やなせたかしさんの明日をひらく言葉は甘いパンみたい
初めてやなせたかしさんの本を読みました。
「やなせたかし 明日をひらく言葉」。
PHP文庫から出版されたエッセイ本です。
本を読んでこんなに満たされた、甘い気持ちになったのは久しぶり。
この本のことを書いてみたいと思います。
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アマゾンプライムの読み放題リストをスクロールしていたら、この表紙が目に止まりました。
ダンボールみたいな色。
ゆるいアンパンマンやクリームパンダの前世みたいなキャラクターに囲まれて漫画を描く、やなせさんらしき男性。
なんだかこの表紙。ほっとするなあ。
気づいた時には指がダウンロードボタンをタップしていました。
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本の中には、やなせさんの人生の出来事、それに対して感じたこと、学んだことが丁寧に綴られています。
あれほどの人なのに、書かれている感情は、どちらかというとコンプレックスや謙遜、羨望が多い。
ハンサムで足の速い弟との違い。
漫画家として、天才鬼才へ憧れ。
人気の出ない自身への焦り。
そういった内容が、驚くほど読みやすく、ユーモラスに描かれています。
例えば、容姿について書かれた一節はこうです。
イケメンでなくて本当によかった。人並み以上の容姿に生まれついたら、この性格では、仕事なんかそっちのけで羽目をはずし、人生の軌道を大きくはずれてしまった可能性大である。それを抑制するために、神様が容姿風貌を制限されたのだと、大いに感謝しなくてはいけない。
執筆当時のやなせさんは90歳。
どう見てもこんなの、現役バリバリの人気漫画家が書いた文章みたいです。
誰にでも分かる、平易な単語や言い回し。
でもユーモアがあって、美しく、抒情的。なんて面白いんだろう!
そんなふうに感動しながら、わたしはあれよあれよとやなせさんのエッセイにのめり込んで行きました。
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エッセイは面白いだけではありません。
ユーモアの合間にぽつぽつと語られるやなせさん自身の学びは、個人的なことであるはずなのに、わたし自身に語りかけているようです。
人は、人がよろこんで笑う声を聞くのが一番うれしい、とか。
お腹をすかせて、一杯のラーメンがとてもおいしければ、それは本物の幸福だ、とか。
心に取っておきたいなあと思うような言葉をたくさんもらいました。
その中で、今のわたしにとっていちばんキラキラとして見えたのはこの言葉です。
懸命に生きるとは、大好きなことをする、人を一心に愛する、ということに尽きる。何が大好きで、誰を愛するのかがわかるまでは、あちこち歩き回り、たくさんのものを見ることだ。
「変わりたい」という記事を書いた時、同じように「好きなものを考えてみたら?」と言ってくれた方がいました。
好きなものを探して、懸命に生きる。
どうやら自分がやっていくべきことは、やっぱりそういうことらしい。
そのことをあらためて気付かせてくれたのです。
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読み終わった後、空が晴れて、心が満たされたような気持ちがしました。
啓発的な感じではなく、人の心の中を読んでいるだけなのにこういう感覚になるのは不思議です。
やなせさんは自分の文章への向き合い方について、こう書いています。
疲れたときに甘いものがほしくなるように、心も甘いものを求めるときがある。そんなときに読む詩、そんな詩をつくってきたのだ。
ああ、まさにそうかも。
あんぱんと牛乳を口いっぱい頬張って食べた時。満たされて、幸せな、そんな気持ちかもしれません。
好きなものを探す。そして、夢は大きく。
こういう文章を生み出せるような人になりたいなあと感じました。
—『やなせたかし 明日をひらく言葉 PHP文庫』PHP研究所著
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