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サブカル大蔵経862渡辺京二『黒船前夜』(洋泉社新書)
〈ロシア・アイヌ・日本の三国志〉
渡辺京二の澄んだ視点と粘り強い探索。
剥がされていく常識のレッテル。
アイヌはすでに11世紀ごろからサハリンへ進出し始めていたらしい。元がサハリンに兵を送ってアイヌと戦ったのは、元に服属していたギリヤークをアイヌが圧迫したからである。/アイヌがサハリンでギリヤークと争いを起こしたのは鷹や鷲の捕獲をめぐってであったらしい。p.180
「アイヌに攻め込まれて困っている」という中国側の史料の記事を昨年北海道新聞で読んだ時、〈虐げられていたアイヌ〉というイメージの再考が求められてきているのかなと思いました。『ゴールデンカムイ』もその系譜かもしれません。
私もサハリンを訪れて以降、ずっとこの地域のことが気になっています。日本や北海道で見る地図と全然違うのです。
本書は、北方を通して、日本人や世界のことそのものを考察する一冊となりました。
荒尾但馬守、長崎以外に異国船が入ることを怒る老中を突っぱねる。日月星辰は常に動く。儚き人間が作る法を永久不変とは笑止。p.434
江戸後期の武士官僚の巨きさに驚く。渡辺京二の著作を読むと、なぜ、いつから日本人は変わったのだろうと思ってしまう。
蝦夷地において、江戸後期に、現代よりも国際的感覚のもとに外交のやりとりがなされていたという事実は、衝撃的です。
逆に、なぜこの時点や視点から考察がなされなかったのか。
今の大河で描かれているように、実は徳川家の政治は洗練されていて、維新以後おかしくなったのかもしれないという視点。だからこそ、江戸後期はダメという明治維新史観が推し進められたのか。
史料の力はすごいゆえに、恣意的に引用されてミスリードされているのかもしれない。そのことを慎重に読みながらも、やはり渡辺京二さんという書き手は、もっと再発見されるべきだと思いました。
ロシア人にはロシア人の宗教があり、ブリヤート人には彼らの宗教がある。それでいいじゃないか。何も構う事は無い。ロシア人はそう考えて英国人宣教師のことを笑ったと言う。p.68
非十字軍的ロシア正教。
ロシア東部ゆえの心根なのか?
菅江真澄が書き記したのは、和人とアイヌがごく自然に混じり合って暮らしている、のどかな有様である。松前藩の悪逆に奮起するアイヌといった常識に慣らされたわれわれはどう読めばいいのか。松前藩の藩政が見直されねばならぬのはこの点からも明らか。p.164
〈松前藩の悪逆〉といった通念は、維新以後の政府目線によるレッテルか?
知里幸恵『アイヌ神謡集』は、貧乏人に落ちぶれたかつての富める者の復讐譚だとぬかりなく指摘される。p.188
北海道登別の「知里幸恵銀のしずく記念館」にも、知里家の単純ではない家族関係のことが展示されていて興味深かったです。
登別の「知里幸恵銀のしずく記念館」
私が五年前に訪れた時、この方が案内してくれました。なんと、赤塚不二夫の直弟子である横山孝雄さんでした。奥様の横山むつみさんが館長で、直前にご逝去されたのことで、おつらそうでした。横山さんも一昨年亡くなられましたが、現在ウポポイでも横山さんの絵本が販売されています。
江戸時代の日本国家は蝦夷地の征服をなぜこの時期まで伸ばしていたのだろうか。領土を拡大するような関心も理解も有していなかったことを意味する。/蝦夷地を征服して藩領化しても、統治のコストを考えれば勘定が合わない。それより蝦夷地を異国として固定し、アイヌ交易の利を貪る方が利口と言うものだった。p.273
異国としての蝦夷地と、北海道開拓。なぜ北海道はあっさり管理されたのか。五稜郭の戦いゆえ?
ペリー来航以降、欧米の外交官はこの日本役人の嘘に呆れいらだつことになる。レザーノフは最初の事例。p.306
日本人官僚の伝統、のらりくらり。時間稼ぎすれば、島から帰ると思っていたか?
騒ぎ立てた形跡がない。しょせんはロシア領に属するアイヌという認識があったから。p.389
なぜ最近になり、領土という観念が出てきたのか。
彼らが扇子に絵や文字を書いてくれと頼む。日本人は明らかにロシア人に対して好意と憧れを示した。p.398
ゴローニンの『日本幽囚記』(岩波文庫)にもその箇所がありました。
このころの日本人は、貴紳も庶民もつねによく笑う人びとだった。p.422
渡辺京二イズム。
函館出発日、皆行列を作り別れを惜しんだ。p.448
蝦夷地でのロシアと日本のきずな。
アイヌと満州族の比較。何故独立しなかったか。p.470
パラレル視点には影響されます。
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