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卵の緒

作者:瀬尾まいこ

僕は捨て子である。そんな確信を得た9歳の少年が送る日常ストーリー。どこかさっぱりとした母親とのやりとりは、たしかに普通の家族ではないのかもしれない、そう思わせる

しかしそこに暖かい家庭があるのは確かである。

短い本。まるで絵本を読んでいるような感覚に陥った。世界観が暖かい、黄色い光に包まれているような感じ。僕の視点でずっと書かれるので、文体自体とても丸っこい。

ある人に勧められてこの本を読んだ。
どこか私と似ているから、共感できる部分が多いかもしれないよ、と。

私の"何"が、この本に似ているのだろうか。

性格はさっぱりとしていて、息子と子供としてではなく、一人の人間として、対等な関係を持とうとする母親

9歳にしては少し大人びていて、だけどその反面、子供ながらに自分の中の疑問や理念と向き合っていく僕(育生)

母親に愛され、また母親を愛した、僕も大好きな好青年の朝ちゃん?

植木屋で猫コレクターのおじいちゃん?

料理上手だけど少しお菓子を作るのが苦手なおばあちゃん?

残念ながらどれも違う。
似ているのはそう、育生の置かれている環境だ。

私の母親は私が3歳の時に離婚した。
小学校6年生の時に再婚し、中学校1年の時に妹が生まれた。

私は捨て子というわけではないし、育生と完璧に同じ環境に置かれているわけでは無い。

しかし、それでも、自分と重ねて読んでしまうところはあった。

例えば小さいところでいえば、ご飯を炊く係

母親が仕事を遅くまでして、帰ってきてからご飯を炊くのだと、ご飯を食べる時間が遅くなってしまう。

だからご飯をいち早く食べられるように、私はごはん炊き係と皿洗い係を仰せつかった。

育生がご飯のスイッチを入れ忘れたことが何回もあるから忘れないように、とスイッチを押すのを読んで、物凄く共感した。

ご飯を食べようと炊飯機の蓋を開けたときに見える光景は、「モクモクの水蒸気」でも「ピカピカに輝くホカホカのお米」でもなく、ただ「しんと静まりかえる冷水」と「たっぷりと水を吸い込んで膨らんだ白い米粒」なのだ。

あの時の絶望と言ったら無い。

私と僕の大きな違い

読んでていてひとつ、私と育生とでは大きな違いがあるなと感じたのは、朝ちゃんとの関係だ。

本当なら私の母親の再婚相手が思い浮かぶのかもしれないが、残念ながら私の頭に出てきたのは、私が9歳の時の母親の交際相手だった。


その人は母親が再婚した相手では無いが、その人は私が5歳の時から小学校5年生くらいまで付き合っていたから、かなり長い付き合いだった。

私はその人のことをBOSSと呼んでいた。

育生の母が、毎日育生に対して朝ちゃんの話をするように、私の母親もBOSSに夢中だった。

最初の頃はBOSSの家に泊まりに行っていたが、次第に家に来ることの方が多くなった。

きっとBOSSが仕事を辞めたからかもしれない。学校から帰るとなぜかBOSSがいる。

育生は朝ちゃんのことをひと目で気に入った。途中、朝ちゃんが夕飯を食べに来なくなる時期があるが、わざわざ母親に朝ちゃんが来ないか尋ねたくらいだ。

私はBOSSが嫌いだった。
「人生で二度と関わりたくないくらい嫌いな人は誰か?」と聞かれたら間髪入れずにBOSSと即答するだろう。というか、BOSS以外に心の底から嫌いになった人などいない。

私は母親が大好きだった。
でも、平日は仕事で帰りが遅く、帰ってきても仕事で疲れているため、甘えられない。

休日は母親は家にいるが、基本的にBOSSと過ごす。たまに3人で出かけても母親はBOSSと話すから、私は間に入れない。

友達と遊ぶにも、友達は休日は家族と出かけることが多く、私は家にいることが多かった。

でも家には誰もいない。テレビを見たり、本を読んだりして過ごす。

音がないことが寂しさを増長させるから嫌だった。何をするにもテレビが常についている状態で私は過ごす。電気もおなじ。母親の帰りが遅い時は家中の電気をつけて、テレビをつけて寝る。

