うめざわしゅんという世界
まず断っておきたいのが、この本、圧倒的な表紙詐欺である。
初めてこの本を見つけたとき、表紙だけを見て著者の名前を見なかったのがいけなかった。
だからこの本の作者がうめざわしゅん先生だと気づくのに約一年八ヶ月もかかってしまっていた。
ここでもう彼の思惑にまんまとハマってしまっていたわけだ。萌え系の絵に対する偏見だものな。反省。
うめざわしゅん先生の存在を知ったきっかけは『パンティストッキングのような空の下』だ。二〇一五年くらいだったか。初めて読んだとき、衝撃を受けた。
短編集なのだが、読んでいると、そのどれもが人間の汚くて臭い内面の部分を浮き彫りにしていく感覚、その描写があまりにもリアルでだけど切ない。だから嫌悪感は感じながらも読む手は止まらなかった。どの登場人物に対しても、共感などできるはずもないのにどこか魅力を感じてしまうのは、うめざわしゅん先生がご自身の身を削って登場人物を作り出してるからだと思う。
私はこの本で一気に心を掴まれ、前作の『ユートピズ』、『ピンキーは二度ベルを鳴らす』も読み、すっかりファンになっていた。
そこで約四,五年の空白を経て、今作『えれほん』を読んだ。
やはり、圧倒的だった。言うならば、近未来SF系ディストピア短編集となるだろうか(日本語としては多分合ってない)。
序盤、私は一体何を見せられているのだろうと少し不安になったりもするが、次第に物語の流れを掴めてきたら最後、もう引き返せない。まず複雑過ぎる設定に対する抜け目のなさと、展開の裏切りやスピード感、そして文句の付け所のない着地点。
複雑過ぎるディストピアたる世界で、美しくも残酷な物語。これぞ、「天国で見る悪夢」(腰巻参照)。
一見めちゃくちゃに見える設定の中に確かにある哲学。
うめざわしゅん先生は漫画界の筒井康隆先生と言っても差し支えないのではないかとさえ思う。
とまぁ読んですぐに殴り書きしているが、正直もう一度全部読まないと物語の全てを理解することは難しいだろう。それほどに、コマの一つ一つにあらゆる情報が詰まっていて目が離せない。
一応今作のそれぞれのテーマだけ載せておく。
まず三つの編は、ディストピアを前提として、
ルッキズムや自由恋愛をテーマにした「善き人のためのクシーノ」
知的財産や表現の自由をテーマにした「かいぞくたちのいるところ」
個人の尊厳や妊娠出産中絶をテーマにした「もう人間」
そして、一転してテイストは変わるが
藤子不二雄タッチの絵で展開される政治や社会問題をテーマにした「Nowhere」
の三編+一編からなる。
これ以上どう説明にていいかわからないから、実際に手に取って読んでいただきたいと切に思う。理屈では語れない面白さがそこにはあるはずだ。
興奮が覚めやらず、眠りにつけるか不安だ。
おやすみなさい。三時です