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短篇小説(連載)忘却の文治

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定年後10年を過ぎた文治という男が、時には一人旅をしていた。その旅行先での事件や、妻の和子と一緒に沖縄旅行の際、事前に御徒町で買ったダイヤの指輪を忘れてしまう。 文治が旅立ったあ…
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記事一覧

短篇小説(連載)忘却の文治(1)

 正午前、文治はベランダから、今にも降り出しそうな空を見上げた。 「和子! 雨が降りそう…

杜江 馬龍
2週間前
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短篇小説(連載)忘却の文治(2)

 一週間ほどの一人旅から昨日帰ってきた文治は、久しぶりの我が家での生活を楽しんでいた。 …

杜江 馬龍
13日前
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短篇小説(連載)忘却の文治(3)

 白樺湖から家に戻ると和子が、「どうだった?」と聞いてきた。  文治は「家が一番だ」とボ…

杜江 馬龍
12日前
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短篇小説(連載)忘却の文治(4)

 北海道から家に戻った文治は、珍しく土産を和子に買ってきた。それは、小さなパッケージだっ…

杜江 馬龍
11日前
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短篇小説(連載)忘却の文治(5)

 文治は新潟から高速フェリーのジェットフォイルで佐渡に渡った。そのフェリーは船体を海面に…

杜江 馬龍
10日前
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短篇小説(連載)忘却の文治(6)

 一日の過ぎるのは早いもので、外景色はすでに暗くなり始めていた。文治は、宿を探した。事前…

杜江 馬龍
9日前
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短篇小説(連載)忘却の文治(7)

 翌日(火曜日)、文治はゲストハウス深紅の一階ロビー右側のラウンジで、朝食後のコーヒーを啜りながら新潟日報社の朝刊を眺めていた。  社会面をみていた文治の目が、ある記事にくぎ付けになった。  そこには、新潟から佐渡に渡ったとき、高速フェリーのジェットフォイルの文治の隣の席にいた女性の写真が掲載されており、記事の見出しに、『旅行客の女性が変死』と書かれていた。フェリーの隣の席にいた美しい女性に間違いない。文治は、一瞬ラウンジを見回した。何も隠し立ては無いのだが、人間の本能なのだ

短篇小説(連載)忘却の文治(8)

 一階ロビーに降りた文治を、刑事らしい二人連れが待っていた。 「ここではなんですから、ラ…

杜江 馬龍
7日前
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短篇小説(連載)忘却の文治(9)

 五十嵐刑事は、話を続けた。 「いま、その女性の身元の確認をしているところです。遺族が判…

杜江 馬龍
6日前
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短篇小説(連載)忘却の文治(10)

 ホテルの部屋に戻った文治は、さて今日はどこへ行こうかと考えた。交通手段は、専ら公共交通…

杜江 馬龍
5日前
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短篇小説(連載)忘却の文治(11)

 佐渡から戻った文治は、その後、半年ほど、家で過ごした。  ある日の夕食のあと、妻の和子…

杜江 馬龍
4日前
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短篇小説(連載)忘却の文治(12)

 文治と娘のかおるは、上野駅で降りた。  御徒町商店街は混んでいた。  最近は外国人の観光…

杜江 馬龍
3日前
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短篇小説(連載)忘却の文治(13)完

 沖縄旅行のその日は、朝から曇り空だった。  風はそれほど強くなく、妻の和子にせかされて…

杜江 馬龍
2日前
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