見出し画像

『写真×小説』12月15日:短編1つ


写真タイトル:『光を連れたクリスマス』


この物語は、撮った写真から着想を得た物語になります。


『まばゆい君の笑顔』


 12月になり、世間はクリスマスに向けたようなムードだ。世間はいい人と過ごしたいらしい。まあ僕も例に漏れずそうだけれど。と考えていたら、一限の教室までに行く道で声をかけられた。
「あ、高坂(こうさか)くん、おはよう!」
「ああ、相田(あいだ)。おはよう」

 僕はその顔を見てドキリとする。いまさっき考えていた相手だからだ。相田友紀(あいだゆき)は数冊の本を胸に抱えて持っていた。そのうちの一冊が目に入る。
「シャンデリア?」
「あ、うん。シャンデリアって、綺麗だなって。日本にも、有名なところがあってね。クリスマスの時期だけ点るんだって。今年もいきたくて。それにこの時期抱えていると安心するの、この本」
「へえ……そうなんだ」
「うん」

 相田は嬉しそうに頷いた。今年も行きたい。その言葉がチラついた。誰かと、行くのだろうか。彼氏と毎年行っていたりするのかな。そう考えると、胸に黒いモヤのようなものが立ち込めてきた。いるのか、彼氏。どんなやつなんだろう。

「彼氏と行くとか?」
意外と冷静に聞けた。そうしたら、相田は驚いたような顔をした。
「彼氏!? いないよ! 母とか友達と行っていたの」
その言葉に僕は安心する。ひとまず彼氏はいないことがわかったことの安心だ。

「じゃあ、さ」
僕は、耳の奥までドキドキするような様子で胸が高鳴っていた。緊張する。でもこの機会を逃したら、一緒に行ける機会は今年はないかもしれない。そもそも了承してくれるかもわからないけれど。と、途端に弱気になる。いやでも、このチャンスを逃すわけにはいかないだろう。彼女を見ると、小首をかしげて微笑んでいる。続きの言葉を待ってくれているのだろうか。

「うん?」
「僕と、一緒に、その、シャンデリアを見にいかない?」
途切れ途切れになりそうでも、僕はなんとかその言葉を言えた。僕はかけているメガネをくいっとあげる。ソワソワする。
「え!? いいの?」
「え? うん、行こう、よ」
「うん!」

 相田が花が綻んだような微笑みってこういうことではないのか、という顔で笑う。僕はその笑みと反応に期待しそうになる。その笑みにドキドキしていると、友希〜!』 と元気な声が聞こえた。

「友希〜! おはよ! 高坂くんもおはよ!」
僕たちと一緒の学科の村田恭子だ。
「おはよう!」「おはよ」
「じゃあ、高坂くん。ありがとう。またあとでね!」
「あ、うん。こちらこそ」

村田が、僕たち二人をみる。村田と一緒に相田は歩いていった。こんな往来ではガッツポーズはできないが、心の中で大きくガッツポーズをする。唇を噛み締め、今できた約束の嬉しさを噛み締めた。

 それから授業は上の空。講義が終わり、友人らと二限の教室に移動する。
「うん? 智(さとし)、なんか嬉しそうだね?」
なんでわかるんだ。こいつの観察眼鋭すぎじゃないか?
「え、嬉しそうとか、本当に? なんかあった?」
まあ、お前は気づかなそうだよな。

 僕は、まだ相田のことはこの二人には言っていなかった。
「いや〜、ちょっとな」
「そうか〜」
僕は誤魔化すことにした。なんだか、僕と相田の二人の秘密みたいで胸がときめいた。

 相田とはゼミが一緒でなんとなく仲良くなった。僕は、話しているうちに、相田のキラキラとした透明な水のように美しい性格にどんどん惹かれていった。ゼミ以外でも僕ら友人グループと相田のグループで話したりもする。だから、こいつら二人も相田のことは知っている。

 そんなことを考えていたら、メッセージが相田から来ていることに気がついた。
『シャンデリア見に行けるの嬉しい! 楽しみにしているね』
僕はその文面を見た時、スマホを落としそうになった。相田が喜んでくれている。そのことが僕の心を温めた。その後、相田とやりとりをして、約束の日が決まった。


 その日になった。相田とは何回かご飯を二人で食べにいったりしていた。相田に誘われて、複数人で映画に行ったりもした。けれど、このようにいわゆる『デートスポット』のような場所に二人で行くのは初めてだった。

 待ち合わせをして、向かう。シャンデリアがつく夜がいいということで、僕は了承した。大学からさほど遠くない距離だが、今まで一緒にご飯に行った時の倍ぐらいドキドキしていた。というか、そもそも僕でいいのだろうか。と言う気持ちが頭をもたげる。相田も嬉しいと言っていたし、僕は友人だし。うん、何も問題ないはずだ。と相田と話しながら考える。

