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【おひとりさま】海辺のペペロンチーノ

駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。

今回のテーマは「#今こんな気分」です。

ビーチヨガ帰り立ち寄った店で散々待たされた挙句、そのパスタを口に運んだ瞬間、絶望した。ペペロンチーノというのはさ、茹で加減はもちろん、油分水分塩分のバランスがとても大事と思うのよ。食通ではないけれど、残念ながら全てが好みじゃない。海辺の喫茶店ということでなんとなく魚介メニューが食べたくて白身魚のペペロンチーノとやらを注文してみたけど、結局この得体の知れない白身魚、目の前の海で獲れたわけでなく、どこか遠くの海の図体がやたらでっかい魚なんだろうな。おひょうだかナイルパーチだか。

麺だって家で作るパスタとまるで同じ。大手メーカーのより安いプライベートブランドのやつでパサッとしてコシがない。これに申し訳程度の前菜のカポナータとカルピオーネ、それにホットコーヒーついて二千円近くか。

前菜は予め作り置きしているのだろう。適度に味がなじみ良い感じであった。しかし両方ともきんきんに冷えていて…。晩秋の頃、温かいスープや温野菜、フライ等にしてくれてもいいかもね。この店がハズレなのか。いや、隣の席からハンバーグのまろやかな良い香りがしてくるから、メニューのチョイス間違えたかね。
よくみると床が抉れている。外からは分からなかったがそれなりに古い店のようだ。キッチンも年季が入ってそうなもんである。キレイなのかな、なんて思ったり。しかし、鄙びた雰囲気の店内に流れてくるノラジョーンズを聴いていると、それもそのうちどうでもよくなってしまった。

隣の席で中年女性と小さな子供とランチをしていた老夫婦が会計を始めた。時々敬語が交じるぎこちないやりとりから、おそらく一緒にいたのは娘でなく嫁であろう。中年女性は子に言われるがままに、小さなケーキを追加注文していたので、「お義母さん、あんたが払うんかい」と驚いた。大変余計なお世話である。

ショーケースには、べっとりしたムースのチョコレートケーキと生クリームでははく植物油脂が挟まっていると思われる安っぽいミルクレープがまだ数点残っていた。奢ってもらうことが分かってるなら子供を嗜めるとか、義両親に「追加いいですか」とか聞いてみそうなものだがね。なんて、誰目線なんだ、私は。独身の私には義理の関係とかむず過ぎるし、ただでさえダンナ不在で義理の両親、あくまで他人とランチなんてごめんだ。なんならダンナとランチ、てのだってうまく想像できないくらいなんだから。会計6600円。よそ様の懐事情は知らないが年金生活者だとするとなかなかの出費だ。

そうこうしているうちにランチ客は帰りだし、店内は自分ひとりとなった。秋が深まるなかで、今日は天気が良くまだまだ夕方の兆しが見えない。秋の夕暮れはどうも感傷的な気分になる。「安うま」ならぬ「高まず」ペペロンチーノの余韻を残しつつ日が高いうちにうちに帰ろう。

文:べみん
編集:アカヨシロウ


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