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江戸から令和への回帰:土佐藩のイノベーション政策と第二の名刺

米国在住スミさんが、東京の友人コイさんと、哲学・テクノロジー・歴史などについて毎週Facetimeでトークします(第20回)。

1.少量多品種の江戸時代と現代

図22

(…Facetimeの呼び出し音)

ーはろー。

あらこんにちは。今日は外ですか。
空が真っ青ですねえ。

ーうん。良い天気だよ。
さっきまで図書館にいた。

ほう。そりゃまたなんで。

ーやっぱり図書館っていいね。
ネットでは見つからない、体系だった情報がぎっしり詰まってる。

そうですね。アメリカはずっと閉まってて最近行ってないけど。
適当に見てるだけでも思わぬ出会いがありますよね。

ーさっきまで、江戸時代のイノベーションエコシステムについて関心があって、調べてたんですよ。
なかなかネットになさそうでしょ。

江戸時代?なんでまた?笑

ー江戸時代って現代と結構似てる気がしない?

ふむむ。

ー全国に300ほど藩があったんだよ。
そしてその各地に、文化や名産品、職人技があった。

そんなに!

ー藩主は自分の領土の自然とか文化を活かしながら、それぞれ色んな分野でしのぎを削ってたわけでしょ?

ああ~、なるほど。
そこから日本は明治になって、富国強兵の時代に転換するってことか。国中で一定の質のモノを、「いかに効率よく大量生産するか」っていうところがイノベーションの焦点となるね。

ーそうそう。
もちろん、産業分野に限らず教育とかインフラとか、社会システムそのものもだけどね。
明治維新で中央政府が確立され、国家として統一されてからは、江戸時代とガラッと変わった。

そこから明治、昭和、平成の初めと「大量・効率・ユニバーサル」な方向性が続きますね。
でも令和になり、また「多様性・カスタマイズ」の時代へ。

ーそうそう。150年前の風潮に回帰した気がする。
だから現代のイノベーションって、江戸時代に学べることがあるんじゃないかなあ。

なるほどね
各藩主が、企業の社長でもあり、藩内でイノベーションを促進する政府でもあるってことか。

ーうん。
藩の名産として何を掘り起こすかとか、どう売り込むかとか、城下町にどんな業者を呼び込むかとか、領民に何を頑張ってもらうとか、そういうことも考えてたんじゃないかな。

2.藩主のイノベーション政策

図23

面白いね。
名産と言えば、ぱっと焼き物とか和紙、刃物とかが思いつきますけど。

ーそうだね。
やっぱり自然の産物がベースに商品化することが多いだろうね。土とか楮(こうぞ)とか、木とか。

高知県は和紙が有名だけど、ただのコモディティにせず、藩主が献上品としてお墨付きを与えてブランド化してたんですね。
紙漉きの職も保護されてたんだ。

ー現代も「○○認定銘柄」とか、国家資格によって品質担保する仕組みがあるよね。
人々の口コミ評判が今ほど情報が全国展開するのは難しかっただろうから、こういう権威によるお墨付きが効果を発したのかも。

藩政時代には、特別に保護された「御用紙漉」という職があり、土佐藩で使う紙を漉いていた。また、特産品として「土佐七色紙」と呼ばれる染め紙を幕府へ献上していた。

万延元年(1860年)に吉井源太が大型の連漉き器を開発し、全国に普及させた。原料栽培の奨励・零細企業の組織化など製紙産業の合理化を推進し、タイプライター用紙や謄写紙を開発しヨーロッパに輸出、土佐を全国一の和紙生産地に押しあげた。  (株式会社モリサ 土佐和紙の歴史より抜粋)

なるほど。
顧客にも、江戸幕府や他の大名、神社までいろいろあったんじゃない?
江戸時代は海外カスタマーまでいただろうし。

ーうん。陶磁器の場合は同じヨーロッパでもドイツとイギリスで異なるバージョンのものが作られたみたいだよ。

江戸時代は客の生活や好みに合わせることを大事にした。例えば肥前・伊万里は、中国・景徳鎮から輸入した陶磁器をモデルにして、ヨーロッパに輸出するものと、国内の大名家などに売るものを、好みに応じて作り分けていた。 

3.江戸時代の横断コミュニティ

図24

江戸時代って面白いですね。
地方と中央政府の関係で言えば、今の中央集権的なシステムに比べて、各藩の独自性が高かった。アメリカにも少し似てる。

ーそうね。
領地内に目を向けても武士と商人、農民とか階級制度もあったし、ある意味では色んなレイヤーやコミュニティが細かく分離独立していたんじゃないかな。

なるほど。
イノベーション創出には、いかに素材や技術、専門人材のフュージョンを起こすかっていうのが大事そう。

ーうん。
俳諧とか絵画の文化の世界には「連」という一種のコミュニティがあって、武士商人身分に関係なく、本名とは別の名前で参加していた。

今のパラレルキャリアとか、兼業副業みたいなだな。
サラリーマンが、「第二の名刺」を持つ感覚に近いのかも。

ーそうだね。実際、町人も武士も親の代から受け継ぐ職業は決まっている中で、こういうアバターを作るのは自分自身のウェルネスにもつながってただろうし。

イノベーションのエコシステムとか、産業創出も面白いけど、ウェルネスは特に江戸時代のアナロジーとして現代のヒントになることがありそうだなあ。

ーそうね。
仕事一辺倒の俺の第二の人生を充実させるためにも。

笑。
その辺はまた今度考えましょう。

ーはーい。ではでは。

はい、じゃあ仕事頑張ってください。

(…Facetime終了)

★参考文献★
『ギャップイヤージャパン:No3:今の日本に必要なのは「多様性」! 日本の歴史から考える"ギャップイヤー文化論" 』(鈴木崇弘)http://japangap.jp/essay/2011/08/post3.html
『土佐和紙の歴史』株式会社モリサ Website https://www.morisa.jp/
『江戸時代って実際どうなの? 専門家が語る「意外な自由」と「日本人らしいイノベーション」』https://www.gizmodo.jp/2020/04/hosei-ibm-mugendai.html
『江戸、そのしなやかなネットワーク社会――現代人は、江戸時代を超える良い社会をつくったか?』https://www.mugendai-web.jp/archives/10975


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