19歳の私、恋とサイダー。
過去の恋愛の話をしようと思います。
特別な何かが起こる、というわけではないのですが…。
なんとなく、ここに書いてみたいと思いました。
私の心の奥底に残る、忘れられない出来事です。
記憶の箱を開けて、思い出しながら書いてみたいと思います。
1.彼との出会い
今から何年も前、19歳だった頃の私。
彼と出会ったのは暑くなり始めた7月頃だったと思います。
映画好きだった私は、友達の紹介で、映画好きな人たちが集まる会に参加したことがありました。
そこで同い年の、当時19歳だった彼に出会いました。
半袖のTシャツに半ズボンという普通の夏らしい服装。
イケメンというわけではないし、背も低く、特別スタイルがいいわけでもない彼に、
なぜか私はなんとなく心が惹かれました。
その集まりの時には、他の人もいたため、彼と特別たくさん会話を交わしたわけではなかったのですが、
帰りの方向が一緒になった彼に、歩きながら
「次は二人で遊ばない?」
と誘われました。
私の中で、恋の実が徐々に膨らんでいっているのを感じました。
うれしくてうれしくて、たまりませんでした。
当時の私は男性と交際経験がなく、デートもあまりしたことがなかったので、それだけで私の胸はドキドキしっぱなしでした。
お互いのLINEは知っていたため、会話のやりとりをしばらく行いました。
待ち合わせ場所や時間はすんなり決まりました。
観たい映画がある!待ち合わせは15時でどう?
15時でどう?と彼にLINEで提案された時、
「あ、12時からとかじゃないんだ…」
と思いました。
私はてっきり、12時くらいに待ち合わせして、一緒にお昼を食べるのだと思っていたからです。
15時からだと、一緒にいられる時間が短くなってしまう。初めて2人で会うのに。
でも私は、彼と会えるのがうれしくて。
デートができるのがすごくうれしくて。
承諾し、当日を迎えました。
2.ドキドキの初デート
彼と待ち合わせ場所で落ち合い、映画館に向かいました。
彼が券売機で観たい映画の予約をしようとしてくれましたが、ちょうど良い時間が空いていませんでした。
「帰りちょっと遅くなるけど、18時過ぎからの回でいい?」
早めに映画を観れないことに残念な気持ちになりましたが、仕方ないので18時の回でチケットを取りました。
まだ公開したばかりの映画だし、しょうがない。
映画まで時間を持て余した私たちは、カフェに入りました。
カフェで私はサイダーを注文。
彼は…何を頼んでいたか忘れてしまったけれど、私とは別のものを頼んでいました。
甘い。しゅわしゅわした炭酸がはじけて、体を満たしていくのを感じました。
私が飲んでいるサイダーを見て、彼が言いました。
「それ、一口もらってもいい?」
彼は、私が驚きながら差し出したサイダーのストローに口をつけ、少し飲みました。
か、間接キスだよね…これ。
彼女とかじゃないけど、まだ会ったばかりの私にするんだ…!
いや、特に気にせず誰の飲み物でも口にできる人なのか…?
それだけで私はドキドキしてしまい、彼の目を真っ直ぐに見ることができなくなりました。
知り合ってから期間はそんなに経っていないけれど、私に対して悪くは思ってないのかもしれない、と思いました。
彼は緊張はしているようでしたが、一口もらうことに対してはあまり深く考えていないみたいでした。
この時の私は、異性と二人きりで会う、デートをするということが非日常すぎて、なんだかずっとふわふわしていました。
カフェでも、緊張しながらですが自分のことについて色々と話をしました。学校の話、趣味の話、地元の話。
私が読書が好きだと言うと、「俺も本読むよー」と言ってくれて、共通の趣味をまた見つけられて、うれしかったです。
「"蹴りたい背中"って知ってる?」
彼が言いました。
私が知らない、と言うと、綿矢りささんの小説で、読みやすくて面白いのだと教えてくれました。
近いうちに、調べて読んでみよう。
おすすめの小説を教えてもらえたことが、とてもうれしかったです。
彼は趣味の中でも映画がやっぱり大好きなようで、学校では映画を専攻し学んでいるとのことでした。Twitterもやっていて、こういう映画を撮影したことがあってTwitterで宣伝している、とスマホを見せながら話してくれました。
3.初めて触れる瞬間
気づけば17時になり、少し早かったけれど彼の提案でお店を出ることになり、彼と横に並んで歩いていました。
彼と歩く道は、いつしか行ったことのない場所に向かっていました。今までに見たことのないキラキラしていて、怪しいお店が立ち並ぶ光景は、今でも忘れられません。
その通りを抜けると、周りにはホテルが立ち並んでおり、初めて踏み入れる空間だったので、驚きました。
あれ、映画館ってこっちだったっけ。
疑問に思いつつも、その場所に不慣れな私は土地勘もないため、変な緊張感を持ちながら、おとなしく彼と一緒に歩いていました。
私の横で歩いていた彼が突然、
「手、繋いだことある?」
その言葉にドキッとしました。
恥ずかしくなり、ないよ、と笑って言うと、
彼は私の左手を取り、自分の手を絡ませました。
彼の手は思っていたよりゴツゴツしていて、女の私とは違うのだということを感じました。
これはどういうことなんだろう?