 そういえば、と思い、電車の中で前に立っている相田に聞いてみることにした。
「そういえば、どうしてシャンデリアが好きなの? すごく綺麗だから?」
「そう! 綺麗なの。私ね、小さい頃にシャンデリアまでお母さんに連れていってもらったのが興味を持ったきっかけなの。その時はもっと小さかったから、シャンデリアがもっと大きく感じて。今も十分大きく思うけどね? それで、すごーーーく感動したんだ。お姫様の世界観が閉じ込められている! と思ったけな。それから、虜になって。行きたいってせがんでたな。『いつか素敵な人と一緒に来られるといいね』っていう母の言葉も覚えてる」
『素敵な人と』という言葉に僕はドキっとした。

「そうなんだ。いい経験というか、いいシャンデリアとの出会いだったんだね。素敵なお母さんだね」
僕はあえて『素敵な人』という言葉は触れなかった。『いつかその素敵な人と行けたらいいね』とも言えない。その相手は僕がいいと思ってしまうから。
「うん! 母には感謝しているよ」
そう言って彼女は嬉しそうに微笑んだ。いつもはしていないカチューシャが、なんだかかわいいなと思った。


 そうこうしていたら、その最寄り駅に着いたようだった。僕たちは降りて向かった。広場に着くと、まず4m位はあるだろうか。大きいツリーが僕たちを出迎えた。
「わあ。ツリー綺麗だね」
「うん、そうだね」

 僕はツリーを見上げる。このようなクリスマスツリーを見たのは何年ぶりだろうか。それこそ小さい時に母に連れて行かれた記憶はあるが、こんなに綺麗だとは思わなかった。綺麗だとは思ったけれど、今のようにキラキラとして見えなかった。横を向くと、相田とばっちりと目が合った。心臓が跳ねる。僕はなんだか恥ずかしくなって慌ててそらす。

 きゅ、と腕のコートの布を掴まれているような感覚がした。掴まれている先を見ると、俯いた相田が何かいいたそうにしているように見えた。
「だからね、高坂くん」
「え?」
相田が口をつぐむ。ザワザワとした人の声が聞こえる。
「高坂くんと、ここに来れて、嬉しいんだ」
相田がバッと顔をあげて、僕に言う。だからね、って、もしかして『素敵な人』なのか? 話が続いているのか? と期待してしまう。いや、このシチュエーションで言われて、期待しない方が無理な話だろう。

「あ、うん、だから……。シャンデリアあっちだから!  行こう」
相田が僕の腕から手を離し、髪を整える。くるっと向きを変えて歩いて行こうとする。僕は胸の高鳴りを抑えられないまま、相田の手をぎゅっと掴んだ。

「……シャンデリア、楽しみだな。ちょっと寒いから、こうしてても、いい?」
「あ、う、うん……!」
僕たちは手を繋いだまま、シャンデリアまで道を歩いた。少し話しては、無言になる。お互いがお互いを意識しているのではないのか、と思ってしまう。意識していると思うのは期待? それとも本当? そんな気持ちで道を歩く。

 ついにシャンデリアについた。そのあまりの大きさと美しさに、言葉を失う。
「やっぱり、今年も綺麗……」
相田がシャンデリアを見上げながら呟く。光がその瞳に映っていて、相田にぴったりだなと思った。
「うん、すごい綺麗だ……」
僕も相田の言葉に対して発する。ドキドキしてきた。これから言おうかと思っていた言葉のことを考える。でも同じ気持ちなのではないのか。もし違ってもいい。気持ちを伝えたい。

「僕も……」
声が震えてしまう。相田と繋いでいる手を離したくなくて、ぎゅっと力を込める。ドキドキがいっそのこと伝わってしまえ、と思う。
「僕も、相田とここに来れてよかったよ」
「え……?」
「僕は、相田のことが好き、だから……」
「そんな、本当に……?」
「うん、だから、相田友希さんの、恋人になりたいです」
相田が繋がっている手とは違う手で口元を覆った。目が輝いて見える。シャンデリアの光が綺麗だ。
「はい! 私も高坂くんの恋人になりたいです……!」
「よろしく、お願いします……」
「はい! こちらこそ……ふふ、嬉しいな。夢みたい」

 繋いでいる手を引いて、ぎゅっと強く抱きしめた。相田の存在を、すごく感じ、噛み締める。しばらくしてから少し恥ずかしくなってきて、相田を解放する。相田が泣きそうな顔で嬉しそうに笑う。この子の笑顔を守っていきたい。守っていこう。そう心に誓った。シャンデリアのまばゆい光が、僕たちを祝福しているようだった。

© 2024 水野恵瑠 All rights reserved.
※この作品の無断転載・転用を禁じます。

撮影日:2024年12月あたり

裏話:シャンデリアめちゃくちゃ綺麗でした!いい場所り見つけられて満足です😀

読んでくださりありがとうございました!また次回に✨️

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集