サブカル大蔵経726篠田桃紅『百歳の力』(集英社新書)
私の祖母は、今102歳です。毎日憑かれたように何かをし続けています。境内の草抜き、公民館でお茶と短歌と油絵、部屋ではお裁縫です。
朝ご飯と晩ご飯も一緒に食べています。席は私のとなりです。晩酌のお酒を注ぐと美味しそうにいただきます。
そんなすごい人がとなりにいる倖せ。
しかし長生きするということは、同世代がいなくなり、多くの人を看取り、悲しい事もたくさん経験してきたということで、「長く生きすぎた」というのが、この頃の口ぐせです。
祖母はあまり私に何かを言うわけではないのですが、唯一覚えているのが、
「嫌なことあったら、食べて、飲んで、寝なさい」です。
先ほど一緒にスシローに行ってきました。もう食べれないと言いながら、六皿食べていました。
百歳越えの芸術家、篠田桃紅さんはどんなことを思っているのだろうと本書を読みました。祖母とどう違うのか、似ていることはあるのだろうか。
帯に記載されている、「我慢しない、期待しない、逆らわない、年を考えない」。
祖母もこれに近い感じはあるのですが、ひとつ琴線に触れると、わがままな情念が溢れ出します。後を引かないけど、忘れてはいないことも沢山あると思います。
先日、北海道新聞に篠田さんの別な書籍の広告が掲載されていました。107歳でご逝去されたんですね。
だいたい、浮かぶとか浮かばないとか自分にできるとかできないとか、そういう気持ちになったことがこれまで1度もありません。p.17
祖母も、仕事も食事も、断りませんね。自分で自分の限界を決めないような気がします。限界に年齢を加味していません。
なにがどうだからうまくいかなかったとか、許されないですよ。そんな甘ったれたこと言うのは。p.18
物を作るということは、こちらの心情とか事情は相手には関係ない。結果です。
だから、いま、ほんとうに自由になった。p.27
祖母も80歳過ぎて、ようやく自分の時間ができたと言ってました。
私が女学生のときは、芥川龍之介が自殺してしまった。p.30
私たちが情報でしか知らないこともフラットに頂いている雰囲気。
あの人はしようがないけれど、正直だからどこか受け入れてやろうってことで。p.33
一番難しいけど、正直こそが長生きの秘訣なのかもしれません。祖母もほぼ忖度しません。言われて嫌がる人もいますが、しょうがないなぁ、と思わせています。
私は長く生きてきて、自殺するほどの、だめな世の中でもないと思うけど、生きていてほんとうによかった、と讃美するほどの世の中でもないと思いますね。p.37
本当はプラスもマイナスもない世間。
母になったことがない私は、肩身が狭い。小さくなって世の中を生きてる。p.41
誰しもいろいろなことを抱えて
芥川龍之介は、運命は性格の中にあると言った。運命が性格を作るんじゃない。性格の中に運命はある。p.49
性格は変えられない、ゆえに。
墨はいつも裏切ります。日々刻々と変わるお天気やこちらの気持ちに、非常に敏感に反応する。/墨というのは、火で作られて、水で生きます。相反の両極を持つから、美しいんですよ。p.145.147
墨という存在。
私の1本の線は、一生必要のない人がほとんどです。p.166
芸術の自覚。その線に救われる。