よく怒られたものだ。
またテレビばっかり見て。
また電気つけっぱなし。
癖で今でも電気を消すことを忘れることが多々有る。嫌な癖がついたな。

あぁ、話が逸れた。

BOSSといる時の母親は楽しそうだった。だからそんな母親の邪魔をするのも気が引けた。私と2人の時に母親を独り占めすればいい。3人の時は我慢すればいい。

もちろん、周りは私がBOSSのことを嫌いなことは知っていた。今になって考えると、母親は3人の時でも私に話しかけてくれたと思う。

でも子供だった私は、そんな我慢が永遠に感じた。

部屋にこもってママを独り占めしてゲームをするBOSSが嫌い。ママをパチンコ屋に連れてっちゃうBOSSが嫌い。

なんで、せっかくの休みなのに私からママを奪うの?私が甘えられる時間を奪うの?

母親は仕事で帰りが深夜になった時でも、毎日帰ったら私の部屋に来てギューって抱きしめてくれることを私は知っている。

母親が私もBOSSも同じくらい大好きなことを知っている。

だから悪いのはママじゃない。全部BOSSが悪い。
だからBOSSが大嫌いだ。

母親はたまに、そんなに嫌いなら別れようか。と言ってきた。

うん、別れて。
なんて言えるわけないじゃないか。

母親だっていつも遅くまで働いて、残業して、遊ぶ暇もなくて、唯一と言っていい幸せはBOSSといる時間なの、私は知ってるよ。

母親がいっぱいいっぱい我慢してるの、私は知ってるよ。

だから少しぐらい私も我慢しないといけないの。こんなことを言ったら母親の負担になることも分かるから言わない。自分の子に我慢させてるなんて知って、そのままにしておくような母でないのは私でもわかる。

だから言わないけど、本当にBOSSだけはダメなんだ。もっとBOSSと話したり出来れば、母に余計な気を使わせなくて済むのだろうけど、どうしても無理なんだ。

嫉妬というのはものすごく強い感情だ。
きっとBOSSは私に色々なことをしてくれていただろうし、性格も悪いところはあるけど、いい所もあったんだと思う。

でもそんなものは嫉妬という闇に覆われて私には見えなかった。

だからBOSSがあまり家に来なくなって、母親と別れたと聞いた時は心の中で喜んだ。しかし、あんなに大好きだった母親が崩れてしまわないか、少し不安だった。

結局は今の父親とすぐに結婚したので。結果オーライと言えばオーライなのだけれど。

これが私と育生の大きな違い。

育生の母親は、育生と朝ちゃん両方に同じような接し方をした。同様に朝ちゃんも、母親と育生両方に同じような接し方をした。

これはかなり大きいと思う。

頭では母親は恋人と同様に自分も愛してくれている。頭ではわかっていても、目の前で実際に対等であるかないかで気持ちの持ちようが全く違う。

もし母親がBOSSの近くに座るのをやめて、少しこっちに近づいてくれていたら、もしBOSSが私の前でだけでも母親に猫なで声でイチャイチャするのをやめてくれたら、もう少し私のBOSSに抱く感情は変わっていたのかもしれない。

こんな黒い感情を持ってしまったからこそ、私は育生と朝ちゃんの関係を心の底から称えたい。

家族の形


育生と母親、育生と朝ちゃん、どちらもすごくいい関係だ。血が繋がっていようがいまいが、そこにはれっきとした家族がある。

私も将来離婚して、再婚して、少し複雑な家庭環境を築くことになるかもしれない。

しかしそんな時は、この本を思い出して、自由な、自分が思うがままの家族を作っていけたらいいなと思う。

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