【シロクマ文芸部】海砂糖をひとかけら
海砂糖の実から作られる砂糖は恋が長く続く砂糖として大人気だ。その砂糖を求め、遠方からも紗矢の店にはカップル達が訪れる。目の前の海のそばに自生する海砂糖の実は海の様な青い色をしていて、この実から作られる砂糖は、甘くて少ししょっぱくて青い色をしている。
海砂糖の実は自生しているのだから、この実を使えば誰でも砂糖が作れそうなものだが、恋が続く効果が得られるのは紗矢が作る砂糖だけなのだ。紗矢には本人が自覚していない不思議な力がある様だ。
今日も朝からこの砂糖を求めカップルがやって来た。二人は、まるでアクアマリンのような海砂糖の塊がふたつ入った袋を手にレジへやって来た。紗矢は二人に海砂糖を食べる時の心構えを話した。
「いい?この海砂糖は軽い気持ちで食べるものではないの。恋が愛に変わってもいいっていう人と食べるのよ。愛は海と同じなの。穏やかな時もあれば、激しくうねる時もある。夏の海のようにキラキラと楽しい時もあれば、冬の海のように寒くて厳しくて辛い時もある。愛は深く深くお互いを想う気持ちを湛えていくものなの。その覚悟があるのなら、この海砂糖をあなた達にお譲りします」
「今までに、海砂糖を売らなかった事ってあるんですか?」
「ありますよ。むしろ売らない事が多いのかもしれないわ」
紗矢の言葉に二人は顔を見合わせた。そして、お互い笑顔を浮かべてうなずいた。
「お話、よく分かりました。僕達に海砂糖を分けて頂けますか?」
「あなた達なら大丈夫そうね。海砂糖をお譲りします。二人でひとかけらずつ食べて下さいね」
「ありがとうございます!僕達、ずっと一緒にいます」
午後3時を過ぎた頃、紗矢は休憩しようとマグカップにコーヒーを注いだ。そこへ牛乳を入れてごくんと一口飲んだ。今日はよく晴れていて、穏やかな海はキラキラと輝いている。海を見ながら、最近知り合った人の事を思い浮かべていた。紗矢の1歳上のその人とは偶然に出会ったけれど、その人の事が気になって仕方がなかった。穏やかで包容力のあるその人は、初めて出会った時からどこか懐かしい様な、会った事がある様なそんな気がしてならなかった。
しばらくすると、店のドアが開きドアベルが“カランコロン”と優しい音色を響かせた。
「いらっしゃいませ。あら、斉藤さん」
紗矢は目の前の斉藤を見て目を丸くした。斉藤というのは今まさに紗矢が頭に思い浮かべていた男性だった。紗矢は斉藤を見て、心臓がドキドキとしてきたのを感じた。斉藤は、紗矢を見つめると微笑みながら口を開いた。
「紗矢さん。今日はこのお店の海砂糖を買いに来ました」
その斉藤の言葉に紗矢は少し表情を曇らせた。けれど、それを悟られないように
「海砂糖を贈りたい方がいらっしゃるのですね。この砂糖は誰にでもお譲りする事はできませんが、よろしいでしょうか」
と必死に言葉を絞り出した。斉藤は紗矢を見つめて笑顔を浮かべた。
「紗矢さん。私にはその資格があると思いますよ。だって、私が一緒に海砂糖を食べたいのは紗矢さん、あなただからです」
「え、私、なんですか?」
戸惑う紗矢に斉藤は言葉を続ける。
「初めてあなたに会った時から私はずっとあなたの事が頭から離れませんでした。どこかで出会った様な気がして必死に記憶を探りました。私は、あなたが好きです。これから、二人で未来を生きていきませんか」
「斉藤さん、私も同じ事を思っていました。なぜか初めて会った気がしなくて、ずっとあなたの事が頭から離れなくて」
何という事だろう。彼も同じ気持ちでいたなんて。
少し顔を赤らめた紗矢は、二人で海砂糖を食べるためにコーヒーを淹れにキッチンへ向かった。
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小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加します⭐
今週のお題は「海砂糖」です。
海砂糖・・・かわいらしくて、ちょっとロマンティックですよね。
だけど、この言葉で創作をするというのも難しいですね~💦
海砂で検索してみたりなんかしてw
そしたら、海砂利水魚が出てきて笑ってしまいました🤣
アクアマリンみたいな海砂糖の塊、見た目のイメージは琥珀糖で、食感は黒砂糖で味は甘さの中に少しの塩味って感じの設定です。
ちょっと不思議な海砂糖のお話にソウルメイト系のお話を入れ込んじゃいました💕
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪
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