【How To】僕の短歌の作り方 〜思考のプロセスを追って〜
はじめに
短歌を日常的に詠むようになって1ヶ月、今のところスランプというスランプには陥っておらず、毎日何かしら1首は短歌を作り続けています。
それは到底作品とはいえない、取り留めのない報告や愚痴だったりもします。
幸い短歌は「5・7・5・7・7である」こと以外にルールがないので、これでも立派な短歌です。
友達に短歌を始めたことを話すと「え〜凄い、雅〜」とか、「自分には作れないや〜」とか、全く自分には関係のない事として流されてしまうのがすごく寂しいんですよね。
短歌はすごく気楽なもので、僕にとって短歌を作ることは「ちょっと小粋な日記のようなもの」だと思ってます。
もちろん世の中にはすごく難しく文学的で示唆に富む現代短歌もありますが、現代短歌で僕が好きなポイントは「日常のちょっとした"気付き"」や、「漠然と言葉にならない"気持ち"」が簡単な言葉で書かれていること。
とにかく読みやすく、詠みやすいことです。
個人的な感覚としては"歌詞を作る"のと"ツイートをする"ののちょうど間くらいです。
歌詞を作ったことがある人っていうのもほとんどいないと思うので、あんまり参考にならないかもしれませんが、「ツイートをする感覚に近い」のであれば自分にもできると思いませんか?
身の回りに短歌をやっている人が少なく寂しいので、とにかく短歌を作ってみてほしい、そしてできたら一緒に楽しみたい、と思ってこの記事を書いてます。頼むよ〜
それでは、一例として僕が短歌を作る時のプロセスを言語化してみたいと思います。
全く短歌の作り方がわからない、という方はこれを見て、気が向いたら短歌を作ってみてください。
ちなみに、短歌をツイートするなら「#tanka」などのハッシュタグをつけないと短歌だとわかりづらいので、恥ずかしくても付けましょう。もし本当に恥ずいなら、短歌用に新しくアカウントを作って、短歌が流れてくるのが当たり前の環境に飛び込みましょう。それくらい面倒なことをしてでも、短歌を始める価値はあると思ってます。
0.短歌を読む
まずはいろんな短歌を読んでみましょう。鑑賞しているうちになんとなく雰囲気が掴めてくると思います。「ああ、これなら自分にもできるな」と思った人は、もう読まなくても大丈夫です。きっともう作れるはずです。もし挫折したら続きを読んで参考にできたらしてみてください。
「どこで読めるの?」「歌集とか買うの?」とか色々あると思うんですけど、Twitterで下記のアカウントをざっとみるだけでいいと思います。よっぽどぴんと来るものがあれば、その短歌が入った歌集を買ってみてもいいでしょう。
まずこちらのbotには、比較的最近の歌人のクリティカルな短歌がまとめられています。他にもいろんなbotがありますし、「#tanka」で検索をかけて人気そうなツイートを見てみるのでもいいと思います。
以下は、僕の好きな短歌のアカウントです。かなりユーモアに富んでいて、大好きなアカウントです。
ちなみに、以下が僕自身の短歌のアカウントですので、良かったらフォローしてみてください。
1.「短歌っぽい」に気付く
さあ、やっと本題です。色々と短歌を読んできたあなたならなんとなく、「ああ、この出来事はなんか”短歌っぽい”な」と気付けるようになっているはずです。短歌には短歌のノリ、もっと平たくいえば”あるある”があって、日常はその”短歌っぽい出来事”で溢れています。「言われてみればわかるけど聞いたことがないあるある」とか、「他の人はあんまりこうは見てないだろうなあという視点」とか、「そこはかとなく素敵に感じられること」とか、そういうやつです。短歌あるあるといいましたが、これは短歌だけでなく、歌詞や詩など他でも共通して大事になってくる感覚だと思います。感性ってやつなのかもしれないですけど、これは絶対生まれつきではないはずなので、これから掴んでいけば大丈夫です。
例えば、これは僕の話なのですが、夜道を歩いていて「暗いから何か明かりになるものを身につけておいた方が安全かも」と思った日がありました。すごく当たり前のことなんですが、ここで一つ、
という気付きがありました。これはいかにも短歌っぽい。なんか示唆的な感じもするし。探していけば他の種類の明かりもありそうだけど、2種類でも文字数いっぱいだと思うので一旦おいておいて、この気付きを短歌にしてみましょう。
2.思ったことを書いてみる
ということで、先ほどの気づきを言語化します。今は字で説明しているので既に文字になっていますが、多分そういった気付きはすぐには言葉にならないと思いますので、ちょっとばかし格闘してみてください。
そこから、それに対して思うことを書き連ねていきます。頭の中で完結させてもいいですし、こんなに詳細に書かなくても自分で書いたものならわかると思うので、メモ書き程度でいいと思います。一応、自分の思考のプロセスをざっと書いてみます。
