イオの讃歌
おはようござんすCome stanno tutti?お元気みなさん?
1週間前の満月の夜、近所の竜宮城じゃなかった女だらけの居酒屋の帰りに顔面スライディングしたケガに合わせて買った安い眼帯↑。
でももう治ってきちゃって。来週には傷も消えるなー。
眼帯の意味はあった。付ければやはりラク。T兄にもウケた。
しかも今週末T兄と私、T兄の親友S兄さんとその従姉妹夫婦(例の爆笑一族)と飲むのだがその際トーゼン付けていくじゃん?
既にオフラインに落とした例のテーマ。店内に入場する際かける。
T兄が自室押し入れの奥に入れておいた、彼が網走刑務所にいる間私が送った手紙の山を発掘。刑期の2年余り、毎週私がどんな物を送っていたのであったか?
という、イラストの数々と。
毎週送ってたエッセイマンガ。どう?この不安定で雑な画!汚い仕上げ!鬼スベるギャグ!
読者は彼一人(厳密には読んでチェックしてくださる係官がいらっしゃるのでその人も読者の一人とカウントしてた。水宮先生のまんがが読めるのはここだけ!)とはいえそれでもネタ起こして下描き、清書・色入れまでで1週間かかって。毎週レポート用紙20枚近く書く手紙の、あくまでおまけであった。
下手でもなんでも懸命ではあった。彼を慰め和ませ励まし、少しでも笑顔にするのが目的だったのだから。
手紙も読んでみた。
しばしば、ものすごく胸に迫ってくる。
これだけの枚数、絵やら俳句・詩、面白かった本やTV・ラジオ番組のレポートや解説感想、自分の精神病院入院などの体験談。私は障害年金と生保で細々生活だったとはいえもっと不自由でつらい生活をしている彼への思いやり、いたわり、笑わせようとするあらゆる試み。
彼自身がその生活を結果選択することになったとはいえ。
「救う」とかそんなのはなかった。「私がいなかったらこの人はどうなる?」も。
ただ、彼は私の大好きな、大切な人だと知らせるためだけ。腱鞘炎になりかけてた。
たまに読む手を止めて、その頃の自分につぶやく。涙が溢れる。
「おまえって奴は…」
しかも基本姿勢は変わってない。
いや、変わった、といえば変わった。
不変のものは変化し続けるもの。例えば水とかね。
その水を大量に含んだこの魂を、ずっときれいに保つよう日々暮らしてきた。それは生涯、続ける。気持ちがいいから。それを求めるから。それが自他にとって心地よいと知っているから。誰かの犠牲になるなんてまっぴらだけど。
花や可愛い生き物、風景の写真は300枚以上送ったようだ。プリンタが壊れていたため毎度コンビニプリント。そして古本をどっさり。←大量過ぎるので施設に寄贈してきてもらった。
養老孟司、猫ピッチャー、聖⭐︎おにいさん、句集、カラーの歳時記(これはT兄、自分で持ち帰った。彼に俳句を教えると才があり、最初の1年で驚くほど上手くなった。私一応、小なりとはいえ賞獲ってる中村汀女の孫弟子ですが悔しくて嬉しい。)、月や星、鳥の写真集、植物図鑑に辞書、バガボンド、杉浦日向子、ちくま書房の古典落語、猫の本etc.
