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エヴァンゲリオン総括②〜ビジネス面から見る新劇・旧劇シリーズの違いと新劇場版シリーズ始動のバックグラウンド〜
前記事では、エヴァンゲリオンの旧シリーズについて語ったので、
いよいよ新劇場版シリーズについて語ろうと思う。
旧シリーズと新シリーズの違い
さて、旧シリーズと新シリーズの違いとして大きいのは何だろうか?
人によっては「画質」「キャラクター」「ストーリー」あるいは「スタッフ」等色々あるだろう。
セルアニメかデジタルかの違いは勿論大きい。
それらの要素もあるだろうけど、僕が注目する新・旧シリーズの大きな違いは
新劇場版を作るにあたって、あの庵野秀明監督が会社を立ち上げ、社長になった。
ということだ。
旧シリーズは庵野監督はガイナックスという会社で社員として作っていたけど、新シリーズからはカラーという会社を立ち上げて社長として作った。
つまり旧シリーズは純粋にクリエイターとして作品を作り、新シリーズはクリエイターであると同時に経営者として作品を作った、というのが大きい。
さらに新シリーズからはほぼ完全自主制作として作品を作っている。
このメリットとして、制作にあたってスポンサーを募らず自社出資の分、クリエイターが自由に、
また、版権ビジネス(関連本、フィギュア、プラモ等のグッズ関係全般)に関して制作会社が権利を持つことで、グッズ等の利益が直接制作会社に還元されることになった。
ここで補足説明しておくと、旧シリーズはアニメ業界において今も続く悪名高き製作委員会方式で作られている。
今もアニメ業界を苦しめる製作委員会方式
今ではかなりメジャーな制作体系だけど、これは当時、エヴァを作る資金がなかなか集められなかった際、プロデューサーの大月俊倫が生み出したある種画期的なシステムだ。
(当然、実は新世紀エヴァンゲリオンは製作委員会方式で作られた初めてのTVアニメでもある。)
この方式では従来とは異なり、主軸となるスポンサーを募るのではなく、多方面、多数募ることで失敗した際のスポンサー側のリスクを分散できるメリットがあるのだけど
何が問題かというと、2つある。
1つは、分散していようが多数のスポンサーが関わりリスクを負っている分、スポンサーの取り分が大きく、版権ビジネスの権利はほぼスポンサー側にある。
そのため、作品が当たっても制作会社にはほぼ利益が入って来ず、グッズ等の利益はスポンサーがぶんどれること。
また、2つめは、多数のスポンサーがいる分、それぞれの意向を作品に反映しなくてはならなくなることにあった。
つまり制作側としては苦肉の策、なんとか資金を集めるために最大限スポンサー側に譲歩した方式だった。
ただ、スポンサーにはローリスクハイリターンというかなり美味しいものなので、アニメ業界では皮肉にも主流になってしまった。
このことがアニメの粗製濫造を招くことになり、庵野監督は後悔すらしたのはまた別の話。
この製作委員会方式が流行り出すと、当然、制作会社にさらに利益が回ってこなくなり、結果、よりアニメーターの給料は減ってしまい、現在でもアニメ業界のブラック気質は全く変わっていない。
(なお、余談だけど、この製作委員会方式は作中の団体名が代わりに使われることがある。
たとえば涼宮ハルヒシリーズならSOS団。
シャレのつもりだろうけど内情を知るとむしろホラー。)
これだけ世界に誇れる日本の文化になっているにも関わらず、政府はこの状況を改善しようと大して動かず、また、ヲタク達も自分達を楽しませてくれるアニメーター達の待遇改善のために行動を起こさない。
実に不思議なことだ。
旧エヴァを作った際、おもちゃ会社等の要望に悩まされ、また、本来の1番の功労者であるスタッフサイドがなかなかその大ヒットの恩恵を受けられず
代わりにスポンサー企業がボロ儲けしているのを苦々しく思っていた庵野監督は、スタッフにも十分利益が回るよう、また、自由に作品を制作できるよう新会社を立ち上げての自主制作に踏み切ったのだった。
(また、新会社立ち上げの資金には、パチンコのエヴァンゲリオンシリーズのヒットによる新規層の開拓による利益もかなり大きいとか)
その点、作品作りだけではなく、その利益をいかにスタッフに分配するか、作品作りの環境まで考えるようになった庵野監督を「大人になった」と評価する向きも当然あるけど、
果たして「大人になる」ということはクリエイターにとっていいことばかりなのか。
シンエヴァは確かにある種綺麗に終わった。ファンが長年求めていたハッピーエンドが見れたと言ってもいいかもしれない。
が、やはり観客のワガママなんだけど、旧劇のあの「気持ち悪い」ほどの鮮烈な衝撃はない。
よくも悪くも新シリーズはアートというよりビジネスの側面が強い、と思っている。
庵野監督がエヴァをやり直した理由
さて、新劇場版を制作にあたって、監督は所信表明文を広告ポスターとして出した。
そこに書かれていたのは、「エヴァ以降、エヴァより新しいアニメはなかった」との挑戦的な文。
確かにエヴァより世間に衝撃と興奮を世間に与えた作品は2007年までにおいてなかったし、見方によっては、あの衝撃を越える作品は2024年の今も確かにない。
しかしながら、庵野監督が所信表明には書くことのなかった、けれど周知の事実がある。
それは、庵野監督が旧エヴァ以降、クリエイターとして上手くいかなかった事だ。
旧エヴァ後すぐに取りかかった実写映画のラブ&ポップや式日は芸術性や評価は高いもののヒットはせず(ちなみに前者には今や大女優の仲間由紀恵が出演している)、実写版のキューティーハニーは制作会社が倒産するほどの大コケをしてしまった。
全国何百館と大規模公開したもののわずか3億円程度しか稼げなかった。
そして当時クリエイターとして崖っぷちに追いこまれていた庵野監督は、エヴァをもう一度やるしかなくなっていたのだ。
エヴァをやり直すにあたって、スタジオジブリの名プロデューサー鈴木敏夫は監督に聞いた。
「今更エヴァなんてやらなくていいじゃん。新作やりなよ」と
すると監督はこう答えたという。
「鈴木さんは何もわかってない。もう僕にはエヴァ以外はやらせてもらえない」と。
自分よりはるか年上のしかも国民的プロデューサーに「何もわかってない」と言い放てるとは、彼ら2人の親交の深さと庵野監督の大胆さが感じられるエピソードだ。
こうなると所信表明文は事情がわかっている人にとっては失笑モノでもあるのだけど、同時に監督としての覚悟も感じられる。
かくして新劇場版シリーズは始まった。
次回以降内容について語ろうと思う。
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