こんな感じで、それに関することを膨らませたり、まとめたりしながら、飽きない程度のところで振り返ってみます。うーん、具体的なモチーフを使うのもいいけど、「灯り」はかっこいいし絶対入れたいな。自転車から色々広げられそうだけど、あれは照らすためでもあり存在を示すものでもあるから使いづらいか…なんて感じで、色々考えて結局たどり着いた「言いたいこと」がこれ。
最初の気づきとほぼ一緒じゃん。と思った人も多いと思いますが、結局堂々巡りで戻って来ちゃいました。シチュエーションを設定して、具体的なモチーフを出して、という方向性も良かったんですが、バチっとハマるものが思いつかなかったし、そんなのはこの短歌を読んだ人が勝手に考えてくれるでしょう。多少曖昧な方が詩的なので、今回はコンセプト重視でいきます。ただ「見つけてもらう」というニュアンスは大事にしたいかも、と思えたので、これを軸にして作っていきます。
3.5か7を作る
先ほどの思考のプロセス中にも度々出て来ていましたが、短歌は基本的に5・7・5・7・7なのでやはり5文字と7文字の言葉は使いやすいです。
自分は「文字数だけはあっているけど5・7・5・7・7のリズムが完全にない短歌」が苦手なので、ここは結構大事にしています。あと「文語体でなく口語体で書く」というのも個人的には大事にしていますが、各々の好きで大丈夫です。
ここで、先ほどのコンセプトから5文字の表現と7文字の表現を抜き出してみます。「照らすため」が5文字、「見つけてもらう」が7文字なので、ここら辺はそのまま使いたい。「灯り」は3文字なので、何かと抱き合わせではめることになりそうです。
5文字の表現は、基本的にどこにでも入ります。5文字の部分には勿論、2文字足せば7文字になるので、5文字の表現は展開などを考えて適宜7文字の部分にも突っ込んでみましょう。
逆に、7文字の表現も5+2として分ければ5の部分に入りますので、臨機応変にはめていきます。しかし今回は「見つけても/らう」となって綺麗じゃないのでその考えで5に入れる案はボツとします。
となると、今回は7・7の部分に「見つけてもらう/ための灯り○」とするのが一番手っ取り早そうです。最後の一文字は流れをみてあとで決めましょう。うまくいかなければまた覆してやり直せばいいです。
4.組み上げる
ここまでで、必須の言葉を仮置きして組むと
こんな感じになりますね。4つ目は7・7との繋がりが悪いのでナシかなあ、とりあえず優先順位は下として考えます。
5.こねくり回す
正直、ここが一番重要で、一番技術が必要な難しいところではあると思うんですが、ここが一番説明もしづらいので、かなりざっくりと「こねくり回す」としました。
ここで大事になってくるのが、思考のプロセスの途中に出て来た対比の構造や「短歌っぽさ」のありそうな部分です。もう一度載せると、
ここら辺ですね。ここでいう短歌っぽい、は「ドラマチックだな」みたいな感じですね。ただの事実の羅列ではなく、そこから何か受け取ったり想像したりできる示唆性があったり、比喩とかになっていたり、連なったモチーフが何かイメージを立ち上らせていたり…とかしたらもう最高ですよね。僕はそういうのあんま詳しくないですけど、仕掛けは多い方が楽しいと思います。
今回はそういう「すれ違い」を感じさせるものにしたいので、コンセプトのようにただ「並列」するだけでは面白くなさそうです。このドラマチックの予感のようなものをもう少し具体的にイメージします。
色々と思考していった結果、いい感じのフックが出て来ました。まず「光を放つ側」の立場があって、「光を受ける側」の立場があります。勘違いしてすれ違って、という流れも明確になりましたね。そして、謝ってしまうだろうという発想から、「すみません」という5文字が導き出されます。やったー!配置してみると、
この4パターンになりそうです。もうこうなってくると、できたも同然ですね。実際はここからまた文字数との格闘などが始まって、ここが一番時間がかかるなんてこともありますし、結局挫折して形にならなかったなんてことも往々にしてあります。とりあえず、文字はオーバーしていいのでとりあえず文章にしてしまいます。
要はこういうことが言いたいんだから、太字の部分の表現をこねくり回して、文字数ぴったりにすれば良いんでしょう。(多分、いきなりこの工程から始まるパターンもあると思います。)あとはとにかく格闘しましょう。また、行き詰まったら前提としていた語順を覆してみるのもいいです。逆にしたりするとストンとうまくいったりすることもあります。いろいろやってみてください。
ちなみに、文字数調整の言い換えで困ったときや、同じようなモチーフを探したいというときは「〇〇 類語」や「〇〇 類義語」「〇〇 連想語」などで検索すると色々出て来ます。僕が歌詞を書く時などもよく使っているおすすめのサイトはこちらです。
6.完成!
