組織における影役者を可視化する方法
2022.6.17号のプレジデント「報われる努力、ムダな努力」にインタビューいただいた記事が掲載されました。
この号には、努力を結実させる「7つのセオリー」がまとめられています。
(1. 戦う場所を選ぶ、2. 価値観を変える、3. 短期戦より長期戦、4. 脳を喜ばせる、5. しくみ化する、6. 弱点に固執しない、7. 役割に徹する)
どのセオリーも気になるものばかり&ALIFEの研究と関連付けて語ることができそうで、それを書きたい欲求に駆られますが、今回は、「7. 役割に徹する」の中で紹介してもらった「キーストーン」という概念に絞って解説したいと思います。
数は少なくても取り除かれると生態系全体に破壊的なダメージを及ぼすキーストーン
キーストーン種は、生物の生態系における「数は少ないけれど、それを取り除くと生態系全体のバランスが崩れるなど大きな影響を与える」種のことをいいます。たとえば、海の生物でいうと、ワカメやヒトデ、ラッコといったいろいろな種がいますが、ワカメのように数が多くて生態系のピラミッド下層部の種が消滅すると、その生態系が崩れるということは昔から知られていました。ところが、数は少なくても、取り除かれるとその生態系全体に破壊的なダメージを及ぼす種がいることが発見されました。1996年のことです。
この図は、生態系からある種を取り除いたときの、影響度を表したものです。横軸はある種が生態系に占める割合、縦軸はその影響を表しています。図左上のラッコやヒトデなどがキーストーン種で、数は少ないけれど影響が大きいものです。一方、右上にあるワカメやサンゴなどは数も多く取り除くと影響も大きい種です。
インターネット上のキーストーン
キーストーン種という概念を初めて私が知ったのは2010年頃でした。その当時、インターネットのデータからソーシャルネットワークを自動的に抽出するサービスを開発していました。名前を入力すると、その人と関係する人(インターネット上のページで共起している)を抽出して、ネットワークとして可視化するというサービスです。
ただ、自動的に抽出しているため、それほど関係のない人を取ってきてしまうこともあり、ユーザから削除依頼を受け情報を削除するということも頻繁に行っていました。そんなとき、削除するとサービス全体に大きな影響があるページがあることに気づきました。たとえば、TwitterなどのSNSでインフルエンサーがそのサービスから居なくなった場合を考えると分かりやすいかもしれません。ページビューの多い人物をサービスから削除するともちろん、影響は少なくないのですが、決してページビューが多くない人でも、サービス全体に大きな影響を与える人がいるというのが発見でした。
そこで、実際に、インターネット上にもキーストーン種の役割をしているコンテンツやユーザがいるのではないかと思い立ち、あるコミュニティの分析をしてみました。すると、やはりキーストーン種のようなユーザがいることが分かりました。さらに分析を進めると、キーストーンがいるコミュニティとそうでないコミュニティがあることも分かってきました。
キーストーン種が生まれるようなコミュニティをみていくと、誰かひとりが派手に活動しているわけではなく、ひとつの集団としてうまく機能していることも見えてきました。夕暮れ時になるとよく群れをつくっているムクドリを思い浮かべるといいかもしれません。100羽のムクドリの群れがあるとすると、1羽の動きが、残りの99羽に瞬時に伝わります。同じように、キーストーン種がいるコミュニティは、情報がスムーズに伝搬し、ひとつの生物のように有機的な関係性が内部で構築される状態になる傾向があります。同時に、一人が欠けるだけで全体のバランスが崩れてしまいます。
これまでの指標ではあまり注目されてこなかった人の貢献を可視化する
組織の中でキーストーンを特定できるようになると、これまでの指標ではあまり注目されてこなかった人が、それぞれの形でコミュニティに貢献してきたことがきちんと可視化されることに繋がると考えています。
ある仕事をしたとき、「この仕事はこの人の成果だ」と個人に帰着されがちですが、集団がひとつの生物のように機能しているとき、それは集団の関係性そのものが作り出しているものです。その成果を個人に帰着しようとする人事評価の指標ではない、オルタナティブな指標を提供することは、組織の適応性を高め、持続可能な組織へと繋がると思います。
組織をより活性化させるための介入ポイントを知る
キーストーンの指標は、組織をより活性化させるためにも使うこともできます。キーストーンの指標を使うと、組織の状態を定量的に測ることができます。それはつまり、誰と誰のコミュニケーションを活性化させると、情報が全体に瞬時に伝わるようなイキイキとしたコミュニケーションが行われるかを知ることができるということです。
メンバーの成長をサポートするために、1-on-1を導入している企業も増えています。また、Slackなどビジネスチャットを使うことも多く、メンバー間のやりとりがデータとして蓄積されるようになってきました。こうしたデータを組織マネジメントに活用するためのひとつの方法になるのではないかと考えています。
こうした研究成果を実際のビジネス分野で活用すべく、人事分野でSansanやビズリーチといった企業と共同研究や共同開発を行っています。ご興味ある方はぜひご連絡いただければと思います。