「パニック障害なんてこわくない!」と気づかせてくれた本
メンタルが弱っていて、いろんなしんどい症状を経験している時、自分の状態について客観的に見て取り組んでいくのは大変です。
わたしがそうでした。
わたしが不安障害となり、心身のいろんな不調を経験するようになってから、10年以上経ちます。今では、時々大きな波がやってきてしんどい時があっても、なんとか不安障害と共存できているという状態にまでなりました。
でも、ここまでくるまでの間に辛い時期がありました。
特に、パニック発作が仕事中や夜寝ている時に起きるようになった時は本当にしんどかったです。「自分はどうなってしまったんだろう…これまでのような生活ができなくなってしまった、これからどうなるんだろう…」と絶えず考え落ち込み、不安がますます大きくなっていきました。
どうにかしたいと思い、自分でもいろいろ調べるのですが、調べて情報を得ていくうちに、自分の悪い状態を鏡に映し出されて突きつけられているように感じるようになり、ますますしんどくなっていったのを記憶しています。
自分の状態について、客観的に冷静に見ることができなかったんです。
そんな時期に、妻がある本を図書館で借りてきて読むよう勧めてくれました。その本を読んで、少しずつ自分が経験している症状について理解できるようになりました。自分に起きていることについて理解できると安心感も感じられるようになりました。
今回はその本についてご紹介します。
本の基本情報
本のタイトル:パニック障害なんてこわくない!
“ドキドキ”をコントロールするガイドブック
著者:ベヴ・エイズベット 入江真佐子 訳
発行元は大和書房です。
著者のベヴ・エイズベットさんは、オーストラリアの人気漫画家で自らもパニック障害で悩んだ経験をお持ちの方です。ご自身の経験をもとにこの本を書かれました。最近では訓練を受けたカウンセラーとして不安障害で悩む人達への支援活動も行っておられます。
本の内容
この本では、著者のへヴ・エイズベットさん自身が経験され、また読む人も経験しているであろうパニック発作の身体症状とそれに伴う不安と恐怖が、「あいつ」と表現されています。その「あいつ」の正体は一体何か、それが解き明かされていきます。
そして、「あいつ」の飼い主であるパニック障害の当事者が、「あいつ」を自分から追い出すのではなく飼い慣らしていく、つまり今の自分の状態を受け入れてコントロール感を取り戻しながら生活するのに必要なことが説明されていきます。
具体的には、以下のような内容です。
・“あいつ”をしつけるーパニック発作を経験している人が、コントロール感を取り戻すためにまず行える4つのこと
・“あいつ”とからだーパニック発作と体のストレス反応との関係性
・“あいつ”の飼い主特有の考え方ーパニック障害を患っている人特有の考え方の傾向とその対策
・”あいつ”の飼い主でない人たちー周囲の人達から理解と支援を得るためにできること
・あいつを飼っているということー「どうしてわたしがこんな苦しい経験をするのだろう?」という、原因を見つけたい気持ちとの向き合い方
加えて、回復するためにどんな助けを得ることが必要か、回復の途上でまた悪くなってしまったらどう考えられるか、も扱われています。
おすすめポイント
この本の良いところはたくさんありますが、わたしがいいなと感じた点が3つあります。
1.パニック障害の当事者が共感しやすい内容となっている。
メンタル疾患についての本にはいろいろな種類がありますが、当事者が読みやすいと感じるものは多くはないのではないでしょうか。
わたしも、パニック障害について書かれている本をいろいろ読んできました。多くの本は、メンタル疾患の専門家の方が書かれたもので、パニック発作が起きるメカニズムや対処法について生物学的な説明や心理学的な情報がいろいろ載せられています。そうした知識は助けになります。
ですが、そのような本をパニック障害を現在進行形で経験している人が読んでも、なかなか理解出来ません。「自分の悪い状態を突きつけられる」と、わたしは感じることが多かったです。読み続けるのがしんどくなりました。
「パニック障害なんてこわくない!」は、専門家の視点から書かれたものではなく、パニック障害の経験者からの視点で書かれています。それで、経験者でしか分からない心情、パニック発作が起きた時に感じる身体症状や心の動きが分かりやすく描かれています。
読んでいると、「そうそう、これはまさに自分のこと」と感じることがたくさんありました。自分では言語化したくてもできないつらい気持ちやしんどさを代弁してくれているように感じました。自分の状態を認めてもらえている感覚を味わえたように思います。それで、最後まで読むことができました。
また、この本は著者が読者であるパニック障害の当事者に個人的に語りかける文体で書かれており、読者への優しいメッセージを載せています。
2.個性的でユーモラスなイラストがたくさん載せられていて読みやすい
この本を書かれたベヴ・エイズベットさんは、オーストラリアの人気漫画家です。それで、本人が書かれたイラストがたくさん織り込まれています。
