【企画参加】林檎を食べたら
風変わりなおばあさんから貰った林檎にさっくりと包丁を入れると、瑞々しくて爽やかな香りがした。おばあさんは8等分に切って食べると8回生まれ変われると言っていた。
私は8等分にして塩水に浸けた林檎を半信半疑で食べてみた。どうせこの世で生きていても何もかも上手くいかないし、生まれ変われるならその方がいい。
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目が覚めると、私は売れっ子のアイドルになっていた。
売れっ子は朝から夜中まで忙しい。常にスタジオにいるか移動の車中で、忙しい事この上ない。見た目が大事なので、体重コントロールは当たり前で食事もロクに取れやしない。それに、常にファンや周りを気遣い言いたい事も言えないし、ストレスがたまる一方だ。周りの大人に言われるまま操り人形のように生きる私は、いつしか感情を無くしていた。
私は林檎を食べると、衝動的にマンション屋上の柵を乗り越えた……
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目が覚めると、今度は日本有数の進学校で1番を取る生徒になっていた。
授業をサラッと聞くだけで、勉強は苦労せずとも理解できてしまう。そのうえスポーツもでき、顔も可愛い。勉強が楽に理解できるのは、こんなに楽しい事なのだと初めて分かった。
だけど、私は底意地の悪い生徒だった。自分で手を下さずに、子分を使い陰湿ないじめをするような奴だった。いじめられている子の目は、かつての自分がしていた目と同じだった。
私は林檎を食べて、夜遅くに散歩がてらコンビニに向かう途中の道でいじめていた子に大通りへと思いきり体当たりされた。
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目が覚めると、私は女性初の総理大臣になっていた。
この国を良くする為に身を粉にして仕事をする。国民の声を拾い、国民の幸せを願い、それを政策にしていく。そんな理想を持っていた。
けれど、総理大臣はまるでお飾りのようだった。実際は官僚達や重鎮の議員達がこの国を動かしているも同然だった。私は、昔から「神輿は軽くてパーがいい」と言われていた事を思い出した。
だんだん虚しさの募る中、国際的な紛争が起きこの国も巻き込まれていった。この非常事態でもそれぞれの既得利益を考える連中にはほとほと嫌気がさす。やがて、世界中のトップが押してはならないボタンを押したとの一報が入る。
私は執務室に一人入り、押してはならないボタンに指を置いた。もうこのまま生まれ変わらなくても構わないと思いながら。
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目が覚めた私は、いつもの部屋のいつものベッドの中にいた。
いつもと変わらない部屋、いつもと変わらない街並み、そしていつもと変わらない日常がそこにはあった。
キッチンには食べ掛けの林檎が残っていたけど、ビニール袋にそれを入れて口をきつく縛るとゴミ箱の底の方に捨てた。冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出し、グラスに注ぐ。テーブルに映るグラスの揺らぐ光を見ながら私は思う。
生まれ変わらなくても、私は私でいいじゃない。この平凡な毎日も悪くないよね。ほんの少しだけ動いてみれば、そこから新しい私に変わっていける。自分を愛して幸せにできるのは、誰でもなく私自身しかいないのだから。
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テルテルてる子さんの企画に参加しました💛
てるちゃんのお友達、最近ずっと調子が悪いそうなんです。
それで、お友達を元気にしてあげたくて、小説を募集なさっているんです。
この曲と動画の世界観をイメージした500~1000文字程度でハッピーエンドの小説です。
元気のないお友達、心配ですね。
そんなてるちゃんのやさしい気持ちに、私も力になりたいなと思いました。
最後はめちゃハッピー!!という訳ではありませんが、じんわりと希望が見出せる感じに仕上げました。
てるちゃん、こんな感じでいかがでしょうか。
良かったら、お友達にお届けくださいね😊
お友達が元気になりますように💕
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