見出し画像

【落書き】21,カレーライスがキライだった

母はあまり料理が得意ではない。あまり、というより得意でない。そういうひとだ。
母の手作りの、コロッケ、ハンバーグ、餃子、お好み焼き、ロールキャベツ、ドリア、パスタ、グラタン、ローストビーフ、豚の角煮、ビーフシチュー、、食べた事ない。
それらはお店で買うもの、お店で食べるものだった。
とくに不満はない。不幸とも思っていない。
母は、作れるものは、一生懸命作ってくれた。何事もなければ毎日作ってくれた。これは普通の事かもしれない。しかし母にはたいへんなことだった。
もう今はとっくに料理卒業しているけれども。今は無邪気に「食べる係」をしている。

わたしが小学生だった頃、土曜日のお昼はいつもカレーライスだった。わたしはそれがキライだった。
母は市販のルーで作るが、量が掴めていないみたいで、丸ごといれたに違いなく、ルーが、とろとろではなかったのである。
給食や食堂でカレーライスを食べた時、わたしは衝撃を受けたものだった。違いすぎる。ルーが、液体ぽいじゃないか。うちのは何だ。固まりだった。

母はとろとろルーのカレーライスを汁かけ飯と言って嫌っていた。
具材も、うちは、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、豚肉、以上。隠し味なし。それがカレーライスだった。
豚肉がたまにチキンになることはあっても、ビーフになることはない。他の野菜が入ることもない。

やれ夏野菜カレーだとか、シーフードカレーだとか、キーマカレーだとか、そういったものも、我が家に登場することはなかった。
カレーのルーが足りないといって、シチューのルーが混ざったのは出来上がったりしていた。よそのカレーライスはねえ、と、喉まで出かかっていたものだ。

しかしそれ以上に、わたしが可愛くなかったのは、いつもいつも土曜日はカレーライスで、「手抜きじゃん」と、思っていたのである。
また手抜きされた。
また手抜きしやがって。
手抜きの王様がカレーライスだったのである。

生意気だった。
クレームを言うと、母は烈火のごとく怒り、「二度と食べるな!一生食べるんじゃない!出ていけ!」と言うのが常であった。
慌てて食べる。ルーが固まりでも口へ入れて飲みこむ。

そうこうしているうちに、わたしは中学生になり、土曜日のカレーライスは姿を消した。
自分で作るようになっていったのか、記憶が定かではないが、土曜日のカレーライスは小学生の頃の思い出なのだ。

今では、カレーライス、好きである。大好きである。具材はジャガイモ、ニンジン、タマネギ、豚肉、以上。隠し味なし。旨い。
なぜあんなに手抜きとにくんだのかわからない。

たまに、あの固いルーのカレーライスが懐かしく思い出される。
わたしにとっては間違いなくお母さんの味、お袋の味の一つだ。
お母さん、苦手な料理を頑張ってくれてありがとう。そんなことを思う。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?