好きとか、付き合って、とか言われてないけど…。
緊張しすぎて、頭の中で色々と考え過ぎて何も言えずに、私はそのまま彼と手を繋いだまま歩いていました。
彼もしばらく何も言わずに歩いていましたが、
「手繋ぐの久しぶりだから緊張するなー…」
と照れ臭そうに私の横で言いました。
初めてちゃんと繋いだ男の人の手は少し汗ばんでいて、本当に緊張しているのがわかるのと同時に、彼が前に誰かと手を繋いだことがあるのだと知り、胸が締めつけられました。
これがきっかけで、私は彼に恋をしてしまっているのだと、はっきりわかりました。
あの頃の私はとても純粋だったな、と今では思います…。
4.夜の暗がりの中で
手を繋いだものの、そのままなぜか来た道を戻ることとなり、映画館へ。
映画は少しバイオレンスな表現もありましたが、とても面白く見入っていました。
映画の面白さもありますが、隣にいる彼にドキドキしながら見ていたので、その時の感情は今でも覚えています…。
映画が終わった後は、夜ご飯を食べに行くことはしませんでした。彼は口数も少なく、ただ黙って歩いていました。
映画の感想を語り合いたいな、と思っていた私は少し残念に思いました。
気づけばもう20時過ぎで遅めの時間になっていました。
そろそろ帰らないと、と私が言うと、「そうだね」と彼。
辺りはもう真っ暗でした。
駅に向かって歩いていると思っていたら、私が進む方とは違う方に進もうとする彼。
あれ、駅はこっちじゃないの?と言うと、「こっちだよー」と彼が言いました。
あまりこの場所に来慣れていない私と、よくここに来る彼。
彼の方が詳しいのは間違いないので、おとなしく彼についていきました。
今思えば、知り合ったばかりの相手(しかも異性)に警戒心があまりなかったので、もう少し気をつけていればよかった、と反省しています。
気がつけば、車は通っていますが、歩行者はあまりおらず、電灯が少なく薄暗い道に来ていました。
少し前を歩く彼がクルッと振り向き、
「キスしたい」
と言いました。
びっくりして、息が止まる私。
驚きましたが、私は、彼のことが好きなのではないかという想いと、初めて彼氏ができるかもしれないという、期待の想いでごちゃまぜになり、気がつくと頷いていました。
彼の唇がぶっきらぼうに私の唇に一瞬触れたかと思うと、すぐに離し、
「もう一回していい?」
と言われ、頷く暇もない間に2回目のキス。
そのあと、「抱きしめたい」と言われ、されるがままのハグ。
私を抱きしめる腕の力はとても強く、少し痛いくらいでした。
この時、私は
「男の人って、怖いんだ」
と感じてしまった瞬間でした。
私よりもガタイのいい、大きな身体。
腕の力が強いのは、私のことが好きだったり、愛おしいからではなく、
とめどなく溢れてくる欲望に、彼自身もどうしたらいいか分からず、とりあえず身を任せているのではないか、と思いました。
思っていたのと、なんだか違ったな。
「じゃあ、駅に行こうか」
彼は歩き始めました。彼の横を歩く私に、触れようとしている感じがしました。
私はなんとなく自分の腕で、彼の手が私の身体に触れないように阻止していました。
横断歩道を渡りながら、彼は衝撃的な一言を発しました。
「…ホテル行かない?」
その時、すごく苦しくなって、前が見えなくなりました。私とキスまでできたから、きっと強気で押せばいけると思っている。
彼はただの体目的だったのか。
…バカみたいな私。
ショックなのと、とにかく恐怖を覚えたので、慌てて首を横に振りました。
彼は落ち込んでる風でもなく、外の暗がりの中で、顔がほころんでいるような、少し嬉しそうな…そんな感じがして、私と彼の温度差を感じました。
そこで駅に着いて別れました。
5.恋の終わり
彼と別れたあと、彼からLINEが来ました。
こんな感じだったと思います。
今日は急にあんなことをしてごめんなさい。反省してます。
映画面白かったー!
