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どんな人がファシリテーターに適任ですか?

先日、生産性向上に関する研修を行わせていただいた際に、受講者の方が質問していただいた内容が、今回のタイトル「どんな人がファシリテーターに適任ですか?」でした。

皆さまの施設・事業所の会議、委員会を思い返して頂いても、どうしても発言力が強い方(役職者や経験年数が長い方、偏見かもしれませんが介護職より看護職など)がいらっしゃるのではないでしょうか?
そのような発言力が強い方がグイグイ会議や委員会を引っ張っていったらいいのではないかと思われがちですが、特定の方が会議全体の大半の発言をしてしまう状態をレゴ研修の中では「20(%の人が):80(%の発言をしてしまう)の会議」と揶揄しています(要するに望ましくないということです)。
そうならないよう、全員が発言できる会議「100:100の会議」を目指す"共有の意思決定"を行えるよう心理的安全性を高めるご支援をしています。

ファシリテーターは会議や委員会の司会者とイコールと思われているかもしれませんが、会議次第に沿って発言者を指名していく程度の司会者と、発言や意見の交通整理をして想定したゴールである意思決定に導くファシリテーターとでは、全く役割も求められるスキルも別物です。
とある法人のリーダー層にファシリテーターの指導を行っている事例(A君)をもとに、私のファシリテーターとしての経験を踏まえた私見として、「どんな人がファシリテーターに適任でしょうか?」に、あらためて答えていきたいと思います(日本ファシリテーター協会公認の考え方などではありません)。

以前もファリシテーションスキルについて取り上げた記事がありますので、併せてご参照ください。


特徴①:自分の主張ばかりしない人

1つ目の特徴は、自分の主張ばかりしない人です。
先程の「20:80の会議」の20%に該当する人物では、独断と偏見で発言したり、勝手に決定してしまい、会議や委員会の発言や意見をもとに想定したゴールに導くことはできないでしょう。
そのような人は心理的安全性を阻害する要因にもなりますので、ファシリテーターとしては不向きです。

事例では会議において発言の口火を切ろうと、ファシリテーターのA君が「私(△△)は~と思います。○○さんはどうですか?」と発言を振る場面がありました。
A君は主張ばかりするタイプのファシリテーターではありませんが、自分の主張ばかりするファシリテーターがこのような振り方をすると「△△さんと同じ意見で~」と意図せずとも同調圧力がかかり、同じ意見ばかりが出る可能性が高まります。

ファシリテーターを務める方の発言が多くならないよう、相槌を打ちながら聞くにとどめ、要所要所で「ちょっといいですか!」とポイントを押さえた発言程度にしましょう。
あくまでもファシリテーターは客観的な立場で会議や委員会に参加し、発言や意見が出やすいような黒子に徹してください。
会議や委員会の議論の全体像を俯瞰して聞きながら、想定した意思決定に至りそうであれば黙っておき、思わぬ方向に行きそうであれば「ちょっといいですか!」と軌道修正するためにファシリテーションをおこないながら、想定したゴールに導くことに注力しましょう。

特徴②:議論の全体像を俯瞰し、整理できる人

会議や委員会のやり取りをただ傍観者のようにボーっと聞いているような人は、ファシリテーターに不向きです。
ボーっと会議や委員会に参加されないよう、事前に次第を共有したり、意見を考えて臨んでもらうよう働きかけが必要です(次項の問いかけのサイズも参考にしてください)。

会議や委員会の意思決定において想定したゴールに導くためにも、議論を整理するためのフレームワークや基準を身に付けている人は、発言や意見を脳内でも整理し、議論全体を俯瞰して捉えることが出来るでしょう。
例えば、「○○という意見が多いのでKJ法を使ってグルーピングしましょう」「発言内容をSWOT分析の項目に振り分けてみましょう」「バランストスコアカードの4つの視点で発言内容の関連性を戦略マップとして落とし込んでみましょう」など、発言される情報をつぶさに整理し、議論をスムーズに展開させるスキルが求められます。

そのためには発言の見える化として、ホワイトボードに発言内容を記載したり、付箋を用いてグルーピングしやすいような工夫を行いましょう。
参加者の注意(意識)が手元の次第や資料に行くのではなく、同じ場所(ホワイトボードなど)に向かせるためにも効果的です。

また、想定したゴールに向けて、意思決定のマイルストーン(議論の中間地点)も想定しておきましょう。
A君の事例では「利用者の余暇活動の充実」というテーマで話し合いの場を設けました。
「利用者の余暇活動の充実」について、必要性や取り組みたいという意向は共有するものの、職員不足や忙しいという理由でなかなか実践まで至っていませんでした。
そのため、以下のような意思決定のマイルストーン(議論の中間地点)を設定し、丁寧にコンセンサス(合意形成)を図りながら、話し合いを終えることができました。

「利用者の余暇活動の充実の必要性についての合意形成」
(余暇活動の充実に取り組むコンセンサスを得る)

「どのような余暇活動を充実させるか」
(フロア・ユニット行事、施設全体の行事など)

「余暇活動の充実を阻害している要因の抽出」
(余暇活動を充実させたいという意見だけで終わらせないために)

「阻害している要因の対策」
(人がいない、忙しい、建物が古い以外の対策を講じる)

「余暇活動の充実のPDCAの管理体制」
(定例会議の次第の中でDo→Check→Actionを管理させる)

余暇活動の充実という取り組み成果

余談ですが、私は新規のお客様との初回面談を行う際は、東京都福祉サービス第三者評価のカテゴリーごとに組織が抱える経営・サービスに関する課題を整理し、仮説を立てて、主訴だけではない提案を行えるよう心掛けています。
お客様が捉えている経営課題の本質を把握し、それに関連する要素と結び付けて経営改善することの相乗効果についても伝えるようにしています(人事制度の見直しが主訴であったが目標管理制度の導入にあたって、事業計画との連動性を図るために事業計画書の作成支援や内容のアップデートも行うなど)。

