【ショートショート】信州女と青森男 ~戻る~
これは信州出身の女性と青森出身の男性が紡ぎ出す、小さな物語である。
男「しゃっけぇ!!」
謎の言葉が部屋中に響く。
女(ああ・・・またか)
言葉を聞いた女は、少しうんざりする。
男は普段は標準語っぽい言葉を話すのだが、時々津軽弁だか南部弁だかのお国言葉が出るのだ。そういう時は大概あせったり、興奮していたりする場合が多い。
この前実家から電話が掛かってきた後など、興奮していたのか暫くは何を言っているのかわからなかった。
男「ん§㋽※・・むにゃ♨ん☆〒・・・」
本人はこの現象を「戻る」と表現していたが、女は有史以前に戻ってるんじゃないの?と言いたくなったほどだ。
女(まぁ、しょうがないか。あ、買い物行ってこないと。)
そう思い、男に声を掛け、出て行こうとすると・・・
男「まづろぉ!!」
突然大きな声を出された。
女(へ? まづ・・・?)
ポカンとして立ち止まってしまう女。
男「よぐわがったな。まってでけろってこどだげど、ついでにじぇんこわたすがら飴っこ買ってきてけんじゃ。」※1
早口でまくし立てながら、男は千円札を出す。
女「ごめん・・・、今何言ってるのかわかんなかった。」
女が立ち止まったのは、言葉の意味を理解したからではなく、単に驚いただけのことだった。
おわり
※しゃっけえ・・・冷たい!、の意(南部弁)。
※まづろ・・・待って、の意(南部弁)。
※1訳:よくわかったね。待っての意味だったんだけど、ついでにお金渡すので飴を買ってきてくれない?