彼から来たLINEを見て、謝る気があるのか、と意外に思うのと同時に、怒りが湧いてきました。
私の行動も軽率でした。
キスを拒めず、彼に、ホテルに行けるかもと思わせてしまった。
でも、私は自分の恋心をこんな形で踏み躙られたのがショックで、悲しくて、辛くて。
どうにかして彼に謝ってほしい。
と思っていました。
「少しでも悪かったと思う気持ちがあるなら、ちゃんと面と向かって謝ってほしいです。」
私がLINEを送ると、しばらくして彼からの返事。
ほんとにごめんなさい。○日なら空いてます。
まさかの、彼ともう一度会うことになったのです。
今の私なら、信用できない相手だし、わざわざまた会う必要もないと思っていたでしょうが…
当時の私は、彼にあんなことをされても、こんな形で終わるのが嫌で、せめて会って謝ってほしくて、それから終わりにしたいと必死でした。
彼も面倒に思って、LINEを無視したりドタキャンするかと思いきや、約束の日時にちゃんと現れたのです。
彼は彼なりに、やりすぎてしまった、と自責の念に駆られていたのかもしれません。
2回目のデート(デートかは微妙だけれど)も、8月の暑い時期でした。
12時頃に待ち合わせして、2人でお昼を食べることに。
ファーストフード店に入り、むしゃむしゃとハンバーガーを頬張る彼を見ながら、
私は一体いつ、彼が反省の態度を見せてくれるのだろう?今日は一体どんなつもりで私に会っているのだろう?と内心落ち着かない気分でいました。
その後、ファーストフード店を出た私たちは、カフェを探して歩いていました。
真夏でとにかく暑い日でした。
歩きながら彼が、
「暑くてちょっと疲れたから、ここで休んでいかない?」
指さしたのは漫画喫茶でした。
個室か…大丈夫かな、と思い、考えていると、「ちょっと休むだけだから」
と彼が少し具合悪そうに見えたので、漫画喫茶に入ることになりました。
ペアシートの個室に入りました。とても狭く、大人2人でやっとの広さです。入ってそれぞれ飲み物を取ってきて、部屋のシートに座るや否や、
彼が、
「ちょっと身体がだるいから、少し寄りかかってもいい?肩貸してほしい」
その言葉でもう、ダメでした。
やっぱりこの人は、そういうことしか考えてないのではないか。
私は怖くなり、勢いよく立ち上がりました。
彼の近くに寄るのも、怖くて。離れたいと思いました。
彼は確かに少し疲れたような様子ではあったので、本当に私に寄りかかりたいだけだったのかもしれません。
でもやっぱり、この前のことがあったから、彼のことを信用できなくなっていました。
ごめん、無理です。
私が言うと、彼は、
「じゃあ大丈夫」
と言い、私に大きな背中を向けました。
しばらくして、彼が「休んだから調子良くなった」と言ったため、漫画喫茶を出て、どこかに寄ることもなく家に帰りました。
家に帰ってから、記憶をたどり彼のTwitterを覗いてみました。
彼のTwitterを見つける私すごい…。笑
すると、今日の投稿が。
決めた。もうあの人と会うことはない!
私たちが漫画喫茶を出て直後に呟かれたものでした。
彼の指す「あの人」は私のことだ。
彼の中でも、私とは終わったんだ。
こうして、私の短い恋は終わりを告げました。
6.でも、無駄じゃなかった
彼とはそのような感じで会うことはなくなりましたが、学校の図書館で、彼がおすすめしていた小説を見つけました。
綿矢りささんの、「蹴りたい背中」
なんで彼がこの小説を薦めてくれたのか。
その理由はわかりません。
でも、王道な恋愛小説が元々大好きだった私には、独特な筆致で描かれるこの物語がとても新鮮で、面白く、あっという間に読み終えてしまいました。
「蹴りたい背中」を読むと、時々、あの彼を思い出します。
漫画喫茶で窮屈そうに大きな身体を縮こませていた、あの姿。
私に向けた、あの大きな背中を、私も主人公のハツのように…
あの背中に向かってでもいいから、思ったことをぶつけられていたら。
私が感じた想いを少しでも彼に伝えることができていたかもしれません。
7.最後に思うこと
当時はこの出来事が辛く、少しでも早く忘れたいと思っていました。
でも今は、いくらか大人になったからか、あの出来事があったからこそ、今の自分がある、同じ失敗はしなくてすんでいる、と思えています。
あの出来事があってからすぐに、良い人と巡り会えてお付き合いすることもありましたし、それから出会いや別れを繰り返して、今、素敵な人にも出会えています。
あの時、焦らなくてよかったと思います。
綿矢りささんの小説に出会えたことも、私にとっては大きな財産です。
彼と出会わなかったら、今でも綿矢さんの小説の良さに気づけていなかったかもしれません。
今では綿矢さんのほとんどの小説が家にあり、一番大好きな作家さんです!
綿矢さんのような小説を書けるようになりたい!作家になりたい!
上手な文章を書けるようになって、多くの人に読んでもらいたい。
そんな想いで今はいっぱいです。
この出会いは決して無駄じゃないし、なかったことにしようとしなくてもいい。
もう会うことはないけれど、彼が今どこかで幸せで居るといいな、と願う日々です。
思っていたより長くなってしまいましたが…
私のつまらない過去の恋愛をここまで読んでくださり、ありがとうございました!!
また投稿します!