杜江 馬龍

「もりえ ばりゅう」と読みます。1951年生まれ、北海道えりも町出身で夕張育ちです。現在東京都在住 。漫ろに短編小説やエッセイを創り、noteに掲載させていただいております。

杜江 馬龍

「もりえ ばりゅう」と読みます。1951年生まれ、北海道えりも町出身で夕張育ちです。現在東京都在住 。漫ろに短編小説やエッセイを創り、noteに掲載させていただいております。

マガジン

  • 短篇小説(連載)忘却の文治

    定年後10年を過ぎた文治という男が、時には一人旅をしていた。その旅行先での事件や、妻の和子と一緒に沖縄旅行の際、事前に御徒町で買ったダイヤの指輪を忘れてしまう。 文治が旅立ったあと、和子はそのダイヤを見つけ号泣したのだった。ほのぼのとした夫婦のあり方を、描いた作品です。

  • 短篇小説(連載)還らざるOB

    ある会社の同じ部署の仲間が「仲間会」を結成し、唯我独尊の連中が、飲み会と旅行を通じて人生の深さを感じ合う連載です。

  • 連載小説(連載)リセット

    結婚生活に失敗した一人の男を中心に、失意から立ちあがる模様を描きました。

  • 短篇小説(連載)負けない

    兄の説得で結婚した女性の内面を抉り出した作品です。

  • 短篇小説(連載)憐情(れんじょう)

    人間と動物(狸)の関わりを通じて、希薄になった現在の人間関係に警告を鳴らす物語です。憐情(れんじょう)

最近の記事

短篇小説(連載)忘却の文治(13)完

 沖縄旅行のその日は、朝から曇り空だった。  風はそれほど強くなく、妻の和子にせかされて羽田まで行き、沖縄行きの飛行機に乗って、那覇に着いたのが午後の二時頃だった。二泊三日の旅行だ。二日間は観光に費やした。  二日目の夜、夕食が終わり、さあ渡すかと文治が自分のバッグの中を探しても、無い! プレゼントするダイヤの指輪が見当たらない。家に忘れてきたことを文治はその時、気が付いた。  折角のサプライズが出来ずじまいになった。大浴場に一人浸かりながら、文治はため息をついた。  部

    • 短篇小説(連載)忘却の文治(12)

       文治と娘のかおるは、上野駅で降りた。  御徒町商店街は混んでいた。  最近は外国人の観光客も多い。二人はその雑踏の中を通り抜け、御徒町のとある宝石店に入った。  かおるは店員の女性にお願いして、ショーケースの中からめぼしい指輪を出してもらい、手に取っている。  文治は宝石には全く興味がない、というか分からない。 「お父さんこれどうかしら」とかおるが、文治に聞いた。聞かれても文治には皆目見当がつかない。  女性店員が、 「プレゼントですか?」と聞いてきた。かおるは「そうです」

      • 短篇小説(連載)忘却の文治(11)

         佐渡から戻った文治は、その後、半年ほど、家で過ごした。  ある日の夕食のあと、妻の和子から旅行の話がでた。文治は、(ついにきたか)と、少々緊張気味に対峙した。 「あなた、今度二人で旅行にでも行かない?」 「そうだな。お前と二人で旅行することは無かったからな。行ってみるか」 「じゃ私が段取りするわ」と和子が嬉しそうに話した。そして言葉を継いだ。 「あなた、どこへ行きたい?」 「そうだな・・。東北でもいこうか。五月の東北は新緑でいいかもな。ただ、桜は散ってしまっただろうな」 「

        • 短篇小説(連載)忘却の文治(10)

           ホテルの部屋に戻った文治は、さて今日はどこへ行こうかと考えた。交通手段は、専ら公共交通機関なため、不便さを感じながら、先日行った観光案内所に行こうと決めた。  ホテルを出た文治は、空腹を覚えて腕時計を見ると、既に正午過ぎだった。  観光案内所に向かう前に、どこかで昼飯でも食べようと、歩きながら手ごろな食堂を物色した。せっかくだから佐渡名物でもと思いつつ、結局は、観光案内所の近くの食堂に入った。  メニュー表を見ると、バターライスといごねりの昼定食を注文した。いごねりは初めて

        マガジン

        • 短篇小説(連載)忘却の文治
          13本
        • 短篇小説(連載)還らざるOB
          11本
        • 連載小説(連載)リセット
          12本
        • 短篇小説(連載)負けない
          9本
        • 短篇小説(連載)憐情(れんじょう)
          16本
        • 短篇小説(連載)熊雄
          15本