そうやってこねくり回された最終的な”短歌”がこちら
最後の7は「ための灯りで」で7文字、1文字余るが、口語文としてちゃんと綺麗に成立させた方が今回は収まりはいいと思ったので、「です」とすることにしました。
はい!これで短歌が完成しました!何の事か具体的にはいってないけど、明かりに対しての気付きと、すれ違いの構図(示唆性、ドラマチックさ)が詰まっていて、なかなかいい短歌ですね。ちゃんと詩っぽいし、短歌っぽいです。
おわりに
言葉にするとなかなか長い(これを書いている今で5800文字!)ですが、多分ほとんどを脳内で完結させられますし、慣れてくるとこんなのちょちょいだと思います。実際この短歌も、作った時の時間は5分もかかっていなかったはずです。僕はiPhoneのメモ帳か、ツイート画面に直接打ち込みながら考えています。
もしこれを読んで、自分はこの工程が苦手だな、とか、ここはこうはできないな、とか思うことがあれば、別のやり方を試してみてください。もちろん僕にとってもこれは一例に過ぎないので、全く別のプロセスで形になった短歌もあります。思いついた言葉がそのまま57577だったりするミラクルもたまーにあったりします。
このプロセスで短歌が作れるようになると、なんてことない日常に潜んでいる”素敵”に気付き、思考を整理し、文章に落とし込むことができ、そんでもってさらに短歌という形で世間に公表することができます。もうこれで、あなたも歌人、表現者です。
本気で思うけど、すごいよね。だって”作品”のアウトプットがある大人ってこの世にどれくらいいると思う?なかなかいないと思いませんか?創作は、発信は、表現は、偉大なんです。誰にでもできうるのに、あんまりやろうとしないし、やり方に気付いていない人も多いんですよね。やり方がわからない、というだけの人であれば、僕でも何か力になれるんじゃないかなあと思って書いてきました。
もちろん、メモひとつだってアウトプットはアウトプットですし、結果として短歌にならなくても意味のあることです。そもそも短歌のインプットがある時点でかなりの精鋭ですし、そうじゃなくてもこれを読んでいる人はこの記事の文章を少なからず読んでいるわけだから、すごい人だなあと思います。読んでいただいて、本当にありがとうございます。短歌が合わないひとももちろんいると思いますし、I/Oが多かれ少なかれ何がどうということはないです。
ただ、僕はみんなと一緒に短歌を楽しみたいだけ、そして自分の思考のプロセスを言語化することをめちゃくちゃ楽しいと思っているだけです。
あ〜楽しかった。みんなも短歌作ったら僕に教えてくださいね。どんなこと考えて、どんな風に詠んだのか、是非おしゃべりしましょうね。
(本文6754文字)
2021/12/9追記
この記事で出したコンセプトから、もう一首短歌を詠んでみました。
イルミネーションは「照らすための灯り」ではないけど、それにすら照らしてほしいと思ってしまう最悪な状態の自分が倒錯して「イルミネーションを抱きしめる」という行為を取ったら、という妄想で短歌を作ってみました。
コンセプトから想像を広げ、「イルミネーション」がまず思い浮かんで、そこにドラマチックをねじ込んで「イルミネーションを抱きしめる」までできました。映像的で奇抜で綺麗だけど、どこか象徴的で意味を辿っていくと物悲しい、みたいなラインの状況を想像します。MVとか映画とかのフックのシーンとかにありそうな「まだ誰もやってない雰囲気あるある」を探します。
まだ主体は自分でも他人でも良かったので、まず「君はすぐイルミネーションを抱きしめる」としましたが、あまりしっくり来なかったので主体を自分に変更。
「照らすための灯りじゃないものにすら照らされたい」という倒錯した状況を説明するため、下の句は「この最悪を照らしてほしい」としました。
このコンセプトで、いくらでも短歌が作れそうですね。多分世の中にもう沢山あるんだろうなあ。よかったらあなたも捻ってみてください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?