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【読書】ジョブ型雇用早わかり

マーサ・ジャパン編著で日経文庫から出ている、「ジョブ型雇用早わかり」を読んだのでまとめておきます。


1.ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用について、この本では以下のように定義されています。

従業員は特定のジョブの履行を、企業はジョブの内容に見合った定性な対価を払うことを約束する一連の雇用システム

ここでのポイントは、詳細なジョブディスクリプションを整備することではなく、個人が担うジョブについて会社と個人の双方が合意し、各個人のキャリアの主体的・自律的な決定(キャリア自律)を認めることにあります。

このような雇用システムによって人々はやりがいや待遇などの面からより良いジョブを求めて流動化が進み、市場原理が働くようになるのです。

つまり、企業と個人の関係性はジョブを介した対等なものとなります。
個人間にはジョブの獲得に関する競争が生まれ、企業間には人材獲得を巡る競争が生じるため、個人は自身でスキルアップを行ってキャリアを磨き、一方で企業側は優秀な人材を確保するために競争力を重視した報酬配分を行います。

また、人の出入りがあることが前提となるため、企業は事業戦略にのっとった要員計画、社内外を問わずそのジョブに必要な人材を配置することが可能となります。

2.メンバーシップ型雇用とは

一方で、日本企業で一般的なメンバーシップ型雇用についてはざっくり以下のようにまとめることができます。

会社は個人に雇用保障をする代わりに、個人はどのような業務にも従事するという約束で成り立つ雇用システム

メンバーシップ型雇用においては、会社と個人の関係は「保護者と被保護者」と言えます。

新卒一括採用での長期雇用が一般的であり、約40年分の先輩・後輩関係の中で価値観の伝達が行われ、均一性の高い組織が出来上がります。
そのため、すりあわせやノウハウの習熟に適しています

定年退職以外では人が辞めず、あくまで既存人員で組織運営をするということが前提のため、組織に必要な要因数は、「既存社員数ー定年退職者数+(新卒・第二新卒)採用者」という形で計算され、事業に対する要員の質的な過不足については検討されないということが起きています。

また、長期的な関係性が前提のため、構成員間における処遇の公平な分配を重視し、処遇に大きく差をつけることが組織として難しくなります。

3.ジョブ型雇用がクローズアップされる背景

昨今、ジョブ型雇用への期待が高まる背景として、デジタル化、グローバル化、少子高齢化という3つのメガトレンドがあげられます。

デジタル化により短期間で産業の枠組みが変化するなど環境変化が激しくなっており、市場も多様化しています。これらに対応するためには、すり合わせによる線形的な既存の技術の改善や価値の向上ではなく新しいケイパビリティが必要ですが、均一性の高い内部の人材だけで確保することが難しく、外部の市場価値の高い人材を採用することが不可欠となってきました。
外部から優秀人材を採用するにあたり、長期勤続を前提とした報酬体系や組織文化がハードルになっています。

また、メンバーシップ型雇用は年功性を色濃く持つシステムであり、少子高齢化で「支える側」の人数が少なくなると立ち行かなくなります
加えて雇用保障や不利益変更の難しさから、人件費の総額を増加させられない場合には報酬の高くない若年層の昇格や昇給を抑制せざるを得なくなります。そうなると仕組み上ただでさえ実際の生産性に対して相対的に少ない報酬となっている若年層にとって一層不利な状況になるので、外部に流出してしまい、さらに支える側が少なくなっていく負の連鎖がおきてしまいます。

さらには、メンバーシップ型においては従業員にとってリスキルやスキルアップのインセンティブがないため、中高年の不活性層が増える傾向があり、高齢化によって数多くの不活性な社員を抱えるリスクが高まります。

4.経営戦略と雇用システムの関係

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用はどちらかが絶対的に優れているというわけではなく、経営環境に応じて、戦略的に選択するものです。
また、それぞれが整合した人材マネジメントシステムを形成しており、両者はまったく異なる人材調達・活用の思想を根底に持っています。
そのため、部分的な導入では上手く行きづらいと言えます。

*メンバーシップ型雇用
安定した経営環境において有効
・決まった競争ルールの中での反復・習熟や勝ちパターンの再現が必要
・同質性の高い人的経営資源の安定供給が求められる

新卒から40年間に及ぶキャリアマネジメントを破綻させずに成立させることが重要命題であり、組織全体としての公平さを担保するために、人事部門によって例外をなるべく避けた制度運用が求められる

*ジョブ型雇用
変化に富んだ経営環境において有効
・変化する競争ルールに対応する敏捷性や柔軟性、新たな勝ちパターンの創出が必要
・人的経営資源のアジャイルな組み替え、多様性が求められる

あくまでも経営・事業のニーズに沿った運用が行える環境整備に焦点が当たっており、評価は公平性よりも育成に資することが重要となる
人事の運用主体は事業部のラインマネージャーが担う

そして、ジョブ型とメンバーシップ型のどちらを採用するかという異論は、自社の人材戦略(人的経営資源をどこから調達し、どのようにして育成、活用、投資していくか。それら一連の活動をどのようなコスト構造で行うか)の根幹にかかわる意思決定であり、本来それを判断するべきは人事部ではなく経営者なのです。