        記事

          短篇小説(連載)忘却の文治(9)

           五十嵐刑事は、話を続けた。 「いま、その女性の身元の確認をしているところです。遺族が判った時点で、その遺族の承諾を得て、新潟大学の法医学者の手で、解剖するでしょう」 「時間がかかりそうですね」と文治が言うと、五十嵐刑事は、頷いた。そして言葉を繋いだ。 「ところで、最近連絡を取っていませんが、私の同期で警視庁にいる太田刑事のことを、木内さんは御存じありませんか?」と五十嵐刑事が文治に聞いた。 「そうそう、太田刑事のことは、良く知っていますよ。彼は確か捜査二課でしたね。特殊詐欺

          短篇小説(連載)忘却の文治(9)

          短篇小説(連載)忘却の文治(8)

           一階ロビーに降りた文治を、刑事らしい二人連れが待っていた。 「ここではなんですから、ラウンジで」と文治は言いながら、ふたりをラウンジに誘った。  刑事の二人は、一瞬躊躇したように見えたが、どうせ珈琲代は文治持ちと腹を括り、ボーイにコーヒーを三つ注文した。お互い身分を名乗ったあと、文治が年かさのいった刑事に聞いた。 「ところで、今回はどのような用件でしょうか?」 「実は、朝刊の記事で既にご存じかもしれませんが、『佐々木家』に宿泊していた女性が昨日の朝、死体で発見されましてね。

          短篇小説(連載)忘却の文治(8)

          短篇小説(連載)忘却の文治(7)

           翌日(火曜日)、文治はゲストハウス深紅の一階ロビー右側のラウンジで、朝食後のコーヒーを啜りながら新潟日報社の朝刊を眺めていた。  社会面をみていた文治の目が、ある記事にくぎ付けになった。  そこには、新潟から佐渡に渡ったとき、高速フェリーのジェットフォイルの文治の隣の席にいた女性の写真が掲載されており、記事の見出しに、『旅行客の女性が変死』と書かれていた。フェリーの隣の席にいた美しい女性に間違いない。文治は、一瞬ラウンジを見回した。何も隠し立ては無いのだが、人間の本能なのだ

          短篇小説(連載)忘却の文治(7)

          短篇小説(連載)忘却の文治(6)

           一日の過ぎるのは早いもので、外景色はすでに暗くなり始めていた。文治は、宿を探した。事前に予約などしていない。  先ほどの女性が、文治のすぐ後をついてきていた。  そして、「今夜の宿はどうされるのですか?」と聞いてきた。 「そうですね・・まだ決めていませんが」と応え乍ら、ふたりはフェリー乗り場に近い観光案内所に向かった。  応対に出た五十代そこそこの女性が、ホテルのパンフレットを二人に見せながら、説明してくれた。  文治は、リーズナブルなホテル『ゲストハウス深紅』が気に入っ

          短篇小説(連載)忘却の文治(6)

          短篇小説(連載)忘却の文治(5)

           文治は新潟から高速フェリーのジェットフォイルで佐渡に渡った。そのフェリーは船体を海面に浮上させながら走る。  三・五メートルの荒波でも時速八十キロメートルのスピードが出るらしい。  新潟港から佐渡島の両津港までは一時間ほどの船旅である。片道料金は七千五十円だった。  新潟港十四時四十分に出航して両津港に着くのが十五時五十分前の予定だ。  その日は、土曜日のせいもあり、乗客はほぼ満席だった。  新潟を出航して三十分ほど経ったとき、文治から隣のその女性に何気なく声を掛けた。 「

          短篇小説(連載)忘却の文治(5)

          短篇小説(連載)忘却の文治(4)

           北海道から家に戻った文治は、珍しく土産を和子に買ってきた。それは、小さなパッケージだった。中身はラベンダーの香水瓶だった。しかし和子の反応はいまひとつだった。  その後、二カ月ほど家に居た。妻の和子は煙たがった。ここは俺の家だぞ! と言ってやりたかったが、あらぬ波風は立てないよう、思いとどめた。  そのほうが平和に過ごせるからだ。  晩秋に近づいたある日の夜、文治は和子に、 「明日から、旅に出る」と言った。 「今度はどちらへ?」と和子は、にっこり微笑んで聞いた。 「佐渡

