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個人vs社会:テクノロジーは人類のジレンマを解決するか

1.わたしとコロナとアプリと

図22

(…Facetimeの呼び出し音)

ーハロー?

あ、こんばんは、コイさん。ステイホームで元気にしてるよ。そっちは忙しい?

もう相変わらずだよ。さいきん寒いし。

わたしは先週末3件もzoom飲み会したよ。
自分は今アメリカだし、友達もパリ、メルボルン、東京、って世界に散らばってるから、オンライン便利だし、久しぶりに会えて楽しかった!

ーオンライン飲み会良いね。こっちも今週一件あったな。

最近、仕事も勉強も遊びもこういうのにシフトしてきてるし、コロナをきっかけに、10年くらい先の未来を少し早く覗いてるような気になるよ。

ーそうだね。このあと歴史を振り返っても、今回のコロナの出来事が大きな転換点になることは間違いないと思う。

でも健康を守って、経済を復活させるってことが一番大事だよね。ロックダウンはいつまでも続けられないし。

ーうん。各国もいま、ある程度まで感染を抑えた後の出口戦略に動き出してるね。

わたしがいま一番気になってるのは、コンタクトトレーシングアプリ。Google とAppleが発表してたやつ。

ーシンガポール、インド、イスラエル…と、いろんな国が乗り出してるね。コロナを今すぐ撲滅できるわけじゃないから、デジタルの力を使いながらいかに効率よく再発を防ぐか、考えておかないとね。

そんなに。
でも、今「プライバシーVSセキュリティ」のジレンマが問題になってるって。社会のために自分の自由と権利を差し出すのってなんか違う気がする。

ーまあね。コロナで俄かに盛り上がってるけど、この話題は、過去400年間くらい、人間がずっと悩まされてきたジレンマだと思うけどね。

2.そもそも社会ってなに?

図23

ーそもそも、今の社会はどうやって出来たのかって振り返ると。

ひとは一人では生きられない。

ーまあ要はそういうことだよね。
なんの枠組みも無いカオスの中で自分を守って生きていくのはのは大変。だから、他の人たちと共同体をつくることにした。

図3

それってホッブスやロック、ルソーとかが言ってることだよね。自然権とか、社会契約論とか…

ーそう。革命時に、社会の成り立ちを見つめ直したってことだね。それが今から400年前の17世紀頃のこと。


自分の生命、財産、安心を追求する権利を守るためにお互いに契約して、共同体を作った、てことだね。

ーでしょ。ポイントは、共同体をなんで作るとか、ということ。
例えばカントは、「共同体の中で個人の自由をいちど制限することで、それを上回る最大の自由が得られる」と考えた。要はより大きなリターンを得るためってことだね。

図5

3.個人と社会の間でスイング

図24

そう考えると、アプリの議論は、「個人の権利」VS「社会の安定」っていう二元論で捉えるのも違和感あるな。
そもそも、社会の力でいかに個人を守るか、っていうが大事じゃん。

ーまあね。でもこれって、過去ずっとぐるぐる続いてる思考だと思うんだよね。

どういうこと?

ーまず17世紀くらいに戻って、ロックとかルソー、社会契約論が出てきた時代。
民主主義の主権者は、自分の意思をゆだねた「全体」にあって、多数派に制約されると考えた。

図10

まず共同して社会をつくるフェーズだね。

ーうん。そうやって社会が作られてから暫くすると、また違う動きも出てくる。
たとえば19世紀半ばに『自由論』を書いたJSミルは、「社会の安定のために、どこまで自由の統制が認められるのか?」という、個人の自由と多数(民主主義)の境界線にフォーカスした。

図12

共同体がある程度確立されてきて、今度は「個人」に光があたりはじめたわけだよねそれで?

ーそれで、20世紀には二度の世界大戦がおきる。何が起きる。
個人の権利や自由の前に、個人が身をよせる国や社会全体が揺らいだ。

図14


ーハンナアーレントは、WW2の全体主義を振り返ってこんなことも言ってる。

社会不安が増大する中で、自分の利益がよくわからなくなり、個人の権利をどう使っていいかもわからなくなった。”市民”が、わかりやすいイデオロギーにただ身をゆだねる”大衆”になった。

で、またそれを乗り越えて戦後は・・・

ーうん。また個人大事モードにスイッチしてる。
たとえば20世紀半ばに『正義論』を著したロールズは、「最大多数の最大幸福」に真っ向から対抗し、「大事なのは個人の自己尊厳だ!」と主張して、社会公正を論じた。

図9

ふむむ。単純化すると、「個人大事モード」⇔「社会大事モード」って感じで、時代の流れの中で交互にスイッチされてるイメージかな~。

ーそうかもね。今はざっくりの流れで見たけど、さらに細かく時代にフォーカスすると常にこの間でスイングしてるよね。

4.人類のジレンマから脱却する新時代?

図25

からの今、コロナ禍でこの2つのモードで揺り動かされている私たち、と。でもさ、個人がメリットを受けるために社会を作ったわけじゃん。

ーうん。

ということはさ、「個人大事モード」と「社会大事モード」の二項対立みたいな考え方自体がなんかおかしい気がするんだよね。
つまり、人間は400年間くらい悩んできた二元論を、はじめて超えられるんじゃないかと。

ーどういう意味?

最初のアプリに話が戻るんだけど。
政府や企業が情報を集約するんじゃなくて、Bluetooth使って個人間の携帯で分散的に通信する仕組みじゃん。プライバシーに配慮して。

ーそうだね。

中央が個人を管理するでも、パブリックヘルスを疎かにするでもなく、個人の自由&社会の安寧、どっちもバランスする新しいやり方だと思う。

ー18世紀からの一番の違いはテクノロジーだよね。
社会と個人をどう守るか、っていうやり方の可能性がすごく広がった。

うん。だからパラダイムシフトを、今わたし目撃してるんじゃないかなって。
人類の歴史で見ても、超すごい時代じゃない?

ーいいね。本当にそう思う。
「わたしが目撃してる」じゃなくて、「わたしも担ってる」ってことで、スミさんも頑張りなよ。笑

た、確かに…。なんか頑張ります。
おっと、もうこんな時間だ。
コイさんありがとう、今日も楽しかった。お互いStay Healthy!

ーおーう。そっちも!じゃあまた。

(…Facetime終了)

★参考文献★
『リバイアサン1』ホッブス (光文社古典新訳文庫)
『市民政府論』ロック (光文社古典新訳文庫)
『社会契約論・ジュネーブ草稿』ルソー(光文社古典新訳文庫)
『自由論』ミル (光文社古典新訳文庫)
『自由の哲学者カント~カント哲学入門「連続講義」』中山 元(光文社)
『悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える』仲正昌樹(NHK出版新書)




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