5.ジョブ型導入にあたって

ジョブ型の雇用システムが機能するためには、従業員の「キャリア自律」が前提となります。その実現には、以下の2つが必要です。

①マネージャーや個人に異動・配置決定に対する裁量権があること
②ジョブに関する情報提供

会社はできる限り個人が希望するキャリアに挑戦する権利を提供する必要があります。個人が自分で就きたいジョブを選んで応募し、ラインマネージャーの権限で複数の候補者の中から最も適任な者を採用できるようにしなければなりません。
ジョブに関する情報がなければジョブを選びようがないことは言うまでもないですが、さらにこれまでの日本企業では人事に関わる権限は人事部門が強く持っていることが多かったため、事業部門への権限移譲と、マネージャーへの能力開発が必要となります。

また人事制度や仕組みの面からは、以下の順で段階的に導入していきます。

「役割・貢献に応じた処遇の強化」→「公募制の拡充」→「報酬設定の柔軟性の強化」→「年金・福利厚生の見直し」

これまで職能資格制度をベースに報酬決定をしており、役割・ポジションと報酬があるようなケースでは一足飛びにジョブごとの市場価値に応じた報酬決定に移行するハードルがかなり高いので、まずは社内労働市場の中での相対的な役割・貢献度に応じた報酬設定を行うことが現実的です。

また、役割に応じて処遇に差をつけた場合、会社主導の異動をそのまま継続することは従業員の不満を強めることにもつながるので、できる限り公募制を通じた異動を全体的に増やし、キャリアの主導権を早々に個人に渡していくことが重要です。

人材の流動性を強化していき、企業と従業員の関係を相互依存的なものからその都度適切な価値を交換し合う関係に変えていくためには、流動性促進を阻害しているような退職金・年金制度・住宅などの福利厚生を見直し、その分を現金報酬や多様な人材に報いることのできる制度の原資に持っていくことを考えるべきです。

ここで、留意しておかなければならないのは人事制度の改定を行うと、ほぼ例外なくそれによって有利になる人と既得権を失う人が発生することです。

特にジョブ型の導入は期待されるロールモデルやキャリアパスの転換にもつながるので、メンバーシップ型雇用で自社にコミットしている人ほど、これまでのキャリアの在り方を否定されたように受け止められ、心理的な抵抗が増えます
ジョブ型への移行が会社へのロイヤリティの低下につながらないように、40代、50代のミドル層に対して心情的なフォローや処遇面での手当てをすることは重要となります。

6.まとめと感想

この本では、ジョブ型のポイントとして「個人によるジョブの選択と企業と個人間での合意」という点があげられていました。そして、ジョブ型を導入することで人材の流動性が高まり、人々はより良いジョブを求めてキャリアを磨くようになるということでした。

一方で、以前『人事の組み立て』という本を読みましたが、その中ではジョブ型の本質として「ポスト数の管理」と「会社主導でキャリアの階段を上らなくて良い」といったことが述べられており、ジョブ型を導入する狙いや、導入した後に想定されている世界観が少し異なっているようです。

今回読んだ『ジョブ型雇用早わかり』では、ジョブ型導入により経営として柔軟な人材確保を可能にすること、優秀人材の獲得やリテンション、個人間の競争によりリスキルやスキルアップが進み人材が活性化することを目指しており、
一方で、『人事の組み立て』では、キャリアの途中からジョブ型の仕組みを接ぎ木することによりWLBを優先した働き方を選択できるようになり、結果として企業として総人件費の抑制ができるといった点に主眼があったように思います。

現状多くの企業がジョブ型導入で目指しているのは『ジョブ型雇用早わかり』の世界観のように思います。
ちなみに『人事の組み立て』で示されていたような、現状より一定程度給与が低くなるジョブ型の働き方に自ら甘んじようという人は日本の大手企業にはそれほど多くない気がしました。
実際のところは社内外の人材との競争の結果、ある程度のジョブのところで打ち止めになるといった形になるのではないでしょうか。

↓以前読んだ本のまとめはこちら

そういえば自社でも「キャリア自律」はキーワードとなっていました。
キャリア自律を促進するためにキャリア面談の機会を拡充しようとしていますが、そもそもジョブに関する情報がとても少ないと感じていました。ごく限られた情報しかないのに何がしたいかを考えるのって正直難しいです。
自分がもやもやと思っていたことがこの本に書いてあってすっきりしました。

この点は結構40代以上のマネージャー陣と考え方が異なっており、自分たちは会社の決めた異動に従って目の前のことをやっていたらキャリアが出来上がってきたという経験が発想のベースにあるようです。若手メンバーとマネージャー陣で議論した際に「ある程度選り好みせずやることも大切だし、多様なキャリアのパターンもあるし、そこまでジョブの情報は必要ないのでは」と言われたことがあります。
そもそも、ジョブやキャリアの情報開示によって「どうやったら人事部長になれるか」といった道筋を知ろうとしているととらえられている節もありました。
いろいろと矛盾しているように感じてしまいましたが、マネージャー陣としてはそもそも人事権を個人に渡す発想がなかったのかもしれません。
でもそうなるとマネージャー陣の考える「キャリア自律」ってどういう状態なのでしょう。流行りのキーワードはなんだか分かった気になりやすいので、前提や具体的な状態のイメージをすり合わせることが大切ですね。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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