【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#106
20 辞職とビジネスと政変と(4)
ある日岡田から宴席の招待を受けた。
「ご免官叶いまして、おめでとうございます」
「めでたいことかの」
「我らにとってはめでたいことでございます」
「我らとな」
「造幣権頭の益田孝くんもおやめになったということで、アーウィンという英国人の貿易商人もつれて、合流することになるらしいです」
「そげな話は聞いとらん」
「面白い者たちが集まりそうでございます」
「そういえば、最近大蔵省が差し押さえた銅山が工部省の管理になっとったな」
「どちらでございますか」
「たしか尾去沢鉱山だったかとおもうが」
「良いお話かもしれませぬな」
「そうか、興味があるか。なれば工部省の山尾に文を書いておく。あとは工部省と話をつければよかろう」
「大久保さんが帰国されたようですね」
「あぁ、一応力不足で申し訳なかったと文を送っておいた。だがそのあと、引きこもってしまわれたようだ」
「木戸さんもそろそろ帰国されるとお伺いしました」
「まぁ、ふたりとも大きく変わった太政官をどう思うか見ものじゃ」
この日はそんな話をして終わった。
またしばらくすると、岡田が会社を立ち上げる件でお集まりいただきたいと連絡があった。
馨はその招待を受けた。
「岡田、鉱山の件進んだのか」
「はい、井上さんのお声がけのお陰でございましょう。無事こちらの希望がほぼ通りました」
「それは良かったの」
「それで、鉱山経営に当たり、視察をお願いしたいと思いまして」
「わしにも協力しろということか」
「できればと思いますが、まずは御覧頂いてからでよろしいかと」
「わかった。行くか」
「そうでございましょう。では、こちらの益田さんはもちろんご存知ですね」
「あぁ、おぬしも辞めているとは思わんかったよ」
「井上さんなしの大蔵省が面白いと思いませんので、きっぱりと辞めました」
「こちらが、益田さんの紹介でご一緒することになるアーウィンさんと馬越恭平さんです」
「よろしく頼む」
と馨は二人に挨拶をした。
「こちらが木村正幹さんです」
「よろしく頼む」
「本社は益田さんと木村さん、馬越さんにお願いして、東京に置きます。私は大阪支社を見ます。井上さんは総裁として全国を見ていただきたい」
「わかった」
「他の方々もよろしいでしょうか」
岡田が皆の確認を取ったが、反論はなかった。
「それで、鉱山の方は、鉱山技師も別に雇いまして、含有率のようなものも見ようと思います」
「わかった。これはかなりの規模になることじゃ」
「はい、会社と体制を興す必要もございます。速やかに行いたいと思いますので、ご予定の方はしっかりお願いします」
「ようわかった。これは楽しみじゃ」
馨が納得し、益田たちも視察に参加することが決まった。
このころ、この尾去沢鉱山に対して、大蔵省のやり口に不満を持っていた、所有権を主張する村井茂兵衛は司法省と相談していた。工部省との払い下げの条件を知って、提訴をすることにした。