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ガースケのお宝。(1)

「カー、カー、カー」

よろず神社のうらの雑木林から、カラスたちのなき声がきこえます。ここはカラスたちの秘密基地です。寒くなるとカラスは、一旦ここに集まって、みんなそろってから山のねぐらに向かうのです。バタバタ、バタバタ。西の空がオレンジ色に染まるころ、黒いかげが次々と雑木林にむかって舞いおりてきます。

リーダーガラスが、なかまの数を確認します。
「一、二、三、四、…八。よーし、全員しゅうごうだ」
点呼がおわると、ねぐらにもどる前のしばしの時間、お宝の見せ合いっこがはじまります。カラスたちは好奇心がおうせいで、自分のお宝をじまんするのも大好きなのです。

「あーあ、今日は大したえものがなかったよ」
「おれは、いいもの手に入れたぜ」

ガラスの破片に、くちゃくちゃのアルミハク、クマの形をしたピンクのグミ。光るもの、めずらしいもの、匂いの強いもの。よーく観察して、危険がないと判断すると、彼らはくちばしにはさめるものなら何でもぬすんでくるのです。

「これをみてみろよ。魚屋の大将が目をはなしたすきに、台の上にならんでた粋のいいやつを、ひょいとつまみあげてきたぜ」
一番大きな兄さんガラスが、もちかえった魚をドシンと地面にたたきつけました。
「うわあ、すごい。さすがは力もちの兄さんガラスだ。えものの大きさがちがうなあ」
カラスたちがどよめきます。

「ふふふ、これ見てよ。なんだか分かる?」
こちらは、しっかりものの姉さんガラスです。くちばしの先につまんでいるのは、黄色くて、まるくて、ふわふわしたもの。小さなふうせん?年下のカラスたちは首を右に左にかたむけて考えています。だれもこたえが分かりません。

「ホッホッホ」
年よりガラスが、高笑いしました。
「これはこれは、めずらしい菓子じゃのう。シュークリームじゃわい」
うすくてやわらかい皮の中に、トロ〜リとろけるクリームがたっぷりつまった、人間たちが大好きなおやつだそうです。

「さっそく味見してみるわね」
姉ガラスは、なかまたちの目の前で、くちばしのまわりにクリームをべっとりつけながら、シュークリームをカプン、カプンとたいらげていきます。若いカラスたちは、うらやましくて、のどをゴックン、ゴックンならします。

「さいごはガースケだ。おまえは何をとってきた?」
リーダーガラスによばれて、ガースケはモジモジしながら、なかまの前にすすみ出ました。黒いくちばしの先には、何も見当たりません。

「おいら、なんにもとってこれなかった」
「なんだよ。このごろは、ガースケがぬすんでくるのを見てないぞ」
「ダメなやつだなあ」
「カラスとしてのプライドってもんがないのか」
チッチッチッ。なかまたちは、バカにしておしりをふりました。

「ガースケ、もっとカラスらしく、正々堂々とお宝をぬすんでこいよ。しゅぎょうがたりないぞ」
リーダーガラスがそう言うと、ガースケをひとり残し、みんなはねぐらへと飛び立っていきました。

「おいらだって、おいらだって…」

ガースケは声にならない声をのどにつまらせたまま、しょんぼりとうなだれました。ガースケは、ものをぬすむのが得意ではありません。人間が話していることをいつも聞いているからです。

公園に遊びにくる子どもたちは、しょっちゅう、おもちゃを取り合ってケンカをします。するとお母さんたちは、きまってこう言うのです。

「人のものを、勝手にとってはいけません」

ものをぬすんだら叱られるんじゃないか。そう思うとガースケはこわいのです。残念なことに、ガースケは他のカラスたちより、ほんの少しこわがりで、ほんの少しおっちょこちょいなカラスでした。

「はあ。どうやったら、みんなのようにお宝を持ちかえることができるんだろう」


(つづく)




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宮本松
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