
置き去りにされた靴底
秋になろうというのに、まだ暑いなあ…
そう言いながら昇留は、Tシャツに半袖シャツ、ベージュのチノパン姿にスポーツサンダルというラフなスタイルで家を出た。
大学までは電車で一駅。
ワイヤレスイヤホンで、お気に入りの音楽を聴きかながら、電車を降りて大学へ向かった。
その時足に変な違和感。
ぺり
突然片足の足の裏に、硬い地面の感覚が伝わった。
なんと、スポーツサンダルの靴底が剥がれてしまった。
自分の後ろには剥がれた靴底が、取り残されている。
まじか‼️
昇留は、腕時計を見た。
まだ靴屋は開いていない時間だ。
家に靴を替えに戻る時間はない。
一限目サボろうか…
いや一限目の佐藤ティーチャーは、一度でも無断欠席すると、下手すると単位をもらえないって聞いている。
とりあえず大学に行って、一限目を受けよう。
それから、近くの靴屋に行くか、大学の近くに住んでる友達に靴借りよう。
昇留はもう一度振り返って、後ろに転がっている靴底を見た。
拾ったところで、くっつけられない。
手に靴底を持っていくのも、なんか余計に変だ。
昇留は、靴底を置き去りにして、歩き出した。
厚めの靴底のスポーツサンダルなので、かなりの段差。歩き方もおかしくなる。
みんなが自分を、自分の足元を見ている気がする。
はずっ
昇流は、道の端を半分小走りで学校に向かった。
昇留、靴底はがれたのか、気がついてるだろ?
教室に入ろうとするところで、彰人が笑いながら声をかけてきた。
あてりめーだろ。
昇留は、不機嫌そうに答えた。
とりあえず、持っとくか、ゴミ箱に捨てろよ。
あんなところに置き去りにしても…
え?
昇留が振り返ると、駅近くに置き去りにしてきたはずの靴底が、自分の1メートルほど後ろに転がっている。
あれは俺の靴底か?
昇留は、靴底を摘み上げた。
それは確かに自分の靴底だった。
まさか俺はずっと、この靴底を引きずってきたのか?
そんなはずはないよな…
そう思いながら、靴底を足元に置いて席についた。
その時下から声がする。
置き去りにするなよ。
この夏お前さんの足、守ってきたのに。
それに、あんなところに置き去りにしたら、ゴミを捨てていくのと同じだぞ。
誰かがつまづいて怪我をするかもしれないし、
車椅子を止めてしまうかもしれないじゃないか!
お前が剥がれるから悪いんじゃないか!
昇留がつい声を荒げると、
橘君、どうしました?
教授が、話を止めて問いかけてきた。
すいません、なんでもありません。
昇留は、靴底を睨みつけた。
この夏買ったばかりのスポーツサンダルだ。
まだそこまで履いていない。
靴底剥がれるの早すぎだろっ。
授業の後、彰人が、
部室に俺が部活の時履く草履あるから、それ貸してやるよ。
と貸してくれた。
昇留は、スポーツサンダルと、剥がれた靴底を、学校のゴミ箱に捨てた。
あばよ
すると、靴底は言った。
ごめんよ。
僕だって、こんなに早くお別れになるなんて思わなかった。
まだすり減ってもいないのに。
もう一度貼り付けてくれたら、まだ働けるのに。
でも、仕方ないよな…
確かに、安売りになっていたとはいえ、安物ではないメーカー品のスポーツサンダル。
昇流は捨てたスポーツサンダルを、再び手に取って靴屋に向かった。
すみません。
靴底取れちゃったんですけど、貼り付けられますか?
終わり
実は少し前、出勤途中にちょっと厚めのスポーツサンダル?の靴底が落ちてました。
前日の夜だろうか?今朝だろうか?
いづれにしろ、この人困っただろうな…
ふと、自分が旅行中サンダルの底が剥がれて、慌てて靴屋を探し回ったことを思い出しました。
又息子が、買って間もないメーカー品の、決して安くないスポーツサンダルだったのに、出かけた先で突然剥がれて、恥ずかしかった。
などという話も思い出しました。
商品の中には、確かに不良品もあるのかもしれない。
直せるものは直して使えば、エコだと思います。
ただ、普通の家庭用のボンドでは、靴の場合はまたすぐ剥がれるんですよね。
ものによっては、運が悪かったと思って買い替えた方がいいのかもしれない。
剥がれてしまった人は災難だったけれど、道に落ちていたら、それはそれで大きなゴミになる。
やっぱり拾って、自分でどこかのゴミ箱に捨てるべきだよな、
なんて思いました。