懲役の方々がまったく読まない系ばかりだったようだがしょうがない。クライムバイオレンスやヤンキー漫画は全然分からないから何を買えばいいか分からなかったし買いたくなかった。送る私にだって買い物の選択の権利はある。私の年金をどう使おうが私の勝手だ。
リクエストがあれば受け付けたが、おかしなことに私の選んだ本は彼にはおおむね好評だった。まったく知らない世界で驚いたし面白いと。坂田靖子の『マーガレットとご主人の底抜け珍道中』はとてもウケた。読後、
「恐竜って、1億7千万年も生きてたの?じゃあ地球っていつできたの?」
という、胸キュン🩷な質問を手紙でしてきた。
答えると、
「じゃあ人間なんてほんの最近の新参なんだね。生きても80年くらいかあ。
そのにゃ子の貴重な2年を奪ってごめんよ…。残り30年はうんと幸せに笑って一緒に生きよう!」。
いや30年とか決まってないし、その日は今日あすかも知れないのよ?あなたに会えて毎日最高に幸せなのよ?と言っても、施設に閉じ込められて止まった(ように本人はきっと感じる。精神科に入った時、私はそうだった)人生が再び動き出すのを待ち侘びる人にとって、「人間はいつ死ぬか分からないけど確実に死ぬことは決まってるよ?私もよ?」
なんて言っても辛くなるだけだったろう。
ただ、何が起こるか分からないこと、何があってもあわてないできっと軌道修正していってと私が願う人は…
私は愛する人たちに、ことにそれだけは願う。何があろうが幸せに笑って生命をまっとうして欲しいと。
悲しみや後悔にうち沈んだまま魂を腐らせることだけはしないで。
すべて必要だから起こってるの。ほんとは自分で全部選んでるの。イヤなことはやめりゃいいだけ。我慢して焼けた石炭つかんでるみたいなことはもうしなくていい。当然。
世界はあなたを愛しているんだよ、そうでなきゃあなたは存在すらできなかった筈。
もし私が滅したあとでも。すべてがなくなったと感じても。
空を見て。地を、水を、花を。生き物を。聞こえる。すべてが言っている。
おまえを愛してると。
私は何年も何年もまえにね。聞こえたの。聞こえるようになった。だから安心しているの。
彼が戻り、ちゃんと二人で暮らし始めてそろそろ1年が経つ。
手紙では立派なようすで、もう二度と私を泣かせたりつらい目にあわせたりしないと誓ったT兄。私は私で自己を保ち高め彼を思いやり、いつも笑い合えるようと。
それはもちろん、言葉上のことだ。
大げんかもした。
期待と違う。それぞれがそう感じ、話が違うと腹を立てて。
それは鏡に向かって悪態をつくようなことだ。
いま?
いま。
私はそれはもう皆無。
T兄がたまにしくじったり、ぶっきらぼうだったり、無礼だったりしても全然腹が立ったりしない。過去の私もひどいものだった。それでもふとムッとしかけると
(キタキタキタ☺️このイライラを私が即外してすぐにっこりしちゃえば明日の朝はまーた、ミラクルが起きるのよ♪💖)
と、分かってるのでそうする。
正確には、何かにいらだっている人からはすぐに離れることだ。
その人が運命の恋人でもなんでもすぐ。
その人を、そしてその人の宝ものである自分と二人の深い想いを本気で守り育むつもりなら。
だまって静かに素早く片付け(元掃除屋にはお手のもの)、お風呂🛀でさっぱりすると自室で一人(目に見えない、この世ならぬお馴染みたちがいるのを考えたらまったく一人ではない)楽しい時間を過ごしてうふふと眠る。
翌朝、最高の気分で目覚めてげんきよく朝のルーティン。掃除を終える頃にはT兄がもそもそ起きてきて可愛く言う。
「おはにゃあ🥰」
「おはにゃあ😘」
つられてにゃあー、と鳴く小次郎🐈。
怒り。いらだち。それをしばしば表してくれるなんて、なんて精度の高い宝の鏡さん。
マイナス感情の上へポンととんで、そのまま夢の宇宙へ飛んでくと、翌朝二人はまた会うのだけど。
彼はなんだか昨日よりいい男になってるし、男振りも上がってきた。彼があんなに気にしてた抜け毛も白髪も減っている⁉️
あれ?私も白髪減ってきた。日々見てるし毎日床を手拭きしてれば一目瞭然。
かつては本当に腹立たしかったT兄のケチも意地悪も自己中も尊大さも、すべて私の中に色濃くあったから彼が映してくれてたのだ。
それを私が取っ払って笑いかけると鏡は?
小さくなるマイナスのゴブリン達。大きくなる虹の翼。
この先どうなるかなんて?
うなぎにでも訊いて。