「企業の賃金決定に関する研究」で賃金決定のリアルを味わってみる
はじめに
最近は最低賃金引上げや「新卒でも年収1000万円!」をはじめ、格差是正や人手不足解消など様々な面から「賃上げ」のトレンドが加速している感があります。
そんな中見つけたのが「企業の賃金決定に関する研究」。「研究」とあるだけあって、なかなかかっちりしています。ビジネス本や新書みたいなキャッチーな帯があるわけでもなく、愚直に「研究」。これはこれで、大事な姿勢ですね。
さて、研究というと、難解で複雑(要はとっつきにくい)をイメージしてしまいますが、そんなことはなく、企業へのインタビューを交えた、比較的読みやすいものでした。
本書は「労働政策研究・研修機構」から刊行されています。セミナーや書籍も豊富なので、人事界隈の方なら聞いたことある方もいらっしゃるかと思います。
機構名に「研究」とあるように、まさに研究屋さん、シンクタンクですね。
刊行は2022年なので、2024年現在ほどではないものの賃上げやジョブ型は注目されつつある頃です。
本書の構成
本書ですが、以下のようなトピックで構成されています。
賃金制度、賃上げの実態
社員格付け制度
昇給ルールの変化
ベースアップ交渉
賞与をめぐる労使交渉
パートタイマーの賃金
等々…どれも味わい深そうなテーマです。
社員格付け制度~その歴史のまとめ~
上記の中から、「社員格付け制度」について取り上げてみます。こちらについては、先日書かせていただきました「等級制度の基本書」などにあるような「職能資格制度」か、「職務等級制度」か、というテーマに近いですね。
等級制度を扱うほかの書籍では、成り立ちを書きつつも、やはり実務家をターゲットとしているのか、制度策定の方法など「作り方」がメインな感があります。
一方、本書においてはその「成り立ち」についても文献を用いながら丁寧に書かれています。が、冒頭で述べた通りそこまで難解なものではなく、適度なまとまり方をしている通り、研究者の方でなくても理解できるレベルになっています(本当にありがたい…)。
リアルなインタビュー
事例やデータ紹介と並んで取り上げたいのが企業へのインタビューを通じた実態調査です。
例えば社員格付け制度の章では15社の「格付けの呼称」「格付けの実態」「現在の仕事との結びつき」をまとめているほか、事例企業の資格等級の制度図なども載せています。
そして個人的な推しは「企業の声がそのまま載っている」ところです。もちろん守秘義務に反しない限りでのデフォルメはされているのでしょうが、非常にリアリティを感じます。例えば以下は制度設計、業務配分におけるある企業さんの声です。
事例集は書籍や「労政時報」誌などにもありますが、そことは毛色が違う、「きれいすぎない」ところがたまらないのです。
教科書通りには進まない
本書でも述べられていますが、日本の賃金決定(等級、評価、報酬制度)はオリジナルなところが多くあります。世間動向、他社事例も見てはいるものの、画一的とはいえないものです。
そんな中で各社の「考え方」をそのままの言葉で述べられている本研究は非常に示唆の富むものです。教科書通りには進まない中でどう模索しているか、人事担当の方の苦労を垣間見ることができるという意味でも、面白い一冊です。
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