【夏の香りに思いを馳せて】白球を追いかける~昭和60年あいつと俺の熱い夏
真夏の強い日差しがジリジリとグラウンドの中の俺達に向かって容赦なく照り付ける。だけど、今ここにいる者達はそんな事など気にも留めていない。今日は甲子園の決勝戦、長くて短い夏の最後の大勝負だ。どちらのチームも気合十分でやる気に満ち溢れている。
俺は一塁の守備に就きながら、マウンドの上に立つあいつをジッと見つめている。あいつは誰にも負けない本当に凄い奴だから、あいつに任せておけば大丈夫だといつも思っている。俺は地元で投げる事も打つ事も誰にも負けた事はなかった。そんな俺が投げる事で唯一負けを認めたのがあいつだった。
入学前の練習であいつの投げる球を見て、俺は早々に投げる事は諦めた。投げる事はあいつが極めればいい、そう思った。だから俺は打つ事と守備を極めようと誓った。あいつが投げて俺が打つ、それが二人の一番いいバランスだと思っている。
さすが甲子園の決勝戦、今日の試合は一進一退で展開が読めない。今までの試合とは全く違っていた。真夏の日差しも、この試合展開もジリジリとして痺れる。マウンド上のあいつは涼しい顔で一球一球を丁寧に投げ込んでいく。俺は飛んでくる打球を処理する。早く点を取って、あいつを楽にしてやりたい、そんな思いで一杯だった。
あろう事か相手チームに先制されてしまった。それでも、まだまだゲームは序盤だから来たチャンスは逃さないようにしよう。俺達の攻撃が始まった。塁上にはランナーがいる。俺はあいつの為になんとしても点を取ってやりたかった。絶対に点を取る、そんな気持ちで打席に立った。いい所に来た球を俺は思いきり降り抜いた。・・・入った!同点だ!追いついた!
ホームベースに戻ってきた時、あいつの嬉しそうな笑顔があった。「また点を取ってやるから、お前はいつも通り伸び伸び投げろ」そんな気持ちで、俺はあいつの方をジッと見た。
俺達は勝って当たり前だと思われている。チームメイト達も地元で優秀なやつばかりが入学してくる。だけど、そんな事で勝ち続けられるほど野球は甘くない。俺達は他の学校の誰よりも努力を重ねてきた。それだけは胸を張って言える。
そもそも、予選を勝ち抜くだけでもどれだけ大変な事か。正直、甲子園に出る為の予選の方が甲子園で勝つよりも難しい。そんな中、俺達は春夏合わせて5連続で出場できている。みんなはそれが当たり前だと、甲子園で優勝するのが当たり前だと思っている。けれども、それは決して当たり前ではない。
そして、俺とあいつの二人だけが注目されるが、俺達だけが凄い訳ではない。他のチームメイトも凄いやつばかりだ。野球はみんなの気持ちが一つになれないと勝つ事はできない。俺達のチームは強いんだという事をここで証明したい。絶対優勝して笑顔で夏を終わりたい。
その後、点を取ったり取られたり、シーソーゲームが続く。なんとか同点で迎えた9回裏。これで終わるのか、延長に入るのか、いったいどうなるのだろう。できれば、ここでスッキリ優勝を決めたい。
9回裏ツーアウト2塁。キャプテンが打席に入る。「絶対打ってくれよ!」そう願いを込めて声を出した。ベンチのチームメイトもスタンドのチームメイトや観客もキャプテンに声援を送った。その気持ちが通じたのか、キャプテンが打った打球はヒットになった。サヨナラだ。
俺達は勝ったんだ。優勝したんだ。
勝って当たり前だと思われ、負けるとなじられる。勝つ事は当たり前ではないのに、勝つ事を宿命付けられる。そんな宿命なんぞクソくらえだ。だけど、今日俺達は勝つ事ができた。最高のチームメイトと一緒に、そして最高のパートナーのあいつと一緒に。
長くて短い夏は、やっと終わった。まだまだ眩しい光を放つ太陽を見上げて俺は思う。この先、あいつともっともっと高い所でずっと一緒に野球をやりたいと。
ー終ー
あの時代、勝つ事を宿命づけられた彼らにこの歌を贈りたいなぁと思いました。
私は高校野球が好きです。
先日も、「曲から一句」で高校野球を題材にした句を詠みました。
私と同世代の方は、このショートショートがどの学校の誰の事を指しているのかお分かりの事だと思います。そんな彼らの、あの二人のあの夏の決勝戦を題材に書いてみました。
あの時代、勝って当たり前、阪神よりも強いなどと言われ続けた彼ら。そのチームの中でも特に目立っていた二人。
この試合をリアルタイムでテレビ観戦していました。家族は誰もいなくて、一人留守番をしていた暑い真夏の昼下がり。
試合後、私は感極まって泣いてしまった思い出があります。
よく考えたら、激戦区大阪において5期連続で甲子園に出る事は当たり前ではありません。それなのに、私も含めた見る者はそんな事は当たり前だと思っていました。
そんな重圧をはねのけて、優勝で終わったPL学園の皆さんです。
ほんと、宿命なんてクソくらえ、ですよね。
この試合の後、大人の事情が二人を苦しめ続けましたね。
プロになっても、いろいろな事があった二人でした。
だけど。それでも。
やっぱり、あの時代の二人は私にとって、高校野球のヒーローだった事には違いありません。あの時代、リアルタイムで二人の、彼らの野球を見る事ができた事は、この上なく幸せな事だと思っています。
なんか、ショートショートを書きながら、この後書きを書きながら、涙が浮かびます。ここで宿命を聴いたら、もう大号泣不可避です。
あの決勝戦のあった、昭和60年のヒット曲達です。
この夏は、忘れられない悲しい出来事もありましたね・・・。
今回、こちらの企画「夏の香りに思いを馳せて」に参加します。
おかわりの今回は、青春部門です!
xuさん、riraさん。またまたよろしくお願いします(*'ω'*)
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪
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