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ミステリ作品の厨房を覗いてしまった ―『難問の多い料理店』 結城 真一郎 著

「ミステリ作品が苦手」という人の苦手な理由のひとつには、華麗に謎解きをされてもいまいち納得できず、満足できないということがあるのかもしれない。

わたしの場合、作品によっては謎が明かされてもなんだかしっくりこずに、「うーん……」と自分の理解力のなさに、読書への自信を失ってしまうことがある。そうやってミステリ作品から足を遠ざけてしまったことは、何度もある。

ミステリ作家さんに与えられた謎に魅了され、納得感のある伏線回収で解決される。こういった作品は本当に気持ちがいい。与えられた結末を疑うことなく、読了感に満たされる。

けれど、とてもじゃないけど納得できないのに、どうしてかその謎に魅了されて、読了感に満たされてしまった作品がある。

とてもミステリファンとは言い難いわたしだけれど、ミステリ作品の魅力を作る厨房を覗いてしまったような、見てはいけないものを見てしまった薄気味悪さで背筋がぞわぞわとするような作品に出会ったので、感想を記します。


『難問の多い料理店』結城 真一郎 著


ビーバーイーツ配達員として日銭を稼ぐ大学生の僕は、注文を受けて向かった怪しげなレストランで、オーナーシェフと出会う。
彼は虚空のような暗い瞳で、「お願いがあるんだけど。報酬は1万円」と、噓みたいな儲け話を提案し、あろうことか僕はそれに乗ってしまった。
そうして多額の報酬を貰っているうちに、僕はあることに気づく。
どうやらこの店は「ある手法」で探偵業も担っているらしいと。
不自然な焼死体が出たアパート火災、空室に届き続ける置き配、 謎の言葉を残して捕まった空き巣犯、なぜか指が二本欠損した状態の轢死体……。
オーナーは、配達員に情報を運ばせることで、どんな難問も華麗に解いてしまう。
そして、配達員にこう伝えるのだ。
――「もし口外したら、命はない」

集英社HPより

なんだかひっかかるタイトルと、装丁が放つ疾走感に惹かれて本を手に取った。

あらすじを読んだだけで、不穏さを感じる。『難問の多い料理店』というか、普通に裏社会とずぶずぶの危険なお店なのでは?と疑いながら本を開いて、入店してしまう。

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