紫苑
何も言えずに立ち尽くした僕。
君は首を傾げて尋ねたけど、
喉まで来た言葉を上手く吐き出せない。
何も言えずに先を見つめた。
君はいつも通りにする。
どれだけ待てども届かない言葉は
伝わらないから仕方ない。
何も言わずに佇んだ君。
僕は不思議そうに話しかけても、
そのまま一人で行ってしまう。
静かに歩く道のり。
君が後ろで囁く一言。
継ぎ接ぎで聞こえない声は
何度繰り返しても二度と帰らない。
踏み出せずに座り込んだ僕。
気づかれないように流した涙は
拭えないまま消えた。
不恰好に丸めた背中。
押し殺して消えた息。
このまま忘れてしまいたい。
大切なことすら思い出せずに。
顔を下に俯いた君。
強く握りしめられた手から
ずっとため込んだ感情が泣き喚いていた。
手を掴もうとした。
空を切って遠くに行く。
引き止めても進んでしまう。
きっと明日もまた同じように。