マガジンのカバー画像

mikujiの「お話の世界」

119
小説、ショートショート、詩から替え歌まで、mkujiraの創作の世界です。 一度足を踏み入れたら、迷い込んでしまう…?
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
イルカに恋した青年(シロクマ文芸部)

イルカに恋した青年(シロクマ文芸部)

夏の雲が青い海の上空に白く映えて、その青さが一層美しく見えるような日だった。

僕は、いつものようにウェットスーツに着替えて、お気に入りの岩場が多い海に潜った。

その海は、海水浴場からは離れた小さな浦で、岩場も多かったので、たまに近所の親子が磯遊びに来るくらいで、人は少ない。
しかし、比較的暖かいこの辺りの海は、美しい魚や、岩場の生き物達が沢山いる穴場だった。
僕は、仕事が休みの月曜日、こうして

もっとみる
思い出シュレッダー 1

思い出シュレッダー 1

瑞穂は、暗い夜道を1人歩いていた。
もう消えてなくなってしまいたい。
もう生きていたって仕方ない。
まさか聡志が突然私の元から離れていくなんて、想像もしていなかった。

忘れようとすればするほど、聡志の笑顔や優しい声が蘇ってくる。
何をしても、何を食べても、どんなに忙しくても、聡志の顔が頭に浮かぶ。

忘れたくない。
でも、忘れるべき
いや、忘れたくても忘れられない。
こんなに辛いのならいっそ…

もっとみる
僕はパジャマン

僕はパジャマン

僕は、パジャマに着替えると、パジャマンに変身するんだ。

僕のパジャマは、青くて、胸に赤くPのマークがある。
このままじゃ、バジャマンらしくないから、僕はその上から赤いパンツを履いて、お母さんに作ってもらった赤いマントを首に結びつけるんだ。

その時、きゃーと声が聞こえた。
大変だ!
妹が大事にしている女の子のお人形が、怪獣にやられている。
助けなければ。

僕は怪獣をやっつけて、お人形を助け出す

もっとみる
大きいウサギと小さいキツネ

大きいウサギと小さいキツネ

あるところに大きなウサギがいました。
ウサギは体は大きいけど心が優しくて、のんびり屋でした。
ある時、野原でばったりキツネと出会いました。
大きいウサギは、思わず身構えました。
ところがキツネは、まるで小ぎつねのように小さくて、構えた前足が、わずかに震えているようでした。
大きいウサギは思わず小さいキツネに尋ねました。
もしかして僕が怖いの?
すると小さいキツネが言いました。
君はどうしてそんなに

もっとみる
子くじらムーのおかあさん

子くじらムーのおかあさん

わんぱくな、くじらのムーは、ある日
見たことがない空を飛ぶ魚を見て、追いかけているうちに、群れからはぐれ、迷子になってしまいました。

おかあさーん
おかあさーん

ムーは探し続けました。

すると、はるか先に、お母さんの黒い大きな背中を見つけました。

おかあさんだ!
おかあさんだ!

ムーは懸命に泳ぎました。

近くまでくると、なんだかお母さんの様子が変です。
潜ることも泳ぐこともせずに、じっ

もっとみる
風見鶏ローディー【リメイク】

風見鶏ローディー【リメイク】

ある村に、赤い三角屋根で白い壁の家に、一組の夫婦が住んでいました。
夫は、音楽が好きで、アーティストのライブなどで、楽器を運んだり、楽器のメンテナンスをする仕事をしていました。

そんな夫が退職を迎えた日、
夫が1匹の雄鶏と4匹の雌鶏を買ってきました。

夫は言いました。
明日からは、このニワトリ達の面倒を見たり、畑を耕したりして、のんびり暮らそう。

夫は、以前の仕事がローディーといわれた仕事だ

もっとみる
垂乳根のイチョウ

垂乳根のイチョウ

ねえねえ、あんなところにツララみたいのがあるよ!変なの!

