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フランスのデモを、自分の目で見てきた。
フランスのデモは、文化だ。
私の音楽学部のクラスでも、何か大きなデモがある度に、「明日デモ行くんだけど、みんなどうする?」とデモの話題になる。大学構内を歩いていても、デモへの連帯を呼びかけるチラシが頻繁に配られているし、大学構内でデモ活動が行われることもある。
ちょうどこの前も、大学を歩いていると、メッセージを書いたダンボールを掲げた学生のグループが手拍子をして掛け声を上げて行進しながら、私の目の前を横切っていった。
何をそんなにデモ活動することがあるのだろう?
その内容は、性差別主義へ疑問を投げかけるものや、現政権への批判、イスラエル・パレスチナ問題に関してなど様々だ。
通常デモ活動の際は電車の運行が変更になったり、長期化すると授業が休講になったり日常生活に支障をきたすので、私にとっていいことはない。だから、最初は私も何故そこまで…とデモ活動にうんざりしてしまった時もあったが、フランスにおいてデモ活動を通して意見することは、大切な権利のようなのである。
一つ確かなのが、誰一人として軽い気持ちで参加している人はいないということ。社会に対してそれぞれに思いがあり、それを主張する為の手段なのだ。
デモ活動は、暴動ではない。
本当の意味で、デモ活動とは
フランスでは、こうした何かへの抗議を示す活動のことを”manifestation”(マニフェスタッション)と呼ぶのだが、私がまだこちらに来たばかりの頃、よくわからずに、「明日、また”暴動”があるんですね。」と言ってしまったことがある。すると、「暴力的なテロ行為のようなものと一緒にしないで欲しい、不条理に立ち向かうのは当然のこと、意見を主張することは私たちの権利だ」という答えが返ってきた。
「デモ活動」と聞くと何が思い浮かぶだろう?
最近だと、少し前にはなるが、北アフリカ系の少年が警官に射殺された事件の際、パリで放火などの暴動が起きている様子を取り上げたニュースが、かなり印象的だった。
地方の留学生からしたら、パリは怖い街である。地方からパリに移った私の友達が、口を揃えて、パリに来る前の方がよかった… というのだから、それを聞いているとすっかり、”パリは危ないぞー”というイメージを勝手に植え付けられてしまっている。(ごめんなさい)
しかし私の体験でいうと、フランスにいてあんな暴動に出くわしたことは一度もない。
フランス人からしたら、あれは暴動であってデモ活動ではないと言うのだろう。
主張の仕方を間違えてしまうとただの迷惑になってしまうし、きっと、特に主張はなくても暴動に便乗してしまった人もいたのかもしれない。
デモ活動というのは、もっと日常の中に普通に溶け込んでいるように思うのだ。
日常にマニフ!
フランスで、デモ活動は「マニフ」と呼ばれ、親しまれている。(あまりに日常茶飯事なので、あれはもう親しまれているといっていいのではないか)
"manifestation"を短縮して、→"manif" マニフ、だ。
「来週マニフがあるから電車0時までだってー」
「明日マニフ行ってくるから授業休む!」
「またあそこでマニフあるってー」
マニフは日常に溢れている。
そして、あまりにもフランス人は、マニフに慣れすぎている。
例えば、レストラン。
「あれ、お店閉まってるね。」「マニフだからじゃない?」「じゃあ仕方ないか」 え?
例えば、学校。
「明日は、マニフなので授業はオンラインです」「マニフなら仕方ないね」 え?
例えば、電車。
「何で電車止まってるの?」「マニフがあったんだって」「じゃあしょうがないや、歩こう」 ええ?
