
映画「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」を観た話。
【注意】本レビューは作品の重要な部分に関する #ネタバレ を含みます。鑑賞をお考えの方はご了承の上、お読みください。
映画・ドラマレビューのリクエストを募集し始めたところ、さっそくリクエストを頂けた。今回のリクエストはこちら。
映画「ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜(東宝系)」
このリクエストを頂いたとき私は思った。
・・・これ、レビューという口実のもと、こさかな(日向坂46のメンバー・小坂菜緒さん)を大画面で拝めるではないか・・・やったぞ・・・
申し訳ない。瑞野、日向坂46も好きなもので。
ということで早速行きつけのシネコンへ向かい、「ヒノマルソウル」を鑑賞した。公開からしばらく経っているということで、上映は既に小さめな規模のスクリーンに移っていた。
こちらの作品は実話をもとにストーリーが構成された、いわゆる伝記ものだ。舞台は1997年の長野オリンピック。スキージャンプ日本代表が見事に金メダルを獲得したその裏にある「テストジャンパー」と呼ばれる30人の男女たちにフォーカスした物語である。
主人公は、スキージャンパーの西方仁也(演・田中圭)。
彼は前回のリレハンメル冬季五輪で団体銀メダルを獲得しながらも、練習中の怪我により長野五輪日本代表から落選した。西方は「テストジャンパー」として「裏方」となり長野五輪に参加することとなる。だが、その長野には、リレハンメルで共に戦った選手たち、特に日本が金を逃した「戦犯」という扱いを受けた原田雅彦(演・濱津隆之)が出場していた・・・。
ちなみにテストジャンパーとは、ジャンプ台のコンディションを良好なものにするための整備員的な存在であり、滑降するときにスキー板が滑る溝(アウトバーン)を整えて安全な状態にするため、一日に何度も何度もジャンプ台から飛びつつけるという過酷を極める仕事を任されている。
やはり事実に裏打ちされたストーリーなので、地に足がついたような安定感がある。二度の栄光を手にした原田たち日の丸飛行隊と、テストジャンプという過酷な裏方業に徹するしかない西方。すれ違い、心をぶつけ、徐々に疲弊していく姿。世界のトップランナーとして戦い続けることは、自分を常にすり減らすことであるんだと、西方らに教えられた気がする。
また、25人もテストジャンパーがいるということで、それぞれに複雑な事情を抱えている。メダリストの西方、次の五輪を狙う若手のジャンパー、聴覚障害持ちのジャンパー、女子ジャンプの五輪種目化を願う女子高生ジャンパー。様々な視点から「五輪」を描いていたことは高く評価をしたいと思う。彼らにとって五輪という大舞台がどんな意味を持っているのか。このしっかりとした描写が無ければ、大団円に向けての感動は増幅されなかったと思う。ましてや、西方の心の再生はなし得なかっただろう。
しかし、細部の詰めが甘いと思う部分も多々あった。
例えば、ストーリーの進展のさせ方。伏線を張るというベーシックな方法を取っているのだが、この伏線が実にバレバレなのだ。「原田が無難に飛べば金」って実況が言った後に原田が大失速。強化合宿中に「誰か怪我しませんかね」って言った直後に西方が腰を負傷。長野で西方が「原田落ちろ」とつぶやけばまた原田が失速。事実を元にしている以上、パターンにも限界があることは理解できるが、それにしても次の展開があまりに見え見えなのだ。
「ヒノマルソウル」という言葉にも、正直疑問を呈したい。長野で開催、自国で悲願の金を、全員一致団結して、と言う割にはその根幹にあるいちばん大事な思いを「ヒノマルソウル」っていうカタカナの軽くてキャッチーなフレーズに任せてしまっている。なんとなく、そこは日本語に拘ろうや、と肩透かしを食らってしまったようだ気分である。
この作品の最大の軸は「光」と「影」の残酷なまでの対比にあると思う。
西方はリレハンメル五輪で大ジャンプを見せ、日の丸飛行隊を銀メダルにまで導き、喝采を浴びた。しかし、その後の怪我によるリハビリの日々、代表落選、引退を考える日々、そして、テストジャンパーという誰の注目も浴びない地味で目立たない裏方の仕事。一心に脚光を浴びていた男があるとき突然奈落の底に突き落とされ、暗闇の中でもがき苦しみ続ける。
「飛べない」という自己のアイデンティティの喪失に苦しむ西方は、正直見ていられないほど追い込まれた姿だった。「影」を身に纏い、まだ飛べる、なぜ自分だけ、なぜ原田は、と周囲と自分を責め続ける西方を再生させたものこそ、「影」に隠れて見えることのない、「テストジャンパー」という裏方の仕事だったのだ。
アスリートは、注目されてなんぼの世界。常に天才が現れ続け、負けてなるものか、負けてなるものかと心血を注ぎ戦い続ける。その狂気の世界に少し足を踏み入れ追体験することができる、そんな映画だなと私は感じた。
いかんせん東京2020に翻弄されすぎた不運な映画であるとは思うが、十分鑑賞に値する作品であると思う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
というわけで、今回は映画「ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜」のレビューでした。
また、引き続き読者の皆様からの映画レビューのリクエストを受け付けております。下のURLから「募集のお知らせ」に飛んでいただき、コメント欄の方に投稿をお願いいたします。瑞野が責任を持って、レビューさせていただきます。
おしまい。