〈偏読書評〉食べる前に読む! うなぎ絶滅後の人類を描いたポストうなぎエンタメ:倉田タカシ『うなぎばか』
明日、7月20日は土用の丑の日。Twitterでは《うなぎ絶滅キャンペーン》さんが、連日せっせと様々なうなぎ情報を発信しています。
自分は食べ物として、うなぎは嫌いではないのですが、数年前に強烈な自家感作性皮膚炎を患ってから、味噌や醤油など発酵させた大豆食品を食べると蕁麻疹まみれになってしまうため、うなぎの蒲焼を食べられない身体となってしまいました。
じゃあ白焼きでも食べればいいじゃない、と思われそうですが、白焼きはそんなに美味しいと思えないんですよね……それに膵臓が変形しきっちゃっていて、体内ではほぼ巨大な文鎮としか機能していないので、高脂質の食品は食べられない。そんなこともあり、うなぎを食べることに対して、ほぼ興味がない(持てない)状態です。単なる貧乏人の負け惜しみ、かもしれませんが。
とはいえ、せっかく世間がうなぎで盛り上がっているので、ちょっと便乗して、個人的に推したい本を今回はご紹介します。2015年にハヤカワSFコンテストの最終候補作となった、ポストヒューマンSF『母になる、石の礫で』などの作品で知られる、倉田タカシさんによる連作短篇集『うなぎばか』(早川書房)です。
早川書房さんのnoteでも、少し前から試し読みページが公開されているので、既にお読みになった方も多いかもしれませんが、どんな短篇集なのかというと……
……と、いうもの。
ちなみに収録されている5篇のタイトルは「うなぎばか」「うなぎロボ、海をゆく」「山うなぎ」「源内にお願い」「神様がくれたうなぎ」。5篇とも、うなぎが絶滅した後の(そう遠くない)未来を舞台に、それぞれ異なる視点で描かれた、うなぎにまつわる物語となっています。
個人的にツボだったのが、試し読みページで読める「うなぎロボ、海をゆく」と、「山うなぎ」。「うなぎロボ〜」は、前知識なしに読んだ方が楽しいと思いますので、物語紹介は省略しますが、とにかく作中に登場する〈うなぎロボ〉が、なんとも愛おしい存在なんですよ! もう、この萌えを誰かと共有したくてたまらないので、ぜひ皆さんにも試し読みをしていただきたいです。あと誰かにリアルうなぎロボをつくって欲しい……(他力本願)。
で、もう1篇の「山うなぎ」。単行本の帯に掲載されている、あらすじはというと……
……というもの。ちなみに主人公となる真美たち4人は「水産加工業の中堅企業」の商品開発部に所属している、元バレーボール選手。ちなみに会社は「うなぎが絶滅し、業界全体があおりを食って冷え込んだあと、この会社も、なりふりかまわぬ経営でどうにか生き延びてきた」という、やや不安定な状態。
そんな彼女たちのもとに、“山うなぎ”という謎の肉を、“第二のうなぎ”として日本に卸したいという謎の老人が南米の某国からやってくる。「あの味ならまちがいなく売れる。独占契約したい。すぐに現地へ飛んでくれ」と上司にいわれ、真美たち4人は南米にある“山うなぎ”牧場へと向かうのですが……。
個人的に心に残ったのは、作中における“山うなぎ”の正体を巡るやりとり。“山うなぎ”が犬ではないかとなると真美は「いぬは……いぬは無理!」「いぬを食べるのは、わたしの魂が許さない」と、拒絶反応を示す。しかし仲間のケリーは「子どものころから、ずっと一緒にくらしてたから。馬を食べ物だなんて思えない」と、“山うなぎ”が馬でなかったことに安堵する。
そんなケリーに対して「でも、牛肉は食べるんでしょ?」と真美は訊くが、「そうだね、牛は食べるよ。考えてみるとなんだか変な気もするけど、牛はいい。馬はだめ」と返す。さらに“山うなぎ”の正体を知った別の仲間は「×××を食べるなんて、共食いだよ。(中略)×××は、すごく賢いんだよ。×××には、生きる権利があるよ」(※ネタバレになるので×××部分は伏字です)とショックのあまり、顔面蒼白になってしまう。“山うなぎ”が犬かもしれなかった時点では「すごいね、あんなにおいしい犬種があるんだね。犬は何度か食べたことあるけど、ああいうのはなかった」と涼しい顔をしていたのに。
と、登場人物たちのやりとりを通して、うなぎのことだけでなく、いきものを食べるという行為についても考えさせられる短篇なのです。しかし何より「倉田さん、すげぇ!」と思ったのが、真美たちが元バレーボール選手であるという伏線の回収の仕方。これが多幸感をあふれつつ、ちょっと詩的でもあるので、ぜひ単行本を手にとって読んで&感動して欲しいです。
「土用の丑の前日に、いきなり“食べる前に読む!”と言われてもねぇ……」と、困り顔の方もいそうですが、どうかご安心を。今年は7月20日だけでなく、8月1日も土用の丑の日(二の丑)なのですよ、驚くことに。あと『うなぎばか』は本当に面白い&読みやすい作品ですので、近日中に単行本を入手すれば、二の丑までには余裕で読み終われること確実です。
頭が悪い上に、ちゃらんぽらんに適当に生きている、社会性ゼロの自分が、あれこれ言うのも何ですが、そんな頭の悪い自分でも「これは良い本だ……」と感じられるくらいに『うなぎばか』には肥えたうなぎのごとく、ミッチリ&ムッチリと魅力がつまっています。
まぁ、まずは試しに「うなぎロボ、海をゆく」を読んでみてください。舞台が涼しげな海中ということもあり、読んで暑気払いもできそうですし。
あと『うなぎばか』、やわらかな文体&世界観のSF作品なので、子どもが初めて読むSF作品としても、実は向いているんじゃないかとも思うんですよね……。なので、お子さんの夏休みの課題図書探しに困っている方も、ぜひどうぞ!
【BOOK DATA】
『うなぎばか』(早川書房刊) 倉田タカシ/著・装画、早川書房デザイン室/装幀 2018年7月15日発行 ¥1,400(税抜)