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水草律子
2019年10月4日 19:41
まだ赦されないのか――最初の寝覚めで、彼はまずそう思った。そして、またすぐに眠り始めた。 つらい、かなしい、何でわたしがこんな目に逢わないといけないのだろう――彼はやりようのない怒りで揺れ、涙を流した。永遠かと思うほど泣き続け、それでも疲れ果てて眠りに落ちた。 彼は自由だった昔の頃を思い返していた。素晴らしいとき、何の制約もなく、行きたいところにはどこにでも行け、全てのものを手にし
2019年12月10日 18:34
私の人生が、些細ではあるが、ある時を境に変わってしまって、二度と元に戻らなくなった、その出来事を書いて置こうと思う。 今はもう七年も昔になるがその日、私は大多数の人がそうするのと同じく、列車に乗って、会社から家に帰るところだった。ロングシートに座っている私の右斜め前に、三十前後の女が立っていた。私は二つ、訝しんだ。一つ、私はその日、体をずらすのも億劫で、左端から二番目の席に座り、両隣が空い