

・・・

灯は、驚いて声が出ない。口をあんぐり開けて、その青い服の男性に近づいていった。

「あ~、やっぱり(笑)」灯は笑いが止まらない。その青い服の男性は、立ち上がってこちらへ向かってきた。

16. 青い服のその人

その人は灯の彼だった。大きな身体でたくましい。優しい彼だ。心配していたのだろう。灯が峠越えするタイミングを図って、何も言わずに途中まで迎えにきてくれていた。彼は先に現地入りしていて、今日はソロで別ルートの探索に行っていると灯は思っていた。テント場近くのヒュッテ辺りで夕方待ち合わせしよう、と言っていたので、まさか途中まで迎えにきてくれていたなんて、嬉しくて嬉しくて彼のお迎えを心から小躍りするかのように喜んだのだった。

急にホッとして力がするするすると抜けていった。

次で終わらせます。自分で言うのもなんですが、ながっ。www

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