          短篇小説(連載)忘却の文治(4)

          短篇小説(連載)忘却の文治(3)

           白樺湖から家に戻ると和子が、「どうだった?」と聞いてきた。  文治は「家が一番だ」とボソッと応えた。  その後、家に一カ月ほど居て、文治はまた旅に出た。今度の旅は、北海道の襟裳岬。  文治が生まれた故郷だ。親戚は何人かいるが、親の代で交流は途絶えている。  数年前まで様似までJRの電車が通っていたが、今は鵡川でおしまい。その先は、バスで行くしかない。  文治が生まれて七年ほどしかいなかった土地であった。  小さいころの記憶は、どこかへ消えつつあった。わずかに心の隅に残って

          短篇小説(連載)忘却の文治(3)

          短篇小説(連載)忘却の文治(2)

           一週間ほどの一人旅から昨日帰ってきた文治は、久しぶりの我が家での生活を楽しんでいた。  昨晩は十一時ごろ寝床に入って直ぐ寝落ちした。しかし夜中の二時頃トイレに起きた。冷蔵庫の中の麦茶を飲み、枕もとのラジオを点けた。しかし、訳の分からないジャズ曲が流れていた。やかましく感じて直ぐ消した。そこまでは覚えているが、寝苦しく目を覚ますとすでに午前七時を回っていた。  和子は隣の部屋のベッドからまだ起き出してこない。文治は、珈琲を淹れ新聞を玄関扉の新聞受けから取り出し、テレビをつけ

          短篇小説(連載)忘却の文治(2)

          短篇小説(連載)忘却の文治(1)

           正午前、文治はベランダから、今にも降り出しそうな空を見上げた。 「和子! 雨が降りそうだよ」と、和子に呼びかけた。 「はーい。取り込まないとね」と言いながら、台所にいた和子は、エプロンで手を拭きながら、その日早くに外に干した洗濯物を取り込むため庭に出た。 「俺も手伝おうか?」 「いいわよ。貴方に手伝ってもらったら、後が面倒だから」と笑いながら文治のほうを向いた。 「そうか」と言って、文治はリビングのテーブルに戻り、椅子に座って朝刊を開いた。 「それはそうと、貴方、今日も何処

          短篇小説(連載)忘却の文治(1)

          短篇小説 晩景の花火(23)完

           裕が長岡から東京に戻った二日後、彼は遂に風邪を引き、寝込んでしまった。  裕は一日中布団の中で養生した。今までの疲れが溜まっていたのだろう。  軽い食事をしたが食欲が無い。その後布団に入り直ぐ寝息を立てたようだ。昼前には起き上がり、重湯と梅干を食し、また布団の中に滑り込んだ。  そして、またまどろむ。そのうち寝入ってしまった。気が付いたらとっくに日が落ちていた。  残った重湯を食べ、風邪薬を飲み、また布団に入る。次の日の朝までぐっすりと眠った。  その後も裕の体調が優

          短篇小説 晩景の花火(23)完

          短篇小説 晩景の花火(22)

           その日は金曜日で、午前中で仕事を切り上げ、新宿駅の売店で弁当を買った。午後零時四十分過ぎの小田急線ロマンスカーに乗車するまで、まだ若干の時間があった。改札を潜り、左方にあるカフェテラスに入った。ほどなくして一番線に停車していたロマンスカーに乗車した。  指定された席に座った。早速弁当を頬張る。おかずが仕切りごとに並んでおり、女性が好むように一つの仕切りの中の量は少ないが豪勢に見える。見ているだけで幸せ気分になれた。  裕は文庫本をバックから取り出し読み始めたが、なぜか集中出

          短篇小説 晩景の花火(22)

          短篇小説 晩景の花火(21)

           後日、つばめ探偵事務所の冠は、原宿の東郷不動産に顔をだした。事前に伺うことを連絡していた。 「いらっしゃいませ」と事務の女性が、明るく応対に出た。奥から東郷裕が顔を出した。 「東郷さんですか?」と冠が笑顔で言うと、 「冠さん、忙しい中、わざわざすみません」と裕も笑顔を返した。 「ここではなんですから、近くの喫茶店に行きましょう」と裕が冠を竹下通りにある、ビルの二階の小じゃれた喫茶店にさそった。  裕の話を詳細に聞いた冠は、後日、長岡に飛んだ。  長岡では、三日間市内をくま

          短篇小説 晩景の花火(21)