特徴③:発言や意見に対して評価しない人

議論の全体像を俯瞰し、整理できる人は自分の考え方や価値観、フレームワーク、基準から逸れるような発言や意見がある場合、口に出さなくとも意図的にスルーしたり、「こんなことをしても意味がないので、この意見は採用しません」といった発言や態度をとることは望ましくありません。
ファシリテーター自身の考え方や価値観などに沿わない場合のネガティブな発言や態度によって、心理的安全性を阻害することにならないよう注意しましょう。

あくまでも発言や意見に対しては平等・公平に取り扱っていただきながら、フレームワークや基準に落とし込む際に、上手くグルーピングできない意見は「その他の意見」といった形でまとめたり、少数意見であっても、懸念点など重要な要素が含まれている可能性がありますので、大事に取り扱いましょう。

ファシリテーターの役割として、想定しているゴールに導くことを優先しすぎるあまり、無理やり議論を終えてしまったり、多数決のような意思決定に至ってしまう場合があります。
当初予定していた時間で想定していたゴールに導けない場合、時間的な余裕があるのであれば、「今日は意思決定まで行けないので、意見を出し切りましょう」「今日でた意見を踏まえ、来月の会議で意思決定します」と大きな時間軸での意思決定のマイルストーン(議論の中間地点)も想定しておきましょう。

特徴④:発言や意見を引き出せる人

「特徴①自分の主張ばかりしない人」で記載した通り、ファシリテーターは会議や委員会に客観的な立場で参加し、発言や意見が出やすいような黒子に徹してください。
そして、参加者から活発な発言や意見を引き出せるような問いかけや働きかけをしましょう。

しかし、問いかけする際には、問いの大きさに注意をしましょう。
以下の問いを見てください。、

「夏祭りの話し合いをするので意見を考えて臨んでください」
「夏祭りの模擬店の話し合いをするので意見を考えて臨んでください」

同じような問いかけですが、問われている範囲が全く異なります。
前者は「夏祭りの何を話し合うか」が特定されていないため、「模擬店のこと?」「出し物のこと?」「開催日のこと?」など考えてくる内容がバラバラで、想定したゴールにたどり着く可能性が低くなります。
後者であれば、「夏祭りの模擬店」と特定されているため、「焼きそば」「たこ焼き」「かき氷」と想定したゴールにたどり着きやすいでしょう。

このように、会議や委員会で発言や意見を出しやすくするためには、問いかけのサイズも意識しましょう。
「今晩何食べたい?」と尋ねられるより、「中華とイタリアンどっちがいい?」「なにパスタが食べたい?」と尋ねられた方が問いかけた方が欲しい答えが返ってくるでしょう(「今晩何食べたい?」と聞いても、「なんでもいい」という返事しか返ってこないでしょうね)。

また、発言や意見を求めても「わかりません」という思考が停止している方がいます。
発言しなくても、時間が経てば会議や委員会、個別面談などの話し合いの場から解放されると思っているかもしれません。
そのような場合、「あなたならどのような取り組みをしますか?」「あなたはどのような点が懸念点だと思いますか」といった"あなた"を主語にして、当事者意識を持ってもらい発言や意見を引き出しましょう。
「わからない」という発言に対して、ファシリテーターや面談者がティーチング的に発言量が増えないよう注意しましょう(話し合いの場を別日に改めるということも必要です)。

特徴⑤:自分自身も思わぬゴールに導きたいと思っている人

ファリシテーションを通して、想定しているゴールに導くことがファシリテーターとしての最優先のミッションですが、参加者からの発言や意見が活発に出てくると"ゾーンに入る"というか、みんながランナーズハイのような状態になって、思わぬ発想や着眼点により、想定していた以上のゴールに辿り着くことがあります(想定していた以上の上位目標、想定していた以上に踏み込んだ内容など)。

それはファシリテーターによる場づくりにかかっていると思いますが、想定しているゴールに導くだけではなく、ファシリテーションを通してファシリテーター自分自身も思わぬゴールに導きたいと思って発言や意見を引き出せる人はファシリテーターに向いていると思います。
要するに、結果ありきのファシリテーションを行う(=想定しているゴールにただ向かう)のではなく、あくまでも毎回Live感のある、生ものとしての会議や委員会としてファシリテーターがイキイキと活躍できる場とでも表現しましょうか。
会議や委員会に参加する職員を最大限に生かした場づくりができる(=ライブのようにアドリブも大事)スキルがファシリテーターには求められるスキルといえるでしょう。

まとめ

私も日本ファシリテーター協会の研修を受講したことがありますが、ファシリテーションスキルを高めるためには「ファシリテーターとしての場数を踏むしかない」かなと思います。

福祉・介護現場における生産性向上の取り組みを推進させるためにも、「支援・促し役」の存在が不可欠です。
生産性向上の取り組みが推進しない場合、ファシリテーターとなる人材が「推進しない要因は何でしょうか?」「その要因を解消するためにはどのような取り組みが必要でしょうか?」「その取り組みはどのように進めることができますか?」といった意思決定のマイルストーン(議論の中間地点)を丁寧に辿っていくことで、「組織づくり」や「リーダー層の育成」「PDCAサイクルの強化」などのテーマが抽出され、改善活動に落とし込むことになるでしょう。

上記の4つの特徴を意識しながら、自分に当てはまる部分があれば、改善したり、意識的にファシリテーションに取り入れてみてはどうでしょうか。

管理人

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