続・恐怖の熊本弁 (田中くん編)
と、いうわけで
前回の「恐怖の熊本弁」の続編です。
人間の素晴らしいところは「何にでも慣れる」ということですね。
数日も過ぎるとクラス全員が全員が浅黒いわけではなく、僕が理解できる日本語も話せる生徒もチラホラといるということに気がついてきます。
ところで、小学生の頃から繰り返された転校という体験から学んだサバイバル術も、この頃になると僕の中では熟練の領域に達していました。
まず、クラス(組織内)の力関係(ヒエラルキー)を見極めるまでは決して目立ち過ぎない、そしてどのグループにも属さない、ということです。
なんという姑息な生き方なんでしょう
しかし、小学校3校、中学も3校、転校してみ。
そうなるってば。
こっちだって生活かかってんだからよ・・・ってことですね。
クラスのヒエラルキーの形態というのは、おそらく全国ほぼ共通していて
1)リーダー系(今で言うとインフルエンサー)
頂点にいるのは、スポーツ部でなおかつ頭が切れユーモアもあり、責任感も強くて、クラス委員どころか生徒会などに所属していて、おまけにイケメンだったりします。
2)エンターテイナー系
そして次が、スポーツやギャグのセンスでは天才発揮していて明るい。お勉強は二の次の快楽主義系。
3)秀才系
スポーツはからっきしだけど頭がよく社交性もまあまあ。秀才でひたすら受験勉強に励むグループ。
ランク外)不良系
頭にソリを入れた怖い連中。初日から僕のズボンのすそ幅にインネンつけてくるような、細かいところがよけいタチ悪い人達。
4)最下層
勉強も運動もダメで、かと言ってオタク系な深みもなく、不良のパシリにされたりサンドバッグにされたりしてるのに、不良系の傘下に位置することによって他のクラスの不良からの安全保障を得ている人たち。
そして僕は当初、熊本の謎に直面します。
この番外)不良系くんたちをどう読むかが難しいのです。熊本ではリーゼントでボンタンなのに実は1)だったりすることがあり、もしくは1)や2)と対立どころか仲良かったりします。
熊本のツッパりはシンナー吸って万引きしてる本格派から、ソリは入れてるのに僕なんかより遥かに頭が良くて、九州大学に進学するような奴がいるのでホントまぎらわしいのです。
大人しい転校生に最初に積極的に近づいてくる奴には用心しなければなりません。それは基本中の基本です。
例えば、最下層のグループに一旦取り込まれでもすると一生不幸などん底、ツッパリのパシリとサンドバックになります。申し訳ないが、痛いのはイヤなのでなるべくその子らからのアプローチは受け流すようにします。
どっちにしても、このパシリ組の子らは熊本弁が本格的過ぎるうえに、元々ボキャブラリーが少ないのでコミュニケーションが全く取れません。
話しかけられても耳に残るサウンドは
「っっとーやあ?」
のみで、受け答えようが無いので、こっちは「へへ?」です。
なんとなく珍しい昆虫でも見つけたかの様に僕ににアプローチはしてくるものの、彼らは辛抱強さがゼロなので「もう~ヨカ!!」と、すぐに僕の事なんか忘れてくれます。
しかし、だからと言っていきなり頂点のグループにこっちからアプローチしていくのもかなり危険な行為です。
この頂点グループの子らは、部活、生徒会、下級生の女子に追いかけられ、とても忙しいんです。おまけにバンドやってたりして「キャーキャー」なわけです。ちきしょーw
基本、親切な人達なので転校生がアプローチしてくれば相手にはしてくれます。
しかし彼らのようなインフルエンサーでモテるイケめんくんたちは、新しい参入者に対しても期待度のハードルが熊本城より高い。
そこでアンポンタンなことをやって評価を下げてしまうと、彼らの影響力は凄いわけで一気に最下層落ちになり最後は地下労働施設送りになります。
僕の場合は、スポーツでアピールすることは無理と最初から諦めているのでこのグループや2番目のグループにもこちらからはアプローチしないようにします。変に誤解されないようにギター弾くなんてことも最初は絶対に言いません。(しかし姑息やなあ~w)
そんなとき
家が近く帰り道が同じ方向ということで
声をかけてきたのは
田中くん(仮名)でした。
彼は頭にポマードを付けているのに8:2分け、シャツのボタンは首まできっちり。
危険な匂いがぷんぷんしてます。
ただ、田中くんの語り口はややソフトで言葉も通じる・・・
寂しいOLが成り行きでスケベな課長にやられてしまうように、「帰り道が同じだから」と自分に言い訳して、田中君と話すようになりました。
田中くんは上に書いたヒエラルキーのどこに属するのか?
話しながら僕は考えました。そして、彼はどこにも属してないことが分かってきました。
僕と一緒に3時過ぎに帰ってるわけですから帰宅部で、運動はからっきしっぽく勉強も普通ぽい。クラスでは目立たないが不良連中にパシリにされてる様子もない。
自己主張を押し出さない感じが
逆にオトナな風格さえ感じさせる田中くんが
最初に僕にした質問がこれ
「オナゴのあそこは仙台では何て言うとや」
15歳にして45歳エロ中年の風格を醸し出すオトコ、田中くん。
こりゃどこにも属しとらんわい
僕は「ええ?何 ?まんこのこと?」と聞くと
田中くんは「まんこは知っとうって、んじゃなくて仙台の方言でたい」ときた。
お前は郷土研究家か!と心でツッコミながらも
「ベッチョコって言うんだよ」と教えてあげると
「ベチョコやあ? なんかピンと来んねえ~」
と言いながらも、スケベボキャブラに言葉が増えたコレクターの喜びを噛みしめている様子です。そして
「ちなみに熊本ではアレすることをボボするって言うったいね」
ちょっと恥ずかしそうに小声で教えてくれました。
「イヤラしか感じやろ??」と熊本弁の表現を誇らしげに言う田中くん・・・
僕が「ボボお~?」と言うと
「声がデカかって!!」と顔を赤くしてる田中くん。
オレに言わせたら『ベチョコ』の方がよっぽどヒワイな響きなんだけど、そこはほら、世渡り上手の転校生、ローカリズムを尊重して
「ボボかあ~、ボボ凄げえな!」と言いましたね。
しかし熊本の中学生は進んでました。
この田中くんの情報量はこのとき既に千葉や仙台の中学生の5年先行ってました。
このあと僕は方言なんか関係なく、田中くんからいろいろなことを学ぶことになります。
やがて僕は気がつきました。
田中くんのクラスでの立ち位置は「エロの学級委員長」だったわけです。
リーダーも秀才もイケメンもソリこみくんも、みんな一目置いていた訳ですね。
って、全然熊本弁の話じゃなくなったじゃねーか。
まあいいっか
んじゃまた