ざわざわにたまたま
気持ちがざわざわして落ち着かなかったり、自分では解決できない不安の波がやってきたとき、私なりの対処法がいくつかあるのですが、そのうちのひとつに「野菜や果物を刻む」というのがあります。
江國香織さんの『ねぎを刻む』という作品にも、主人公の女性が孤独と向き合うためにねぎを刻むシーンが出てきます。あれ、すごくわかるなあ。
「刻む」という手仕事の効果。そしてそれを食べちゃう。野菜を刻んだぐらいで事態は何も変わらないけど、日常に組み込まれたその一連の作業で自分を整える。何かを取り戻す。
私も家族も家にいることが多くなったので、台所に立つ時間も増えました。
具だくさんのスープや、煮物をどかっと作っています。
少し前ですが、普段使わないちょっと遠くのスーパーで出会った宮崎県産のきんかん。
「たまたま」というブランドだそうです。
「情熱!みやざき」というキャッチフレーズに、思わずカゴに入れました。
ネットで調べてみたら、宮崎県はきんかんの生産量が日本一で、全国の60パーセント以上。「たまたま」という名前は、「美味しいきんかんは、偶然たまたまにしか成らない」ところからきているそうです。樹上で完熟させたきんかんは大きく甘く、生で丸かじりできるのだとか。
帰宅して、さっそくひとつ、がぶっと丸かじり。
おいしいー! みずみずしくて、個人的には皮の部分が好き!
スナック感覚でつまめるサイズもいいです。
ひと袋で意外にたくさん入っていたので、半分、蜂蜜漬けを作ることにしました。まな板の上にオレンジ色の球体をのせて、さくさく、さくさく……刻む刻む刻む。
この可愛くて丸い、良いにおいのする果物は、宮崎で育って、宮崎からやってきたんだな。まだ見ぬ明るい地へ想いを馳せ、恵みを受け取ります。
一晩漬けこんで、しっとり甘く。
また食べたいと思ったものの最寄りスーパーには売られておらず、再びその遠くのスーパーまで行ってみたのですが、もう販売されていませんでした。お店に置かれるのはほんのいっときのことだったようで、まさに、たまたま遭遇したんだと実感。
日に日に、緊張感が高まる中、
「ポジティブにいきましょう!」とばかり言っていられない状況で、つらいニュースばかりが続いて……。
それでも私たちは、毎日、食べて、眠る。誰かを想う。何かを願う。
大声で笑えなくても、せめて、ほほえむことのできる時間を大切に持とうと思います。
いつもより、ほんの少しだけ強く。