大人になりすぎたあなたに捧げる児童書『星の王子さま』
1.『星の王子さま』とは
突然ですが、この記事を読んでいるあなたにお聞きします。
『星の王子さま』という本を読んだことはありますか。
金髪の王子さまが、小さな惑星の上に立っているイラストが印象的なあの本です。
私は中学生のときに数ページ読んだのですが、やめました。
どうにも難しい…というのが当時の感想でした。
みなさんの中にも学生時代に読み、途中でしてしまった方もいるのではないでしょうか。
その感覚、間違っていません。正解です。
では、なぜ1943年に発売されたこの物語が、今もなお世界中で愛されているのでしょうか。
答えは簡単です。
『星の王子さま』は、児童書として作られているけれど内容は大人に刺さるから。
文章は易しいけれど、言葉を表面的に拾って読んでしまうとつまらない。逆に、言葉の意味を深く考えながら読むと、王子さまの言葉や作者の想いが文字から響いて刺さるのです。
この物語は、大人が忘れている大切なものを教えてくれます。
王子さまという「こども」が、主人公・僕という「大人」に、愛のかたちや、無邪気な想像力などのピュアな心を思い出させてくれるのです。
お金や権力に溺れる前の自分を思い出して、大切なものを大切だと再確認する人が多いから、この作品は愛されてきました。
だからこそ大人になった今、ぜひあなたに読んでいただきたいのです。
2.『星の王子さま』で印象的な場面・言葉
ここからは「星の王子さま」の印象的な場面と言葉を紹介します。
これは、王子さまと出会ったキツネが投げかける言葉です。
王子さまは、地球ではない星に住んでいました。その星で王子さまは、バラを大切に世話していましたが、バラの態度に不信感を抱き喧嘩をしてしまいます。そして、王子さまはバラを置いて星を出てしまいます。
旅の果てにたどり着いた地球でバラ園に行った王子さまは、バラがありふれた花だと知ります。バラはたったひとつの花だと思っていたので、王子さまはショックを受けます。
しかし、キツネに促されてもう一度地球のバラたちを見に行った王子さまは気がつきます。
「自分にとって特別なバラは、星に残してきたあのバラだけだ」と。
そんな王子さまに、キツネが言うのです。
そして、キツネはもうひとつ大切なことを教えてくれます。
自分の星にいるバラへの想いは、見た目の美しさへの思い入れではなかったのです。
地球にもたくさんのバラがあるのに、心は動かなかったのですから。
王子さまがあのバラを大切に思っていたのは、王子さまとバラが共に過ごした”時間”があったからです。
これは、「費やした時間が愛情を育む」ということを教えてくれる名場面です。
また、王子さまは自分の星に帰るときに、主人公の僕にこんな言葉を残します。
今までなんとも思っていなかった空。しかし、王子さまがいると思って見上げると、とても美しく見えて、星空を今までより好きになるのです。
「大切なものが増えると、世界は違った見え方をする。」
そんなことを王子さまは僕に教えてくれたのです。
3.読むときの心境によって受け取り方が変わる物語
この物語は、読んだ人の分だけ解釈があります。
それほど余白の多い作品なので、より解釈が難しいと感じてしまう方も多いのです。
しかし、この物語は心境やそのときの状況によって、解釈が変わってよいと思うのです。
『星の王子さま』は、第二次世界大戦中(1943年)に出版されました。
筆者は、当時迫害を受けていたユダヤ人の友人に捧げる本だと公言して出版しています。
戦争や迫害が当たり前の世界で、この物語を読んだ人々はどんな解釈をするでしょうか。
過去に軽蔑したユダヤ人を思って、胸が苦しくなった人がいるかもしれません。
家族を殺されたユダヤ人なら、空を見上げて大切な家族を想ったかもしれません。
では、現代の人はどんな解釈をするでしょうか。
SNSにあげる写真にこだわってばかりいた人が、友人との会話を重視するようになるかもしれません。
遠距離恋愛中の人は、LINEや電話ばかり求めるのをやめて、相手との思い出の品を眺めはじめるかもしれません。
その時の状況や立場によって、解釈が変わるから素晴らしいのです。
そして誰もが人と関わって生きているからこそ、物語をかみ砕いて理解すると無感情ではいられなくなるのです。
4.作者が伝えたいこと
この繊細な物語を通じて、作者が伝えたかったこと。
それは、”形のないものにこそ価値がある”ということではないでしょうか。
これはあくまで私の解釈ですが、王子さまやキツネの言葉からそんなメッセージを感じます。
欲望は大人になるにつれて増えていきます。もちろん誰もが持っているものですが、それに囚われてしまうと世界は狭くて、汚いものになってしまいます。
身近にいる人や物を大切にすれば、何もかもが美しく見えるのではないでしょうか。
人間にとって本当に大切なものは、お金でも権力でもありません。
正直な心、人との関わり、共に過ごす時間、思い出こそが大切で美しいのです。
この物語は、大切なことを忘れて忙しなく生きている大人へ向けたもの。
大人も昔は純粋な心を持っていたから、この物語が響くのです。
だから今もなお、世界中で語り継がれる名作なのです。
好きなことを仕事にしようとしているあなたも、ぜひこの本を読んでみてください。
きっと仕事や恋をするうえでのバイブルになるはずです。
そして、もしもお金や地位に目がくらみ、”好き”という気持ちを奪われそうになったら、『星の王子さま』を思い出してください。