浮気や不倫の見解

 お酒はあまり好きではない。強くもないし、あの雰囲気に居心地の悪さや後ろめたさを感じる。せいぜいカシスオレンジで手を打とう。大体そんな気分さ。
 
 そんな私が、いつぞや、二日連続で飲みの場に顔を出したことの話をしたい。初日は男友達、二日目は女友達だ。

 その日は不思議なことに酒が進んでいた。ちょっとこじんまりとした居酒屋。酒に弱い癖に、記憶がトンだことはないからよく覚えてる(場面もある。)。

 異性の話からしょーもない下ネタ、そこから浮気や不倫の話に繋がったんだっけかな。

 彼は言った。「ワンチャン不倫したい。」

正直ちょっとイラっとしてしまったんだ。もちろん彼は私を信頼して、私が口を割ることもないのを知っていて、普段の温厚な私に対するイメージが全てを受け止めるであろうとした上で、私に本心をさらけ出したんだ。

 私は普段、そのようなカミングアウトを受けても「お前やばいなーw」みたいな感じで煽って場の雰囲気を壊さない。だから、墓場に持ってく話も少しづつ積み重なっている。でもその時は酔っていたからか、めちゃめちゃ感情的になってしまってたんだよね。

 「自分の最も大事な人に一生モノの苦しみを抱えさせたいなんてのは、クズだよなぁ!」

 私、漫画の読みすぎだったかもしれない。何かザコキャラみたいな口調だった。

 「確かにな…。しかしその罪を越える女が現れたら…俺は一線を越えるぜ…。」

 奴の反応はこんな感じだった。奴もちょっと漫画の読みすぎだと思う。そっから大の男が二人っきりで、居酒屋で。ねちねちネチネチと、浮気や不倫について地獄みたいなディベートしてたんだよね。

 気づいたら大人げなくぶちギレていた。

 「テメーあれこれ最もらしい理由つけてるが、結局は性欲に負けた無様なクソ野郎じゃねえか!」

 私のこのセリフ、声量のボリューム調整できてなかったんだよね。気づいたら、チラホラと周りの客が私達を見ていたんだ。奴には悪いことしたよ。そこでディベートは中断になって、お開きになった。




 浮気や不倫(後者は民法上、違反だけれど。)をする人にも、さまざまな言い分がある。浮気や不倫はするけれど、普段はパートナーに対して誠心誠意尽くしてる。とか、生活はちゃんと面倒見てるから、筋通すとこは通してる。とか、普段は気遣いタップリで、たまに息抜きで浮気してる。とか、他にも寂しかったとか、時間が合わなくなった。とか、うまくいかなくなった。とか沢山ね。

 そして浮気される側にも色々な言い分があるよね。どんな経済的に不自由してなくても、浮気や不倫だけは無理。(どんなに物で満足しても心が離れたら無理。)

 逆にどんな一途でも、経済的に不自由するくらいなら金さえあれば浮気や不倫してもOKみたいなシビアな女性もいらっしゃる。(どんなに心があっても物で不自由したら無理。)

 攻め手と受け手にも様々な感情のグラデーションがある。

 でもそれって。

 「私、パパ活してるけれど?彼氏にめっちゃ尽くすし、普段は勉強頑張ってるし、ノープロブレム!」

 とか言ってる女子高生の屁理屈と何が変わらないんじゃろう。

 不倫とパパ活は違う?でも互いに"私はここまで頑張ってる!だからズルする権利がある!"と違法行為をオリジナルルールで正当化する共通点がありますネ。

 私は。シビアな現実論よりも、人が人を信じられなくなる世界の連鎖が嫌だ。

 「現実そんなもんっしょ。」「皆そんなもんよ。」

 そうやって裏切りを小さいこととして捉える。皆当たり前のようにやってるけどさ、SNSも発展して、10代の子たちも。そういった意見を簡単に見れてしまうんだぜ。

 大人が平気で人を裏切るのに、そんな大人の背中を見てきた10代が、健やかに育つはずないぜ。
 
 イジメもそうさ。大人の世界にもイジメってめっちゃあるよね。なのに子供たちだけに、「イジメはやめろ!」なんて言っても説得力に欠けちまうよな。

 一途の独特なカッコよさに感銘を受けたら、大人の諸君も是非参考にしてほしいぜ。10代の子供たちもたまたまこの記事を見ていたら。人を信じれなくなってきてるなら。一緒に、人が人を疑わなくても良い世界を作ろうぜ!ウォー!