私がフランスの好きなところは、何があっても、こう言う時にカリカリしたり、不満をあからさまに顔に出してしまう人を、あまり見かけないことである。
もちろん全ての人がこうして、「仕方ない」とすんなり受け入れてしまえる訳ではないけれど、ほとんどの人は起きていることに対してそれ以上何か言っても仕方がないとわかっていて、すぐに切り替えることができる。
マニフに関していえば、マニフのせいで何か日常に支障が出たからと言って、それに怒る人はいない。
マニフで日常にきたす少しの支障よりも、マニフによって主張しなかったことで、これからの人生にきたす支障の方が、深刻なのだ。
長期化するマニフ
かといって、これが長期化するとやっぱり困ってしまう。
一番困ったのは、記憶している中で最も長かったのは、去年の年金改革のデモだ。
まだ語学学校に通っていた当時、デモ活動は何ヶ月にも及び、大学は閉鎖され、語学の授業は対面であってこそなのにも関わらず1ヶ月ほどオンライン授業が続いたからだ。
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年金受給開始年齢を2つ上の64歳に引き上げることへの反対のデモ。
なぜそのデモに、年金など先のことに対して大学生が関係があるのかと思うかもしれないが、一人一人が、将来を真剣に考えているのである。
この時は、学生と教授のグループが大学内の全ての建物を閉鎖して立てこもってしまったので、大学で授業が行えず、オンライン授業が続いたのだが、久しぶりに学校に来ると本当に見事に全ての入り口が椅子などで巧みに閉鎖され、トイレにも入れず、困ったものだった。
とはいう私も、学校から帰る途中、急に電車が止まってしまい、再開の予定がいつかわからなかった時、「ああ、またマニフか。じゃあ仕方ないからあと3駅歩いて行こう」と何の疑問も持たず受け入れてしまうくらいには、すっかり慣れてしまった。
デモ活動を、見に行ってきた
そこから時が経ち、今は完全にフランス人に囲まれて大学の正規の学部で勉強しているが、フランス人の中にいると、改めてデモは身近なテーマだなと感じる。
先月であるが、3月8日に国際女性デーがあった。
この特別な日に、フランスでデモ集会を開かないはずがない。私のクラスでも、マニフのことが話題になっていた。
「明日みんなマニフ行くー?」
クラスには一人フェミニストとして活動している子がおり、関心の中心はもちろん翌日にある女性の権利に関するマニフ、色んな子に聞いて回っていた。
「ごめん、私は興味ない。」
そうやって建前なく正直にはっきり断るのも、フランス人らしいなーと思う。
結局クラスでは2人ほどマニフに参加している子がいた。
フランスでは、友達と食事していても、どんな場でも急に、当たり前のように話題が環境問題など社会的なテーマになることがある。
そして、私にも、そう言った場で「今興味のある環境問題は何?」とふられて、すぐに答えが出なかった時、何と薄っぺらい思考なんだと自分の社会への関心不足を恥じたことがある。
それが、私が今回でも活動を見に行ってみようと思った理由だった。
私は今まで、マニフの余波で電車に乗れなかったり、授業がなくなってしまったりという経験はあったが、実際に自分で、それがどういったものなのか目の当たりにしたことがなかったのだ。
周りを見ていると、みんな自分の意思がしっかりとあり、当たり前のように、色々な社会問題に対して考えを持っている。この機会に、私も何故彼らがデモ集会に集まり、どんな主張をしているのか自分の目で見るべきだと思い、参加はしないが、デモ集会を見に行くことにしたのだ。
自由に主張する社会
今回は国際女性デーということで、女性の権利に関するデモだったが、集まっていたのは学生からお年寄りまで幅広い年齢層、そして女性だけでなくもちろん男性も同じくらい集まっていた。
まだ集会が始まる前で、少し遠くのベンチから、もじもじと様子を眺めていると、オーケストラ部で同じ、トランペットの男の子が偶然通りかかった。「マニフに参加するの?」と聞かれ、「少し気になって見にきただけ」とはっきりせず答える私。
「マニフ行くの?」そう聞き返すと、「もちろん。」と一言、何の曇りもない真っ直ぐな目で答え、颯爽と去っていくその姿に、はっとさせられるものがあった。
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集会では、広場から溢れ出るほどの人が集まり、一緒に歌を歌う。
代表者の言葉があり、そしてそれぞれが思い思いのメッセージをボードに掲げ、街中を歩く。ダンボールに書いた言葉を掲げたり、旗にメッセージを書き込んでいたり。
女性の権利向上や、家庭内暴力の問題など。黒人女性が、アフリカの女性の地位向上を訴えていたり。
一人一人が、本気で変えたい、良い社会にしたいと思って、そのメッセージボードに自分の言葉を託す。
女性だけでなく、男性も一緒になって、人の為に、それが巡り巡って自分の為に、そうした強い思いをもとに、より素敵な世界にしていこうという連帯、結束がそこにはあった。
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フランスのデモ活動から考えること
きっと、フランス社会はデモ活動で成り立っている。
フランス革命という大きな転換点を歴史に持ち、市民による革命で政権が成り立ってきた国。彼らにとって、意見を言わずに見過ごしてしまうのは難しいことだ。
デモ活動は時に危険な局面に発展することもあるし、授業が成り立たなくなってしまう時もあるし、良い面だけではなく、また安易に近づくのも、人波に巻き込まれてしまって時に危険である。
観光客にとってはかなり迷惑な話だが、危険な行動に発展しない限り、フランスのこのデモ活動はとても素敵な文化だと思う。
おそらく、日本ではこれは文化にはなり得ない。フランスでも、数百人がメッセージを掲げて歩いたところで、急に大きな変化を起こすことはできない。
でも、こうしてデモの為に集まる時、この意見を持っているのが自分一人ではないことに救われたり、全くそのテーマに興味のない人にも、関心を向けてもらうことができるのかもしれない。
私も、意見があってもそれを言わずにしまってしまうことも多いが、自分の中に常に芯を持てる人でありたいな、と思う。
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