水と社会の繋がりを可視化してみた① ~水の利用・管理・国際政治~
「水」の視点で生活やビジネス、そして社会をもっと良くできるのでは?
でも、「水」を意識するキッカケって少ない!
そこで今回は、全2回に分けて「水と社会の繋がり」について書きます。
水を「社会をより良くする超優良ツール」と捉え、皆さんが取り組む社会課題解決のヒントになれば幸いです。
ちょっと重めの内容ですが、ご興味のある部分だけでもご一読いただけると嬉しいです。
水と社会の繋がりマップ
早速ですが、水と社会の繋がりマップを作成しました。
私自身、改めて「水ってガチで万物の根源じゃん!」と再認識しました。
今回解説する「水の利用、水の供給管理、国際政治」では、私たちの生活を支える多面的な水利用、自然制約の視点から、水と国際秩序を紐解きます。
第2回では、それらを機能させる「ビジネス、イノベーション、教養」について解説します。
水と社会の関係性を深堀りすることで、「水を起点とした社会へのアプローチ」の参考になるかと思います。
①水の利用 ~水を通じて、ワクワクをつくる~
まずはイメージしやすい「水の利用」についてです。以下のカテゴリーに分類してみました。
・家庭
水道や下水道は、私たちの生活に欠かせない飲み水や炊事、風呂、トイレ、災害被害の低減などを支えています。
水道の目的は「豊富で清澄な水を安定供給すること」、下水道は「浸水防除、公衆衛生向上、水域保全」と法律で定められており、その両輪で私たちの暮らしを支えています。
・産業
AIのデータセンターでは大量の冷却水が使われます。また、半導体の生成過程では、”超純水”という最高グレードの水が必要です。台湾の半導体メーカーTSMCは、熊本の豊富な地下水に着目し、日本に進出しています。
その他にも発電や農業、食品加工など「水」を必要としない産業はありません。金融やコンサルといった知的産業も、生成AIの使用などを通じて、間接的に大量の水を消費しています。
・レジャー、娯楽
遊園地のアトラクションでは、その世界観を「色のついた水」で表現することがありますが、特殊な薬品を用いて「水がかかっても服が汚れない」工夫がなされています。
水族館では、魚が住みやすい水質と水槽の透明度を保つ特殊な水処理が常時行われています。
釣りやキャンプ、カヌーといったアクティビティにも水が重要ですし、食材やお酒も「水」が味を左右します。
・町づくり
災害時の水供給機能を確保したり、景観保全や水辺の整備、地域ブランディングなど、「水で暮らしやすい町づくり」が可能です。
最近では、水×地方創生も活発になっています。例えば、岐阜県の山県市では豊かな清流を活かした「循環型サウナ村」として、地域のブランディングを行う事例も出ています。
水道や下水道に限らず、水はあらゆる面で私たちの”ワクワク”を支えています。水”で”生活や社会を面白くする視点で、さらに水を活かす余地もありそうです。
②水の供給・管理 ~コモンズである水を管理し、暮らしと環境を支える~
水を通じて私たちのワクワクを維持・向上するには、限られた水資源=コモンズを適正に供給・管理する必要があります。
そこで重要となる概念が「水循環」と「流域」です。
水は、太陽エネルギーで海や陸から蒸発 ⇒ 雨や雪となり地上 ⇒ 地下水や河川 ⇒ 海へ戻る循環を繰り返しています。これが「水循環」です。
また、水循環の境界線で区切られた地域を「流域」と言います。
私たちは、流域単位で水循環の”バランス”を崩さないように、水源や水の利用(量と質)を考慮しなければなりません。このバランスが崩れると、水質汚染、洪水や渇水、生物多様性の喪失といった社会課題が顕在化します。
流域や水循環のバランスによって、水資源が豊かな地域、貧しい地域があります。そうした「水の偏在性」に合わせた水の管理が重要です。
最近では、住民を含めた流域のステークホルダーが一緒に取り組む「流域治水」も広まりつつあります。
自分の住居地の流域が気になった方は、ぜひ流域マップで確認してみてください↓
「健全な水循環」のバランス、人々の生活が崩れないように、日本では主に以下の法律が定められています。
これらの法律をベースに、水利用の目的や地域に応じて「分散型」と「集約型」の水インフラを適切に組み合わせる必要があります。
以下に、適用例を図解してみました。
日本の水インフラは人口減少や財政難、老朽化、災害激甚化に直面する「課題先進国」であることから、都市部での分散型水インフラ(井戸水や雨水)の活用や、古い水処理技術の見直しが進んでいます。
私が携わった、以下のバリ島農村の水道プロジェクトでは「住民主体で管理する簡易水道」を整備しましたが、今後の日本でも参考になるかもしれません。
健全な水循環・流域といった「自然の制約条件」をベースに、多様なステークホルダーと利害調整を行いながら、適切な水インフラを組み合わせることが、持続的な水供給に重要です。
水インフラの構造について興味のある方は、以下の記事ものぞいてみてください。
③水と国際政治 ~水を起点に国際課題を解決する~
水は「国際課題」を解決するツールであると同時に、国際政治でコントロールする必要があります。
世界的な気候変動、脱炭素、生物多様性、災害激甚化、水不足といった課題は、上述の「健全な水循環」や「水の偏在性」と密接に関わっています。
水が不足する地域では、弱い立場の女性や子どもが、長時間の水汲み労働を強いられ、安全なトイレも使用できずに、「ジェンダー、教育、貧困」の格差が拡大しています。
こうした課題に対して、日本は高い技術力をもとに、国連やUNICEF、JICA、NGOといった国際組織を通じて、途上国の水インフラ、水資源管理支援で国際政治に参画しています。
また、国際河川の下流国が水質汚染の被害を被るケースや、水利権をめぐる水紛争など、国家間の争いも生じています。
これらの課題には、国際河川の上流国や力の大きな国の「無理な水利用」を抑制し、流域単位で適切に水資源管理を行う「国際協定・規制」が必要です。
例としては、国際河川の公平な利用を義務付ける「国際河川管理条約」や、流域単位の持続的な水資源利用を推進する「統合的水資源管理」があります。しかし、批准国の数や国家間の利害調整が不十分であり、効果は限定的です。
「水循環」と「地政学」の視点からみると、水に関わる諸問題は”構造的に”解決が困難なことが良く分かります。
一方で、ポジティブに言い換えると水には国際的な利害調整を行う政治的機能があります。
日本は幅広く高度な水管理技術を有しながら、島国ゆえに国際的な中立ポジションを取りやすいことから、水で「国際的なプレゼンス」をもっと高めるチャンスがある気がします。
例えば日本の「分散型水インフラ技術」を通じて、従来の国・地域間の利害を超越した「新たな水アクセス」を提供することで「国際調和」を主導できるかもしれません。さらには、経済的なメリットも享受できるはずです。
次回は、水の持続利用のために重要となる、水とビジネス、イノベーション、教養について解説し、「水と社会の全体像」に迫ります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!