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【短編連載】相場一喜一憂物語②

■あらすじ
 これは投資初心者の二人組が『生き馬の目を抜く』投資の世界に身を投じて悪戦苦闘する、笑いあり涙あり(?)の短編物語です。

■本文
 
前回、見事に投資初心者の罠にはまった二人。
 暫くは放心状態であったが、数日後には懲りもせずにまたも暗号資産の取引を再開していた。

「・・・こ、こんな事が出来るなんて!」

パソコンの画面を食い入るように見つめブツブツと呟いている隊長が気になり、佐助が声をかけた。

「どうしたでありマスか? 隊長。 何かすんばらしいニュースでも見つけたのでありマスか?」

「さ、佐助え!!」

「わ! ビックリしたでありマスよ。・・・一体全体、どうしたのでありマスか?」

「俺は物凄い発見をしてしまった・・・ なんと、価格が下がっている状況でも儲けを出す手段があったのだ!」

「は? 何、言ってるのでありマスか? 下がっているのに利益出るなんて、冗談はその顔だけにしてくれでありマスよ!」

ついに血迷ったかと佐助は暴言を吐いてしまう。

「喧嘩売ってんのか! お前! ・・・まあいい。『ショート』というものをすれば、下がる局面で儲けることが出来るのだ!」

「ショート? なんでありマスか、それは? ショートがあるなら、ロングとかもありそうでありマスね」

「ある!」

ええ“! あるのでありマスか!?」

佐助は適当に言ったことが実際にあると聞いて、大いに驚いた。

「どうやら、ポジションを持つということらしいのだがな。『買い』が『ロング』と呼ばれ、上がれば利益が出るのに対し、『売り』が『ショート』というもので下がれば利益が出るらしいぞ」

隊長の話した内容は、いわゆる『信用取引』と呼ばれるものであった。

「はい! 質問が二つあるのでありマス!」

「・・・聞こうか、佐助くん」

「一つ目は、何故下がっても利益が出るのか? 二つ目は、なぜ売りが『ショート』と呼ばれるのか? についてでありマス!」

佐助は言い終わると敬礼ポーズを決める。

「なるほど、いい質問だ。一つ目については、『売り』というのは取引所から借りて売るということだ。そして、値段が下がったところで安く買い戻して取引所に返すことで、その差額の分だけ利益が出る仕組なのだそうだ。要は、友達から借りたゲームを勝手に売っ払い、値段が下がったところで買戻し、設けた差額を懐に入れるようなものだ」

「すんごい、わかりやすかったのでありマス! しかし、借りたものを勝手に売り払うなんて、鬼畜の所業でありマスね! さすがは生き馬の目を抜く投資の世界、まさしく修羅の世界でありマス!」

「・・・そこまで言うか?」

隊長は佐助の言いように、半ばあきれ顔をする。

「・・・して、二つ目の質問については!?」

「売りが何故ショートと呼ぶか、か・・・ それは、この技が誕生して間もないからだろう。逆に『買い』の方は昔からあるから、ロングロングタイムアゴ~、だ!」

※違います。一般的にポジションを持つ期間に由来すると言われています。『買い』の上がり待ちは長期間(ロング)が多いのに対し、『売り』の下がり待ちは短期間(ショート)が多いことから。

なるほどザ・ワールドでありマス! 目から鱗が百個くらい飛び出たのでありマス!(うそくさ~、後でググるのでありマス)」

佐助は心の底では疑いながらも、さも感心したような素振りを見せた。

「うほん! とにかくだ! 昨今は下がるばかりだったろ? だから、ここで『売り』を行って今までの負け分を取り戻すのだ!」

「合点承知、でありマス!」

こうして早速ショートポジションを取ると、狙い通りに値下がりし少額ながらも利益をゲットした。

「いよっしゃー! 投資を初めて早一月。初めての利益ゲットだ~!」

「やったでありマスね、隊長! 僕、今日この日を『利確記念日』と名付け、誕生日の次のビッグイベントにするのでありマス!」

「そ、そうか・・・ よし! 今日はこの金でパ~っと行こうではないか!」

「はい! ゴチになります、でありマス!」

その日二人は街に繰り出し祝い酒を楽しみ、利益以上に散財した。

そして、その後も少額ではあるが何度か利益を獲得し『売り』の快感に染まっていったのだが、やはり世の中そんなに甘くはなく・・・

「た、隊長! これ見て下さい、でありマス!」

佐助が息咳き込んで、部屋に駆け込んできた。

「ん? どうした、佐助? ・・・・・・ええ“!!」

隊長は差し出されたスマホ画面を覗き込んで、驚天動地となった。なんと、チャートがほぼ垂直の角度を描いた爆上がり状態になっているのである。

「な、ななな、なんじゃ、こりゃ~!」

「なんか、とんでもないニュースがあって爆上げになったそうでありマス! ほら、このチャット見て下さい! お祭り状態でありマスよ!」

佐助が指さした部分には「いけ~!」とか「キタ――(゚∀゚)――!!」、「祭りだーー!!」の文字が躍っていた。

「ど、どどど、どうしよう! 俺のショートポジションが~!!」

隊長は慌ててパソコンの取引画面を開く。

「ああ! 維持率が20%まで減ってる~~!」

「な、なんでありマスか、その維持率というのは!」

証拠金維持率のことだよ! これがゼロになったら、強制ロスカットになるんだ!」

ロスカット:自分の持っているポジションが無慈悲に容赦なく清算されること

「な、なんと! それはまるで、HP(ヒットポイント)でありマスね! ここは隊長! ベホイミでありマス!」

「今は金が無いから! ホイミしか出来ない!」

隊長は半べそを掻きながら、追加証拠金を入金する。

「ホイミだけとはなんとも悲しいのでありマス! ここはアコ●にでも行って、MP(ここではマネーポイントの意)を回復させるべきでは?」

「アホ! そんな時間があるか! 見ろ、こうしている間にも」

先ほどのホイミも虚しく、隊長の維持率ならぬHPはどんどんと減っていく。悲嘆に暮れる二人に対し、チャットでは今回の価格上昇に大盛り上がりになっているのが対照的だった。

「周りは盛り上がっているのに、自分たちだけせつない思いをするなんて! まるで、テーマパークに行ったはいいものの、アトラクションに乗る金が無くてベンチで正座して楽しそうなバカップルに呪いをかけている気分でありマス!」

佐助が変な例えをする間にも、暗号資産はグングンと伸びていく。

「「はわわわわ~~~、あわわわわ~~~~!!」」

そうして維持率はついに一桁に陥り、カウントダウンを始める。そして・・・

「「ロ、ロスカァアットォ!!!」」

ゼロになると同時に、二人の悲痛な叫びが部屋中に響き渡るのであった。

―相場格言― 買いは家まで、売りは命まで

皆さん、投資は余剰資金でお願いします。

つづく


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