そのイラストが個性的でユーモラスでくすっと笑えるんです。“あいつ”と表現されているパニック発作の身体症状やそれを生み出す不安と恐怖を、変テコな怪獣のイラストで描いています。本の後半に入るとその怪獣も可愛らしい存在へと変化していきます。パニック障害を恐れる必要がないことを読者に伝えるためでしょう。
わたしは本が好きで図書館に定期的に行かないと落ち着かない人間ですが、パニック発作が頻繁に起きていた時期、文字がびっしり書かれた本を読むことが苦痛でした。頭に入ってこない、読めば読むほどクラクラする状態でした。
そんなときでもこの「パニック障害なんてこわくない」は読み進めることができました。ユーモラスなイラストで癒やされ、大笑いしながら読んでいました。そうやって笑うことによって、自分を客観視することができるようになっていたと思います。
一時期のわたしのように、パニック障害の症状ゆえに本を読んだりネット上の文字の多いサイトを読むのが辛いと感じておられる方には、この本はおすすめです。
3.パニック発作の根本原因を考慮に入れた取り組み方を教えてくれる。
パニック障害発作を引き起こすものは何か、著者はこう述べています。
これを読んだ時、ハッとさせられました。確かにその通りなんです。
わたしが初めてパニック発作を経験したのは、夜寝ようとしている時でした。本当に死ぬかもしれないと感じるくらい苦しかったです。その後は「あんな苦しい感覚、二度と嫌だ…」という気持ちが強くなり、同じことが起きないように身構えるようになっていきました。パニック発作に対する恐れから、自分の体の感覚に対してますます過敏になり、少し息苦しくなったり心臓の鼓動が早くなるのを感じる度に、恐怖を感じるようになりました。
そして、その恐怖が積み重なっていくと、パニック発作がまた起きていました。
でも、自分の注意が他のことに向いている時、目の前の仕事をやり遂げることに集中している時や、気晴らしを心から楽しめている時には、パニック発作の予兆を何も感じない。
上述の一文を読み、自分の経験を考えていくと、自分の症状の原因が外側(自分の周りの世界で起きる出来事や他の存在)にあるのではなく、内側(自分の物事の受け取め方、解釈の仕方、つまり認知)にあることに気づくことができました。
「パニック障害なんてこわくない!」では、自分の内側にあるものがどのように“あいつ”(パニック発作とそれを引き起こすもの)を作り上げ育てているかが分かりやすく説明されています。そして、自分の認知の仕方を変えていくのに役立つ情報も含められています。
パニック障害を患うようになった人には、その原因となる共通する考え方があることが指摘されていますが、「そんな考えをもってるからダメだ」とは言われていません。
と、パニック障害を抱える人の特徴を述べています。
そして、その良い面がバランスを失うことによって自分を追い詰めていく様子が説明されていきます。
そして、読者にこう語りかけています。
この部分は特に印象に残っています。自分の考え方のクセが自分を苦しめており、自分自身に対してもっと優しい見方や考え方をしてもいいのかもしれない、という気づきをわたしに与えてくれました。
その気づきを与えてくれたうえで、どのように考え方を変えていけるか教えてくれています。
もちろん、この本を読んだだけですぐに物事の受け止め方や考え方が変わるわけではありません。
わたしもそうでしたし、今でも自分には認知のゆがみが残っていると思います。
それでも、時々起きる不安発作の原因が自分の外にあるのではなく、自分の内側にあることを知っているのと知らないのとでは生活に大きな違いがあると感じています。不安発作が起きそうになってもそれにどう取り組めばいいか分かるので、しんどい症状に呑み込まれてしまうことが少なくなりました。
パニック障害を経験しておられて根本原因を知りたいと思われている方がこの本「パニック障害なんてこわくない!」を読んで見られると、わたしのように新たな気づきがあるかもしれません。
まとめとして
パニック障害の経験者であり支援者でもあられる、ベヴ・エイズベットさんの著作「パニック障害なんてこわくない!」は、パニック障害の当事者である人にとって読みやすく共感しやすい本です。
パニック障害の原因にスポットを当てつつも、この病気を深刻にとらえるのではなく、明るく前向きに取り組んでいく助けになる情報がたくさん書かれています。
家族や友人や職場の同僚といった身近な人がこのメンタルの問題で苦しんでいて助けになりたいと思っている人が読むと、この問題を苦しんでいる人への理解が深まると思います。そのことがきっかけでより良い支えを差し伸べることができるようになるといいですね。
今回は、わたしが自分のメンタル疾患とうまく付き合っていくきっかけを与えてくれた本についてご紹介しました。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
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