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【小説】二人、江戸を翔ける! 6話目:筆は刀よりも強し⑥
■あらすじ
ある朝出会ったのをきっかけに、茶髪の少女・凛を助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。今回は、読売屋と一騒動起こすお話です。
■この話の主要人物
藤兵衛:主人公。隻眼の浪人で、傘張り仕事を生業としている。
凛:茶髪の豪快&怪力娘。『いろは』の従業員兼傘貼り仕事の上役、兼裏稼業の助手。
助弥:読売屋『真実屋』の主人。熱い情熱を持つが、強引なところがある。
■本文
度度須古組の連中は、侵入者を見て驚きの声をあげる。
「お、お前は助弥! まだ、諦めてなかったのか!」
「ふん、度度須古組か。貴様らも哀れなものだな。こんな不正を働かすような奴らの、飼い犬になっているとはな」
さすがは肝が太いのかそれとも頭のネジが取れているのか、助弥はまるで動じないどころか挑発までする。
「ほう、言うじゃねえか!」
「ま、待て!」
腕まくりして殴りかかろうとした男を、別の男が慌てて止めた。その男がくいくいと顎で藤兵衛たちを指し示すと、度度須古組の連中はぎょっと驚き、じりじりと後ずさりする。
その様子を見た助弥は、
「はっはっは。どうやら、この私の魂の熱さに怖気づいたようだな」
と、勘違い発言をする。
「「・・・・・・(汗)」」
これには凛と藤兵衛は呆れるのであった。
暫くすると、密談をしていた札差の金蔵、夕日屋の店主、そして度度須古組の頭が姿を現す。勘定役の金数寄はおらず、あの場には同席していなかったとみえた。
度度須古組の頭が何かに気付いたのか金蔵にこそこそと耳打ちをし、金蔵は藤兵衛を見る。
「ほう、貴様か。頭が言っていた、えらく腕が立つ男とは」
そこへ、夕日屋が割り込んできた。
「ふん。やはり床下に忍び込んでいたとはな。真実の追求などと大層なことを言いながら、やっていることはコソ泥と一緒ではないか、助弥」
「コソ泥と同じではない。何故なら、我らには正義があるからだ!」
「何が正義だ。まあいい、お前の命運は今日で尽きる。こんなことだろうと、ネズミをあぶり出す私の自慢の必殺技『燻しっ屁』をした甲斐があったわ!」
「な・・・ なんだと! なんという、恐るべき策略!」
助弥は驚いているが、藤兵衛と凛は、
(絶対に嘘だ、ただの粗相だ)
と、思っていた。
「「「「・・・・・・」」」」
二人の会話のせいで微妙な空気が流れる。そんな中、気を取り直すように金蔵はゴホンと咳払いをした。
「と、とにかく、中の介の件では世話になったそうだな。だがそれも今日限りだ。いくら腕が立つと言っても、本職の侍には敵うまい。・・・出番ですぞ、世古兵衛殿」
すると、屋敷の奥から眼光するどい侍が現れた。二十代半ばぐらいに見え、筋骨逞しく見るからに腕が立ちそうな気配を漂わせている。
「・・・・・・」
世古兵衛は何も語らずにいきなり太刀を抜き、構える。そしてその動きに合わせるように、度度須古組の連中が藤兵衛たちを取り囲んだ。
逃げ場を失った凛は、焦りが出る。
(ちょ、ちょっとヤバイかも。いくら藤兵衛さんでも、お侍さん相手だと・・・ それに、今日は満月じゃないし)
侍は今で言うところの軍人であり、戦いのプロと認識されていたため、同じ土俵で争えば素人はとても敵わないというのが、一般的な庶民の考え方であった。
一方、助弥もこの状況は想定外だったようだ。
「ううむ・・・ これはまずい。こうなったら!」
((え? 何かいい打開策が?))
助弥の台詞に、凛と藤兵衛は思わず期待する。助弥は懐に両手を突っ込むと、
「いくぞ! 必殺・『瓦吹雪』!!」
と、大声で叫んだ。
ブワワワァッ!
すると突然、辺り一面に大量の紙がまるで竜巻のようにまき散らされる。
「え、なにこれ?」
「こ、これは一体!?」
紙のせいでその場にいた者全員の視界が遮られ、凛と藤兵衛だけでなく敵方も騒ぎ出す。
「「なんだ!?」」
「「うわっ! なんだこりゃ!?」」
「うげえ! ぺっ! 口に入った!」
「助弥の奴、こんな技を持っていたとは!」
皆が騒ぐ中、紙の吹雪は徐々に収まり始める。
そして完全に収まると、なんということでしょう! 助弥の姿が消えているではありませんか!
「あれ? 助弥さん?」
「・・・え?」
助弥の姿を探していると、二人の前に一枚の紙がひらひらと舞い落ちる。
「なんだ、これ?」
手に取ると、そこには『あとはよろしく』の文字が書かれてあった。
「「・・・・・・」」
暫し、二人の時が止まる。
「も・・・ もしかして助弥さん、自分だけ逃げたの!?」
「あ、あいつ、立派なことは言うくせに!」
どうやら『瓦吹雪』とは、目くらましをしている間に『自分だけ』逃げる技だったようだ。
「なんと、味方を躊躇なく置き去りにするとは・・・」
「さすがは助弥。・・・私も見習わなければ」
「・・・ひでえ」
これには金蔵、夕日屋、頭も呆れるのであった。
つづく
↓このお話の第一話です。