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#182 心の充足度は可視化なんてしなくていいんだ


2021年の夏、日本へ行ってしまった次男と入れ替わりに長男が家に戻って同居した期間があり、息子と私はよく一緒に散歩した。

その場に居なければならない職種の夫が出勤している間、遠隔勤務できる息子が時間を調整して作ってくれた散歩時間だった。


その日の会話は私が叫んだ一言に端を発した。

「あ~~っ、スマートウォッチしてくんの忘れた~!」

せっかくこうして真面目にウォーキングしているのに歩数を確認できない。それを悔しがる私に、
息子はこう言ったのだ。

「歩数が数字になった結果って、今日一日がどれだけ有意義だったかという指標だと思ってるでしょ?
それ、まるでSNSに載せた誕生パーティーの写真にもらう《いいね!》の数と似ていないかな?
その数があたかもそのパーティーの価値を測る手っ取り早い道具になってしまうのと、万歩計ってどこが違う?」

私 「‥‥‥‥」


う~~~ん。

息子の言うとおりだ、と感心した。

もし私が、誕生パーティーという大切な誰かのお祝い行事に居て、SNS発信することに意識をおいていたなら‥‥

その場で祝い、一瞬一瞬を楽しんだらそれで十分なのに、その『楽しんでいる充実した時間』を発信したことで《いいね!》の数が多かったらもっと嬉しくなり、少なかったらちょっと気落ちしないとも限らない。

息子はそういった人が意外に多いことを知っており、私が、心の満足度を数字で示そうとする安易さを風刺したのだ。


歩いた歩数は同じ。
一緒に見た景色も同じなら、
息子と一緒に歩いたという喜びも同じ。
消費したカロリーも、後で食べたご飯が美味しかったのも同じだった。

たとえスマートウォッチが「今日は1万歩を超えました、偉いです!」と言わなくても私の一日は変わらなかった。


実は今、Duolingo という語学アプリでスペイン語を勉強している。飽きっぽい私にしては続いている習慣で、連続学習50日を超えたところだ。

もともと大層な心構えがあったわけではない。ちょっと手持ち無沙汰な時、パズルゲームなどで息抜きしようか、というあの時間をこれに充てようと思ったのだ。

学習意欲をそそるシステムが心憎い。自分のリーグ内での順位がわかると、もうちょっと点数をあげて上位に行こう、とちょっとのプッシュを自分に課してしまう。

ところが、点数 (XP)を上げるため、ライバルのあの人を追い抜くためだけにガンガン設問をこなそうとする、それに気づいてしまったのだ。

『のんびり、ちょっとずつ着実に覚えていきたい』と思っていたはずだったというのに‥‥またも数字に気を取られて、ちゃんと記憶していない単語の上に新たな単語を詰め込んでいた。

少しずつでも新しいことを覚えていける『心の充足』だったスペイン語。それが、数字のための義務にすり替わりそうになっていた。

いかん、いかん‥‥
息子に言われて納得したことを、また忘れるところだったな、私。

自分の行動に意義があるのかないのか、どれだけの意義付けをするのか、それをなまじ可視化しようなんてしないほうがいい。

その瞬間をもっと純粋に楽しめるっていうこと、それこそが心の充足ってことなんだから‥‥



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コノエミズ
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