最近読んだ本の話 vol.56
「最近読んだ本の話」の第56弾です。すっかり暖かく、春らしくなってきました。桜が咲くのが待ち遠しいです。今週は最近読んだ本を3冊ご紹介します。
1、五十嵐 律人『原因において自由な物語』
謎を解かなければ。
私は作家なのだから。
人気作家・二階堂紡季には、
誰にも言えない秘密があった。
露呈すれば、すべてを失う。
しかし、その秘密と引き換えにしても、
書かねばならない物語に出会ってしまい――。 -Amazonより引用-
高校生が主人公の物語?と思いながら読んでいたら、あれ?小説だった?いや、現実の話?と翻弄されながら、物語に漂う不穏な空気に飲み込まれていきます。その高校ではいじめが横行していて、主人公の小説家・紡季の恋人で弁護士の想護は、高校に訪問して、学校や生徒の関わる問題に助言を行ったりする活動をしていました。2人にはある秘密があったのですが、ある日、1年前に高校生が転落して亡くなった廃病院の屋上から想護が転落してしまい…、。謎が気になってのめり込んで読みました。途中からは、想護が助かってほしい!と祈るように読みました。こんないい人いません。大人が何をできるのか、子どもはどうやって助けを求めればいいのか、何を誰にどう説明すればいいのか、この物語に描かれています。紡季は最後に自分が書く理由を見つけます。きっとそれは作者の五十嵐さんが書く理由なのでは?と思ってしまいました。過程を描くことが物語の意味だとこの本の中で語られています。この物語を読んだ誰かが救われますように!
2、吉本 ばなな『ミトンとふびん』
愛は戦いじゃないよ。愛は奪うものでもない。そこにあるものだよ。たいせつなひとの死、癒えることのない喪失を抱えて、生きていく――。凍てつくヘルシンキの街で、歴史の重みをたたえた石畳のローマで、南国の緑濃く甘い風吹く台北で。今日もこうしてまわりつづける地球の上でめぐりゆく出会いと、ちいさな光に照らされた人生のよろこびにあたたかく包まれる全6編からなる短篇集。 -Amazonより引用-
吉本ばななさんの短篇集です。6つの物語が収められています。まるでエッセイのような自然な描写で、主人公の気持ちや日常が描かれています。自分の人生にもありそうな場面だろうか?なんて思いながら読みましたが、登場人物たちは悲しみを抱えてもいて、それでもほわっとするような時間が描かれているのがいいな、と思いました。
3、くぼた のぞみ『J・M・クッツェーと真実』
日本初のクッツェー論
「クッツェーを翻訳することは、彼の視点から世界全体を見直すレッスンだった」
――ノーベル文学賞作家J・M・クッツェーの翻訳を80年代から手がけてきた著者が、クッツェーの全作品を俯瞰し、作家の実像に迫る待望のクッツェー論。
1940年、南アフリカのケープタウンでオランダ系植民者の末裔として生を受けたクッツェーは、故郷を出て、生まれ育った土地の歴史について外部から批判する視点を養い、自らを徹底検証し、植民地主義を発展させた西欧の近代思想を根底から問い直す試みを、創作を通して行ってきた。著者は、作品を取り巻く社会的・歴史的背景、作家の動機と心情、その変遷に深い針を入れるように調べていく。自伝的三部作を翻訳するためにケープタウンを訪れ、少年時代を過ごした家や風景を見て歩き、フィクションと自伝の境界を無化しようとする作品の、奥深くに埋めこまれた「真実」を解き明かしていく過程はスリリングだ。
作家が来日した時の様子や、アデレード大学で開かれたシンポジウムに招待され、作家の自宅でゲストたちと食事を共にした時のエピソード、言語と出版についての作家のラディカルな活動、翻訳作業の過程のやりとりから伝わってくる作家の素顔も貴重な証言となっている。巻末に詳細な年譜と全作品リストを付す。 -Amazonより引用-
私は、J・M・クッツェーの作品を読んだことはなく、この本を読むのは難しいかもしれない、と思いながらページをめくったのですが、くぼたさんの語り口に引き込まれてぐいぐい読み進むことができました。すごい熱量で書かれています。くぼたさんとクッツェーのやり取りなども詳しく書かれていて、お2人の人柄が垣間見れます。くぼたさんがクッツェーの文体について書かれてる部分を引用します。
p.6 クッツェー作品の最大の特徴は文体だ。装飾表現を極限まで削った、シンプルで静かな、鋼のように硬質な文体で書かれているのだ。さらさらと読ませるがじつは奥が深い。クッツェーを読むことは、だから、「水面は穏やかだが水中には激烈な暗流が潜む海を泳ぐようなもの」だといわれる。
絶対読んでみたくなる!難しそうだけどこの本を必ず読もうと心に決めて、続きを読みました。読み終わったら、今度はどうしてもクッツェーの作品が気になって読みたくなってきて、何冊か読んでみたいと思いました。
「最近読んだ本の話」を書くことができました。本を読みながら「これはすごい!」と、のめり込んで読んで、少しでもその感じを伝えられないかと書いてみて、その繰り返しが楽しいです。最後までお読みくださってありがとうございました。
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