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「古今十七文字徘徊」帖

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古今のふれあった俳句作品についての所感を記録しておくノートのまとめです。作品にふれあうというのは、きわめて個人的なことで、古典として名高い名句とか、コンクールの優秀作品とか、そう…
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2024年7月の記事一覧

#15 炎天にてり殺されん天窓哉     一茶

#15 炎天にてり殺されん天窓哉 一茶

 朝飯を食べながら、NHKのニュースをつけると、トップニュースの中で当地の今日の最高気温予想は、40℃であると云うでないか。命にかかわる程の危ない気温であると、アナウンサーが真面目顔でいう。
 この街は北埼玉のどちらかというと平凡な地方都市であるが、地方気象台があるおかげで、夏であればほぼ毎日天気予報では引き合に出されてしまう。だから、毎朝、お天気情報は知りたくなくても知らされてしまうのだ。それに

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#14 中年や遠くみのれる夜の桃 三鬼

#14 中年や遠くみのれる夜の桃 三鬼

中年や遠くみのれる夜の桃 西東三鬼

 この句は、昭和23年刊の句集「夜の桃」に収録されている。作られたのは、22年冬から22年秋までの間であるらしい。
 「中年」ということで、作者の実年齢をあげれば、この句の成立時は四十七歳から四十八歳にあたる。
 概ね俳句というのは一人称の表現であるから、その当時の三鬼のある瞬間の所感であるだろう。

 角川文庫版の『西東三鬼全句集』の「自句自解」にはこうある

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#13 思想までレースに編んで 夏至の人  伊丹公子

#13 思想までレースに編んで 夏至の人  伊丹公子

 その後も、ぼちぼちと蔵書整理をしているのだが、「花神現代俳句 伊丹公子」という、どうやら自選句集であるようだが、出てきた。これも、例の古書店で105円の値札がついていたので、剥がした。
  その、伊丹公子さんの第一句集『メキシコ貝』(昭和40年刊)からいくつかの句を。

 思想までレースで編んで 夏至の女   伊丹公子

 熱い耳潜る プールの底は 多彩

 わからない未来に賭けて ひらく日傘

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#12 行水や美人住みける裏長屋  子規

#12 行水や美人住みける裏長屋  子規

 こう暑くては、風呂で汗を流すのが一番の楽しみだというと、爺さん臭いといわれそうだが、本当にそうだ。曲がりなりにも衣食住が満たされ、その上、毎夜風呂につかることが出来る隠居の日々に何の不足があろうかと、お天道様は云われるだろう。まったくだ、まったくだ。
 
 その風呂であるが、この頃のように家々に内風呂があるなんていうことは、考えられなかった。自分がまだはな垂れ小僧の頃まで、他の家の風呂にいれても

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#11 七夕の夜はかりそめの踊かな  井月

#11 七夕の夜はかりそめの踊かな  井月

 こう暑いと、老耄はなはだしい己のおつむから、句を絞り出そうすると、一層暑苦しさが増してくるので、先人達のお作を読ませていただいて、七夕の夜を祝いたいと思う。

七夕の夜はかりそめの踊かな  井上井月

 いいねえ。
 岩波文庫版「井月句集」の脚注では、「七夕踊」について柳亭種彦の「小女の人情に盆を待ちかねて、七夕よりをどる故のなるべし」という言葉を引いてある。本格的には盆踊りなのだから、七夕の夜

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#10 動く葉もなくておそろし夏木立 蕪村

#10 動く葉もなくておそろし夏木立 蕪村

 鬱蒼とした夏木立の道を行く。
 行く手も、振り返っても、森はまったくの無風で、葉っぱ一枚動いてない。
 静まりかえっている、不気味、おそろしい。

 そんな感じだろうか。

 関東平野の水田地帯に生まれたので、身近には小さな雑木林はあったものの森林とまでいえるような場所は無かった。

 何度も書いてきたが、武蔵丘陵森林公園は自分にとって心身のリフレッシュの場であるのだが、平日の人気のない林間の道

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