 

 …。



 なぁーんてセリフ、帰りの夜道に酔った勢いで。頭に流れてきた初日。健気に持論を諦めない青年が冷たい風に曝されながら、まさかその次の日に試練が起きるなんてことは思いもしなかったんだ。

 二日目が来た。スマホのスケジュール表には、"女友達と飲みに行く"と書いてある。ひえー昨日やらかしたのに今日も飲みかー。でも向こう楽しみにしてたから今さら引くに引けねぇぜ…。

 そんな感じで、重い腰をあげたんだ。

 その女友達は既婚者だった。私、生涯、二人きりで遊ぶ女友達めちゃめちゃ多かったんだよね。向こうの彼氏や旦那に公認されるパターン。

 中には、トラブったことも多々あったけど、大体の女友達の彼氏や旦那は、私となら二人きりで遊んでもいい。という許可をくれるんだ。(中には私になら浮気されてもいい。とかいうトンでもないこと言った彼氏も居たけど、丁重にお断りしました。笑)

 
 そんな不思議な立ち位置にいる私に、その日、試練が起きた!

 女友達と合流後の居酒屋でヤケに話が弾む。いつもより自然体でいれる。何度も笑って、互いにノリノリ。めちゃめちゃ楽しい!昨日の地獄が嘘のように!

 「やっば!めっちゃ楽しい!」って二人で騒いでた。

 何回もハイボールおかわりして、「カラオケ行こーぜ!」ってなって、二人で薄暗い個室に突入したのさ。

 ちょっとヤバい雰囲気だったよね。ぶっちゃけ、その女友達のことがめちゃめちゃ魅力的に見えていたんだ。酔いのマジック?いや、その日待ち合わせ場所で会った時からなんだか波長が合っていた気がした。心が軽やかになったんだ。

 「・・・。」ちょっとだけ沈黙が続いた後、女友達は言った。「こんな楽しい日初めてだよ。」

 その瞬間マジでヤバい気がしたね。色んな意味でヤバかった。ヤバいだろこれは。って頭の中「ヤバい」連発。

 正直、めっちゃドキドキしてた。正直すぎますか?

 もうその時には膝も肩も。少しだけ触れてる状態だった。

 向こうの言葉の語尾にどんどん♥️ついてきてるような気もした。

 うぉー!行ってしまおうこの先の神秘なるダンジョンへー!

 
 そう思った矢先。何か声が聴こえた気がした。

 「…無様なクソ野郎じゃねえか!」

 ん?

 「テメーあれこれ最もらしい理由つけてるが、結局は性欲に負けた無様なクソ野郎じゃねえか!」

 それは私の声だった。しかも昨日、男友達に吐いた。昨日の"私自身"のセリフだった。

 おっトォーちょっと待ったぁぁぁ!待ったぁぁぁ!

 「ちょ、タンマ!」 「どした?」

 「俺、昨日さ、友達と飲みいって、喧嘩したんだよね!」

 「え?」

 「そいつ不倫したいとか言っててさ、ムカつくからボロクソに言ってやったのよ!」

 「…。」

 「そしたら次の日、まさか君とこんな感じになるとは!!」

 私の迫真の声量は、薄暗い部屋に響きわたったのであった。

 しばらく沈黙が続いた後、彼女の顔は一度真剣になった。その後。少し笑ってこう言った。

 「◯◯ちゃん(私の元カノ)がなんで◯◯(私)を好きになったのか、わかった気がするわ。笑」

 この瞬間。あ、もう不倫ルートは無いんだな。と確信して、ガッカリしているカスな自分と、ホッとしている正義の自分が両立したんだ。カフェオレからアイスミルクに時が逆に巻き戻るように。冷静さを取り戻していった。

 その後は普通にカラオケして、特に楽しい雰囲気を壊すこともなく。帰り際。「ありがとう!」「こちらこそありがとう!」「本当に楽しかった!」「別れが惜しいぜ!」みたいな会話を交わした後、バイバイしたのさ。

 その瞬間。私の心に異常な爽快感がやってきた。何も後ろめたいことをしなかった。何も後腐れ無く、楽しいままその日の結末を迎えた。心がふわっと。真夜中に相反して光が散らばった。美しい光をこの心で感じたんだ。

 「これでよかったんだ。」一人の帰り道、ガッカリしてるカスな自分は完全に消滅し、そう確信した自分が居た。

 一瞬だけ。「不倫してぇとかテメーはカスだな!」と酔った勢いで騒ぎ散らかした前日の自分を恨んだよ。その自分自身の言葉が遥かなる罪悪感を呼んで、今日のあのよからぬ瞬間を終わらせたのだから。でも、次第にそんな自分に感謝が生まれた。

 それと同時に、あ、不倫なんて本当に簡単にできてしまうものなんだな。と思った。"なんであの日に限って"その女友達と"あんなに"意気投合したのだろう。

一瞬、天使のように思えた瞬間があったからね。究極の美化。でもまさしく、その先は。地獄への入り口だったろうよ。

 もし神が居たなら。あんなに偉そうに不倫を否定していた昨日の自分をおちょくりに来たのかもしれないな。「偉そうに言ってるけど、お前はどうなんだい?笑」って。よりによって次の日に試練を与えなくてもいいの、にね。笑

 
 まさしく。有意義な体験だった。


Mr.J-Boy

 


 

 

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