ミコちゃんが、散歩に来た神社の脇の銀杏の木を指差した。
お母さんが、ミコちゃんの指さす方を見ると、青々とした銀杏の木の枝下から地面に向かって、枝の一部が垂れ下がっていた。

これは…
ミコちゃんのお母さんは、子供の頃おばあちゃんに聞いた話を思い出した。

おばあちゃんは言っていた。
乳がある銀杏の木は、女神様なんじゃ。

お母さんはミコち

もっとみる
金色のカカシ

金色のカカシ

金色に染まった一面の田んぼを前に、農夫は満足げにつぶやいた。

今年はいいコメが出来た。

今年は稲穂が実る時期に台風が来ず、大風も吹かなかったため、稲は重そうに垂れ下がった稲穂を、しっかり支えて立っていた。

この時期の田んぼは、一年のうちで1番美しい。
農夫は満足げに微笑んだ後、
さあ、始めよう!
と稲刈りを始めた。

稲刈機によって、稲はどんどん刈り取られて行く。
米を刈り取られた藁もまた、

もっとみる
置き去りにされた靴底

置き去りにされた靴底

秋になろうというのに、まだ暑いなあ…
そう言いながら昇留は、Tシャツに半袖シャツ、ベージュのチノパン姿にスポーツサンダルというラフなスタイルで家を出た。

大学までは電車で一駅。
ワイヤレスイヤホンで、お気に入りの音楽を聴きかながら、電車を降りて大学へ向かった。

その時足に変な違和感。
ぺり
突然片足の足の裏に、硬い地面の感覚が伝わった。

なんと、スポーツサンダルの靴底が剥がれてしまった。

もっとみる
お月様は何色?【シロクマ文芸部】

お月様は何色?【シロクマ文芸部】

月の色って何色かな?

森の雑貨屋さんで、こぐまがクレヨンと画用紙を持って、お父さんぐまに尋ねました。

お父さんが、うーん、と考えていると、
近くにいたウサギが言いました。

白に決まってるじゃない!
あれはご先祖様がついたお餅が空に登って月になったんだから。

すると反対側でこの冬のマフラーを探していたリスが言いました。
違うわ、ピンク色よ。
昔木に引っかかっていたピンクの風船を、御先祖様が空

もっとみる
天狗の下駄

天狗の下駄

裏山の神社には、天狗様がおらっしゃるけーねね。
おばあちゃんはそう言って、いつも神社に置いてある天狗の下駄を、綺麗に拭いていた。

本当にいるの?
久美子が尋ねると
本当だよ。昔会ったんじゃけー
とおばあちゃんは言った。

久美子は、こんもりした木々のどこに天狗がいるのか、神社に来るといつもキョロキョロしていたが、時々ざわざわと木が揺れるだけで、天狗の姿を見ることがなかった。

あれから十数年たち

もっとみる
【創作大賞2024】水の王冠 第3話(終)

【創作大賞2024】水の王冠 第3話(終)

3 水の王冠

第2の課題を制覇したケロとケルンは、王様から最後の課題を出されました。
しかしそれは、今までとは比べ物にならないほど難しいものでした。

王様は、言いました。

お前たちには、今から自分がかぶる王冠を作ってもらう。
より立派な王冠を作ったものを、次の王とする。
雨粒が落ちてきて、地面に当たったときに王冠の形になる。
その瞬間に、いまから教える呪文をちょうど言い終わったならば、その雨

もっとみる
【創作大賞2024】ボクんちの笑うお面 第6話(終)

【創作大賞2024】ボクんちの笑うお面 第6話(終)

6 お面の正体は?

今日は家族で遊園地に行く日だ。
ボクはもう数週間前から、今日の日を楽しみにしていた。

お姉ちゃんは、そこのジェットコースターに乗るのが楽しみだと言っていたけど、僕はジェットコースターは怖いから乗りたくない。
ボクは空中ブランコが大好きだ。
風を切って、空に舞い上がる感じが好き。
空から釣り下がったブランコに乗っている気分だ。

お母さんが、おにぎりをたくさん作ってくれた。

もっとみる
【創作大賞2024】ボクんちの笑うお面 第5話

【創作大賞2024】ボクんちの笑うお面 第5話

5 ボクだってモテたいんだ

「タカシくんって、足が速くて背が高いし、面白くて、ステキだよね。」
みほちゃんとかおりちゃんが、隣で話をしているのを、ボクは絵を描いていて、聞いていないふりをしながら、聞き耳を立てた。

「私、足が速い人がかっこいいと思うなあ。」
と、かおりちゃんが言った。

ボクは、がっかりした。
だってボクは、かけっこでも、マラソン大会でも、真ん中くらい。
けして速いとは言えない

もっとみる