故郷を思い出すと泣きそうになる
「この街がすき」というテーマを見て、一番に思い浮かんだのは自分が生まれ育った「沼津」という街です。
沼津が好きです。でも、そこに思いを馳せると、胸がきゅーっと苦しくなる。この感情は一体なんなのでしょうか。
今日はその話を書いてみたいと思います。
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「静岡県沼津市」という街は、
とてもバランスの良い街だと思います。
東京や神奈川に比べたら田舎だけど
住むには十分すぎるぐらい発展している。
駅ビルもイトーヨーカドーもあるし、JR東海道線まで止まるのです。
それでいて、海も川も山も、自然と呼ばれる場所には大体自転車でいくことができます。
千本浜という海岸に行けば、海と空に映える富士山がいっぺんに望めるし、
堤防や防波堤に腰掛ければ、川の流れや寄せる波を見ながらいつまでもおしゃべりができる。
都会に出て初めて、こういった環境はとても恵まれていたのだと知りました。
ご飯はお魚が絶品です。
同居していた母方の祖母は、懇意にしている小さなお魚屋さんでいつも新鮮なお刺身を仕入れてきました。
給食の献立にはパリパリの鯵の干物や桜海老の混ぜご飯が並びます。
甘い果汁がジュワッと溢れる名産の三日日みかんをもらうこともありました。
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こんなに素敵なところばかりが思い浮かぶのに、思い出すと泣きたくなってしまうのはなぜなんでしょう。
風景を思い浮かべると、紐づいた自分の思い出が映画のように交互に頭の中に浮かんできます。
例えば、初日の出を見に家族で近所の山に登ったこと。
ダウンやニット帽をこれでもかと着させられて、暗い山道を歩く高揚感。
母親が水筒に入れてくれた甘すぎるミルクティーのこと。
例えば、初めて付き合った男の子。
お互いクラスメイトに見られるのが恥ずかしくて、早朝の暗い千本浜が明るくなるまでおしゃべりしたこと。
彼に振られた時のこの世の終わりのような気持ち。
例えば、習字の先生をしていた祖母。
祖母が持って帰ってくる、紙に包まれたお刺身。みかんの食べ過ぎで蜜柑色に染まった手で、筆の運びを教えてくれたこと。
そして小学校の授業中に「すぐにおばあちゃんの病院に行きなさい」と呼ばれた時の気持ち。
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沼津の風景に思いを巡らせると、いろんな気持ちがごちゃごちゃに流れ込んでくる。
そして、気づくと鼻の奥がつーんと痛くて、涙が出そうになってしまうのです。
これは「郷愁」という感情なんでしょうか。
「異郷からふるさとを懐かしむ」という定義に照らすと何かが違うような感じがするのだけど、この感情に名前はあるのかな。
戻りたいけど、戻りたくない。
思い出したいけど、思い出したくない。
故郷の風景はあまりに自分の思い出が強く投影されていて、
今の自分は思い出すと何だかそんな気分になってしまいます。
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お読みいただき、ありがとうございました。