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どこかのだれか

3
こんな人だっているかもしれないと、妄想を膨らませて書きます。
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#小説

フェアウェル

かあさんが死んだらしい。

そのことを聞いた時、今朝大声で謝ってた女の子のことを思い出した。

結局、たくさんの簡単な言葉を、わたしは言えず終いだった。

スピーカーの向こうから、聞いたことないとうさんの声が流れてくる。

あと5分で昼休みが終わる。

また後でかけ直すからと伝えて、携帯を耳から離した。

そんなに広くないオフィスが、とんでもなく広く感じた。

隣の同僚が心配してくれたので、事情を

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トライアル

そういえば、本当に地に足がつかなかったことは今までなかったなぁ。

地面に立ってるって、幸せなことだったんだぁ。

「ッゲっフン!」

大きな背中の向こう側から、大げさな咳払いが聞こえた。

そうだ、思い出した。

ここは電車の中で、ぼくは学校へいく途中だ。

ぎちぎちと音が聞こえそうなくらい、車内は人で詰まっている。

そして、人と人とに挟まれて、つま先だけ床に触れている状態だ。

10分前にい

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ストラグル

朝の3番線は、今日も人が多い。

ごった返したホームに車輪の軋む音が聞こえ出すと、

人々は静かに闘志を燃やし始める。

もちろん、私も例外ではない。

憂鬱な通勤を、いかに快適にやり過ごすか。

電車を待っている間、何通りもシミュレーションを行った。

ここ最近は敗戦続きだが、今日こそは。

いよいよ、車両が見えてきた。

手提げ鞄を両腕で抱きかかえる。

これで、少しは痴漢と間違われずに済むだ

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